雲雀くんのそのセリフには言外に「二度と騒ぐな」という力強い脅迫が籠っていた。実際、目に見える範囲の人はそっと視線を下に落としている。きっと物分かりの良い人はこれで騒ぐのをやめてくれることだろう。

 なんて思っていたら、今度は次の日の放課後、担任の先生によって私と雲雀くんは揃って職員室に呼び出された。

 一体何事だ……と顔を見合わせながらも職員室に行けば、担任の先生の近くには笹部くんの一件のときに私達を叱りつけた体育の先生や蛍さん達の担任だという山口先生も近くにいた。他の先生も、わざわざ近くに座ってこそいないものの、私達が入った瞬間に分かりやすく視線を向けてくれたので、気にされているらしいことは理解した。

 そして、担任の先生は気まずそうに一度咳払いをする。

「えー……これはあくまで噂なので、違うなら違うと言ってもらって……」
「……雲雀くんと付き合ってるという噂なら事実です」

 昨日も今日も散々色々言われていることだし、先生も「噂」なんて言っているし、話題はこれに違いない、そう推測して口にすれば、担任の先生はそのまま硬直した。いや、多分硬直していないのは「いやぁー若いな!」と相槌を打っている山口先生くらいだ。そう言っても過言でないくらい、視界の中で職員室内の動きが停止した。なんなら雲雀くんまでゆっくりと顔ごと私を見た。

「……お前、意外と堂々と言うな」
「……だって他に噂として心当たりのあるものがなかったから。それが指摘される理由は分からなかったけど」
「そういうことじゃねーんだよ」
「えー、事実なのであれば」先生はまた咳払いをして「その……君達は今年の灰桜高校普通科の……まあその、なんだ、非常に将来を嘱望(しょくぼう)されている生徒なのであって」
「成績なら落ちないと思います」
「……お前結構いい性格してるよな」

 ありがちに男女交際により勉強がおろそかになることを危惧されているのかと思って先手を打ったのだけれど、雲雀くんに白い目を向けられた。しかも、担任の先生も目を泳がせていて、なかなか本題に入っていない様子がうかがえるから、きっと私の回答は誤りだった。

「あれ? 三国ちゃんなにやってんの?」

 そんなところに、背後から九十三先輩が現れた。何事かと思ったら山口先生に「ヤマセン、これ進路希望の紙、やっと見つけたー」としわくちゃの更紙を差し出していたので、どうやら個人的に職員室に用事があっただけらしい。

「なになに? 呼び出し?」
「……そんなところです」
「あー、先生、そういうことね。分かる、俺も同じ考え」

 九十三先輩は先生の意を()んだかのような口ぶりで、うんうんと頷いてみせた。

「雲雀と三国ちゃんが付き合ってんの、校則違反だよね?」
「そんな校則ありませんけど」

 しかも九十三先輩のほうこそ、アッシュブルーの髪、ワイシャツ代わりのブルーのティシャツ、ティシャツが捲れて覗く白いベルト、しかも今日は謎の巨大なピアスまでついているし、何もかもが校則違反だ。……でも雲雀くんもワイシャツを着ている以外は大差ない恰好だった。この人達の隣にいると自分がすごく優等生に思えてくる。

「大体、九十三先輩、別にモテるんだからそんなに躍起になって別れさせようとしなくても……」
「え、俺モテるの」
「モテ……るんじゃないんですかね……? ほらラブレター貰ってましたし……」
「でも三国ちゃんが俺にパンツの色教えてくれたことなくない? 今日は? 白?」
「……はずれです」
「三国、相手にすんな」