「端的に言うと、だ。『雲雀を出せ、出せねーなら代わりに金を出せ』、以上」
……一瞬、言われていることの意味が分からなかった。怪訝とおりこしてきょとんと目を丸くしたまま、蛍さんを見上げてしまう。その視線は一瞬私を見たけど、すぐに外された。
そして先輩達は一斉に雲雀くんを見ていた。雲雀くんは拝殿前の階段に座り直し、頬杖をついている。
「……夏祭りの件すか」
「ご明察」
夏祭りの件──雲雀くんを出せということは深緋が絡んだあの騒動。でも雲雀くんが狙い撃ちされるということは──そうだ、私を襲った2人だけ白聖高校の生徒だと能勢さんが言っていたんだった。そして白聖高校にいるのは黒烏。そのリーダーの名前も桜井くんが口にしているのを聞いたことがある、春日だ。つまり黒烏のリーダーが群青のリーダーに接触してきた……。
「あー、知らないヤツいないと思うけど、一応言っとくね」
死体となっていた九十三先輩は身軽に跳ね起きて立ち上がり、ティシャツの泥を落としながら、ワイシャツを拾い上げる。
「8月、紅鳶神社前の夏祭りの日、俺らと夏祭り行ったヤツは駅前で深緋に襲われたよね? 実はその裏で、黒烏の2人組に三国ちゃんが襲われてましたー」
言葉で記憶がフラッシュバックする。頭の中のメモリーから強制的に引き出されたその光景のせいで当時の恐怖まで呼び起こされた気がして、心臓が凍り付くような悪寒が走った。
その感覚の中で、ぽんぽん、と背中を軽く叩かれる。それが手のひらだと気付くのに少し時間がかかった。そしてその体温で、頭の中の光景がただの記憶だと気が付く。手に促されるようにして、静かに息を吸って、吐き出した。
「俺、現場いましたけど、あれ俺らがなんか悪いんすか?」
私がそんな有様に陥っている中、やや乱暴な口調で返事をしたのは常盤先輩だった。
「三国襲ったお前らが悪イだろって話じゃないすか。それが雲雀を出せってどういうことで?」
「あー、まさしく常盤のいうとおり。三国悪いな、もう少し説明する」蛍さんが一言だけ断りを入れるから何かと思ったら「俺らと関係なく夏祭り行ってた三国が2人組に拉致られて、んで犯されかけた。駆け付けた雲雀がその2人組をぶち殺そうとしたわけだが、まあ当然っちゃ当然だな。んでソイツらは黒烏のメンバーで、片方は全治2ヶ月超の大怪我だ」
……そうか、最初に私に一瞥を寄越したのも、あの夜の出来事は軽々に口に出していいことじゃないと、蛍さんは思ってくれているのか……。
じわりと、安堵と疑念の入り混じった感情が、胸に広がる。九十三先輩のいうとおり、蛍さんは私を大事に扱ってくれるけれど、この人は、本当に私達の──私の、味方なのか?
「だから? 犯そうとしてやり返されたから金払えって普通に意味分かんないっしょ」
「それがねー、黒烏の連中は三国ちゃんを襲ったってことをきっぱりはっきり否定してんのさ」
「え……?」
自分にしか聞こえないくらい小さくか細い声が出た。同時に、先輩達が今度は一斉に私を見た。
その目に宿っているのが、同情心なのか猜疑心なのか、私には分からなかった。
「オイ、話してんのは俺だぞ、こっち向きな」
……一瞬、言われていることの意味が分からなかった。怪訝とおりこしてきょとんと目を丸くしたまま、蛍さんを見上げてしまう。その視線は一瞬私を見たけど、すぐに外された。
そして先輩達は一斉に雲雀くんを見ていた。雲雀くんは拝殿前の階段に座り直し、頬杖をついている。
「……夏祭りの件すか」
「ご明察」
夏祭りの件──雲雀くんを出せということは深緋が絡んだあの騒動。でも雲雀くんが狙い撃ちされるということは──そうだ、私を襲った2人だけ白聖高校の生徒だと能勢さんが言っていたんだった。そして白聖高校にいるのは黒烏。そのリーダーの名前も桜井くんが口にしているのを聞いたことがある、春日だ。つまり黒烏のリーダーが群青のリーダーに接触してきた……。
「あー、知らないヤツいないと思うけど、一応言っとくね」
死体となっていた九十三先輩は身軽に跳ね起きて立ち上がり、ティシャツの泥を落としながら、ワイシャツを拾い上げる。
「8月、紅鳶神社前の夏祭りの日、俺らと夏祭り行ったヤツは駅前で深緋に襲われたよね? 実はその裏で、黒烏の2人組に三国ちゃんが襲われてましたー」
言葉で記憶がフラッシュバックする。頭の中のメモリーから強制的に引き出されたその光景のせいで当時の恐怖まで呼び起こされた気がして、心臓が凍り付くような悪寒が走った。
その感覚の中で、ぽんぽん、と背中を軽く叩かれる。それが手のひらだと気付くのに少し時間がかかった。そしてその体温で、頭の中の光景がただの記憶だと気が付く。手に促されるようにして、静かに息を吸って、吐き出した。
「俺、現場いましたけど、あれ俺らがなんか悪いんすか?」
私がそんな有様に陥っている中、やや乱暴な口調で返事をしたのは常盤先輩だった。
「三国襲ったお前らが悪イだろって話じゃないすか。それが雲雀を出せってどういうことで?」
「あー、まさしく常盤のいうとおり。三国悪いな、もう少し説明する」蛍さんが一言だけ断りを入れるから何かと思ったら「俺らと関係なく夏祭り行ってた三国が2人組に拉致られて、んで犯されかけた。駆け付けた雲雀がその2人組をぶち殺そうとしたわけだが、まあ当然っちゃ当然だな。んでソイツらは黒烏のメンバーで、片方は全治2ヶ月超の大怪我だ」
……そうか、最初に私に一瞥を寄越したのも、あの夜の出来事は軽々に口に出していいことじゃないと、蛍さんは思ってくれているのか……。
じわりと、安堵と疑念の入り混じった感情が、胸に広がる。九十三先輩のいうとおり、蛍さんは私を大事に扱ってくれるけれど、この人は、本当に私達の──私の、味方なのか?
「だから? 犯そうとしてやり返されたから金払えって普通に意味分かんないっしょ」
「それがねー、黒烏の連中は三国ちゃんを襲ったってことをきっぱりはっきり否定してんのさ」
「え……?」
自分にしか聞こえないくらい小さくか細い声が出た。同時に、先輩達が今度は一斉に私を見た。
その目に宿っているのが、同情心なのか猜疑心なのか、私には分からなかった。
「オイ、話してんのは俺だぞ、こっち向きな」



