「それねー、俺も実は当てに行きながら思ってる。三国ちゃん絶対答えてくれるからさ、当たりって言われたらやべーな興奮するなって」
「……パンツの色が分かるだけでなにがどうそんなに興奮するんですか?」
「三国、マジで話続けんな。マジで」
「そうだよ、九十三先輩に付き合ってあげるの、三国ちゃんくらいだから。本来的に付き合わなくていい話だよ」

 能勢さんの声がしたと思ったら、クラスの人数分と思しきノートの山を運びながら私達の後ろを通り過ぎたところだった。担当らしき先生のところへノートの山を置き「君らが職員室に揃ってるの、珍しいね」なんて笑いながら戻ってくる。そう言う能勢さんが職員室にいると生徒会長か何かに見えるので、やっぱり見た目は大事だ。

「なに、雲雀くん、早速三国ちゃんに手出しちゃった? 学校はだめだよ、やめときな」
「マジかよ指焼くぞ」
「出してません」

 さすがに私も閉口したし、雲雀くんの声も低くなった。本当にこの人達は雲雀くんいじりをやめない。もしかしたら先輩達は雲雀くんのことが大好きなのかもしれない。

「あー……そのことだが」

 黙り込んでいた先生が咳払いと共に戻ってきた。まさか本当に私達が不純異性交遊をしていると疑われているのだろうか……、と半信半疑で続きを待っていると「……その、さっきも言ったが、君達は非常に優秀な生徒なので、交際は高校生として良識のある範囲でね……」

 良識のある範囲という非常に曖昧な言い方ではあるけれど、逆に良識がない付き合いといえば、学業に支障が出るまたは学校生活そのものを送ることができなくなるおそれのある付き合い方……。つまり妊娠退学のおそれがあるようなことをするな、と。まさかの疑いが的中した。

「だーよなあー」

 この場で唯一、九十三先輩だけが嬉しそうに雲雀くんの肩に腕を載せる。その得意げな顔を雲雀くんが睨みつけるも、九十三先輩はどこ吹く風だ。

「俺達もそう思うんだよなー。やっぱり高校生たるものピュアに付き合わなきゃ。隣にいるだけで胸がいっぱいで何もできないみたいな、ね!」
「アンタ自身がそんな純粋な人間じゃないでしょ」
「まあまあ、先生、安心してください」

 一体何の保証をしてくれるのかと思いきや、能勢さんはまるで曲芸のようなしなやかな手つきでブルーの携帯電話を取り出す。パチンッとそれを開いて見せてくれたのは──……血判状とそれに無理矢理指印を押させられている雲雀くんだった……。当然というべきかなんというべきか、雲雀くんの双眸(そうぼう)に殺意が宿った瞬間を見た。

 でも能勢さんは気付いていないふりをして次のボタンを押して血判状の写真を見せる。

「『群青における健全なる異性交遊に関する十一ヶ条』、先輩である僕達が責任をもって定めました。ほら、デート禁止ですし、部屋に入れないですし」

 カチカチカチと能勢さんは写真を拡大して先生に見せつける。

「雲雀くんはこう見えて意外と先輩に従順なので、ちゃんと十一ヶ条に従ってくれるはずですよ。ね?」

 ね……って……言われても……。群青の先輩達がそれを定めたのはただのイジメだし……。能勢さんの笑みには、この文脈においてはどう見ても有無を言わさぬ圧しか感じなかった。

「どう見ても無理矢理押させられてるのにそんなの意味ないでしょ」

 そして雲雀くんはその圧をはねのけた。でも九十三先輩が乱暴に雲雀くんの肩を組む。

「まあ雲雀、お前が誓おうが誓うまいが、どーせ誰かが邪魔するから。ここは先生の前でなんもしませんって言っとけ」