「そんなこと言ってたら、群青(ブルー・フロック)のメンバーってみんな彼女がいないことになりません?」
「……まあね。アイツらは特別さ」
「どこのチームもこぞって欲しがってるから、特定のチームが彼らを手に入れるまでは危ないってことですか?」
「そうだな。どこのチームも、手段は選ばんだろ」
「でも蛍さんは選んでるんですね、手段」
「当たり前だろ。ほーらお前らが入らないと三国誘拐すんぞー、なんてダセェだろ」

 その言葉の選び方に、桜井くんとか荒神くんにある男っぽい(あら)さが欠けているような気がした。欠けているというか、抑えているというか。それが異性の視線や感性への気遣いからくる配慮だと考えると、蛍さんにお姉さんがいるという噂は本当かもしれない。

「……チームに入った後はどうなんですか? 仲の良い女子って危なくないんですか?」
「危ないは危ないな。桜井と雲雀でいえば、アイツらがチーム内で重宝されればされるほど、その女もチーム内で重要な位置に立つ」
「……まあ王の寵姫(ちょうき)みたいなものですね」
「あ?」
「いえ、まあ、要人(ようじん)とその奥さんって同視されますよねって話です」

 頭の中に浮かんだのは小説で読んだラブファンタジーだったけれど、要はそういう話だろう。そんなものが高校生の喧嘩でまかりとおるなんておかしな話ではあるけれど、理論上理解できない話ではなかった。

「物語だと、要人……偉くなればなるほど警護も厚くなりますけど、現実のチームでも、たとえば蛍さんの彼女は誰かが守ってるんですか?」
「俺に彼女はいないから誰も守ってねーけど、ま、メンバーの女が(さら)われたつったら、全勢力挙げてぶっ潰しに行ってやるな。俺、外道(げどう)って煙草吸うヤツよりキライなんだよ」

 こんなに綺麗な顔してるのに彼女いないんだ……なんて感想はさておき、桜井くんと雲雀くんの「蛍さんはカッコイイ人」という話を思い出してしまった。歯が浮くようなセリフとまでは言わないけど、こんなに堂々とそんな宣言をできる人はいないだろう。

 同時に、そんな人がトップに立つチームというものの存在に、興味に似た疑問が湧く。

「……群青(ブルー・フロック)って、なんなんですか?」

 青の群れ(ブルー・フロック)。誰がそう名付けたのかは知らないけれど、小粋(こいき)なネーミングだとは思った。なんならちょっぴり気に入った。その意味では、桜井くんの教えてくれた深緋(ディープ・スカーレット)も気に入ったけど、群青のほうが気に入ってしまうのは、もしかしたらこの蛍さんを知っているからなのかもしれない。

「なにって。ただ俺みたいなヤツが群れてるだけだ」

 それは、何のヒントでもなかった。

「だから、俺は桜井も雲雀も群青(ブルー・フロック)相応(ふさわ)しいと思ってるし」

 桜井くんと雲雀くんと、蛍さんの共通点を考える。もし、蛍さんの噂が本当なら、ある程度抽象化すれば、三人の共通点は見つけられる。何より、蛍さんが荒神くんの名前を挙げていないことがひとつのヒントだった。

「三国英凜、お前も、男だったら群青(ブルー・フロック)に誘いたかった」

 ……そういえば、この人は、噂を聞いて私の名前を知ったのだとは、一言も言わなかったな。

「……残念です、自分が男じゃなくて」
「ああ、俺も残念だよ」

 奇妙な沈黙が落ちた。私にはその奇妙さを理解することができなかったし、普段なら使える方法も、蛍さんを前には使えなかった。

「……じゃあ、私はこれで」
「ああ。桜井と雲雀と縁切りたくなったらいつでも連絡しな」
「……あれは蛍さんの携帯電話番号ということでいいんですよね?」
「ああ。ちゃんと登録したか?」
「いえ、今のところ必要ないので」
「あ、そう」
「……では」

 ぺこりと頭を下げて踵を返した後、蛍さんのいた場所を振り返れば、蛍さんはいなくなっていた。

 あの人、やっぱり私が来るのを待ってたんだろうな。