雲雀くんと新庄だって、元は100円貸してが塵も積もって度が過ぎてカツアゲみたいになったんじゃないっけ? というか、彼氏と彼女の財布事情ってどうなるんだろう? 陽菜は彼氏に奢ってほしいなんて言ってたっけ。でも親からのお小遣いで遊んでる私達にそんな概念は通用しないんじゃないのかな? 合理的に考えて、お互いにお互いのお小遣いの範囲で遊べばそれでいいんじゃないかな?
「確かに、三国はそういうの苦手そうだな」
2つめのミルクバニラを取り出しながら、まるで心を読みでもしたかのように雲雀くんは苦笑した。
「んじゃ今度俺にミルクバニラ買って」
「……雲雀くんにミルクバニラ買うって字面、可愛いね」
「馬鹿にすんなよ」
茶化したけど、きっと私は気持ちよく奢って奢られを上手くできないからよかった。ホッと安堵しながら、能勢さんが「雲雀くんがベスト」と言ったことを思い出す。確かに、雲雀くんは話が早いし、こうやって私を見透かしてくれるのは楽だ。
「……イジメ過ぎちゃったって。反省してたよ、能勢さん」
「してねーだろ、あの人。まだイケるイケるって絶対思ってる」
……まあ、そうか、そうなんだろうな。能勢さんも九十三先輩も、そういう距離を保つのが上手な人だから。今度は私が苦笑してしまう番だった。
ミルクバニラの紙パックにストローを挿して、そのまま壁に背を預けて口をつける。雲雀くんはそのままそこに座り込んで口をつけた。
沈黙が落ちた。家に帰るわけでもない、誰かと合流するわけでもない、次の授業が待っているわけでもない、無期限無制約のふたりきりの時間は、付き合ってから初めてだった。冷たい紙パックを持つ手は、結露に冷やされなければ汗ばんでいただろう。そのくらい、緊張してしまっていた。
「……先輩らに言ったほうがいいかもな」
「……なにを?」
そのせいで、頭が上手く回らなかった。首を傾げれば「……お試し期間ですって」少し言い辛そうなトーンで返事がきた。
それなら先輩達も遠慮して、キスをするなだのなんだのは言わないだろう、きっと雲雀くんはそう言いたいのだ。それはそうかもしれない。それは雲雀くんの片思いだと公言するようなものだから、さすがの先輩達も気にかけてくれるだろう。
ただ付き合っているという状態に違いはないのに「お試し期間」なんて公言するのは、どうにも釈然としない。もちろん、自分の中で明確に雲雀くんへの感情の答えが出たわけではないけれど……。
「……これは私の勝手な感情なんだけど……あんまり雲雀くんとの付き合いを“お試し”みたいな言い方はしたくないかな……」
「……なんで?」
きょとりと、今度は雲雀くんが首を傾げる番だ。でも私の中でもその理由は明確ではない。つい、紙パックを持っていないほうの手でスカートの裾を握りしめてしまう。
「……上手く言えないんだけど、その……なんか、お試し期間なんていうと、好きになれるかどうか試してるみたいっていうか……」
「……実際そうじゃね」
「え、違うよ。え、いや、違わないのかもしれないけど……なんていうか……」
好きになれるかどうかを試すために付き合ってるわけではなく、私は雲雀くんならきっと好きになると思ったわけで……。
「……なんか、傲慢じゃないかな、そういうの……」
「……でも俺はあわよくば三国と付き合おうと思ってああいう言い方をしたわけだし」
「確かに、三国はそういうの苦手そうだな」
2つめのミルクバニラを取り出しながら、まるで心を読みでもしたかのように雲雀くんは苦笑した。
「んじゃ今度俺にミルクバニラ買って」
「……雲雀くんにミルクバニラ買うって字面、可愛いね」
「馬鹿にすんなよ」
茶化したけど、きっと私は気持ちよく奢って奢られを上手くできないからよかった。ホッと安堵しながら、能勢さんが「雲雀くんがベスト」と言ったことを思い出す。確かに、雲雀くんは話が早いし、こうやって私を見透かしてくれるのは楽だ。
「……イジメ過ぎちゃったって。反省してたよ、能勢さん」
「してねーだろ、あの人。まだイケるイケるって絶対思ってる」
……まあ、そうか、そうなんだろうな。能勢さんも九十三先輩も、そういう距離を保つのが上手な人だから。今度は私が苦笑してしまう番だった。
ミルクバニラの紙パックにストローを挿して、そのまま壁に背を預けて口をつける。雲雀くんはそのままそこに座り込んで口をつけた。
沈黙が落ちた。家に帰るわけでもない、誰かと合流するわけでもない、次の授業が待っているわけでもない、無期限無制約のふたりきりの時間は、付き合ってから初めてだった。冷たい紙パックを持つ手は、結露に冷やされなければ汗ばんでいただろう。そのくらい、緊張してしまっていた。
「……先輩らに言ったほうがいいかもな」
「……なにを?」
そのせいで、頭が上手く回らなかった。首を傾げれば「……お試し期間ですって」少し言い辛そうなトーンで返事がきた。
それなら先輩達も遠慮して、キスをするなだのなんだのは言わないだろう、きっと雲雀くんはそう言いたいのだ。それはそうかもしれない。それは雲雀くんの片思いだと公言するようなものだから、さすがの先輩達も気にかけてくれるだろう。
ただ付き合っているという状態に違いはないのに「お試し期間」なんて公言するのは、どうにも釈然としない。もちろん、自分の中で明確に雲雀くんへの感情の答えが出たわけではないけれど……。
「……これは私の勝手な感情なんだけど……あんまり雲雀くんとの付き合いを“お試し”みたいな言い方はしたくないかな……」
「……なんで?」
きょとりと、今度は雲雀くんが首を傾げる番だ。でも私の中でもその理由は明確ではない。つい、紙パックを持っていないほうの手でスカートの裾を握りしめてしまう。
「……上手く言えないんだけど、その……なんか、お試し期間なんていうと、好きになれるかどうか試してるみたいっていうか……」
「……実際そうじゃね」
「え、違うよ。え、いや、違わないのかもしれないけど……なんていうか……」
好きになれるかどうかを試すために付き合ってるわけではなく、私は雲雀くんならきっと好きになると思ったわけで……。
「……なんか、傲慢じゃないかな、そういうの……」
「……でも俺はあわよくば三国と付き合おうと思ってああいう言い方をしたわけだし」



