ただ、そんなことは今はどうでもいい。問題は、さすがにこの流れでクラスのみんなが状況を把握しないわけがないことだ。私と雲雀くんに直接声をかける勇気がある人はいないらしく「陽菜、ちょっと……」と陽菜が連れ去られ「……三国さんと雲雀くんのってただの噂なんじゃないの?」「え、英凜ー、話していいよな?」……もう話すしか選択肢のない確認がなされた。雲雀くんに目配せしたけど「……時すでに遅しだろ」私と全く同じ感想だった。

「……いい……ですよ……」
「土曜から付き合ってんだって」

 ……陽菜の声が教室に響き渡った瞬間の“音”をなんと表そう。まさしくどよめいたと表現するのが適切な、声の爆音が弾けた。

「え、でも噂否定してなかったっけ?」
「雲雀、公開告白はしてないんだって。こっそり告白」

 メキリ……と雲雀くんのほうから不穏な音が聞こえた。反射的に顔を向けると、その手の中でシャーペンが曲がっていた。確かに「こっそり告白」なんて字面は雲雀くんには似合わない。イメージ破壊もいいところだ。

「そう……なんだ……?」
「英凜も詳しいこと教えてくんなかったからさ、あとは2人に聞いて」

 そう言えばみんなはこれ以上深堀できないと陽菜は本能的に分かっている。だからその返答は完璧だった。

 が、噂が広まる広まらないというのは、また別の話だ。笹部くんの一件で分かっていたことだったけれど、私と雲雀くんの噂は伝染病も真っ青な勢いで学年中に広まった。

 それが分かったのは次の日。学校に着いた瞬間に「雲雀くんと付き合ってるんだって」「結局?」「狙ってたのに……」と聞こえよがしに言われたので、もう特別科の皆々様の知るところなのだと分からされた。

 ただでさえ笹部くんのせいで噂が広がりすぎてたしな……と諦めながら教室へ行けば、「ゆーうきぃー! おっめでとー!」荒神くんが歌うようなテンションとボリュームで教室に入ってきて、既に着席していた雲雀くんの肩をバンバン叩いた。多分、私が登校してくるのを見計らって教室にやって来たのだろう。

「水臭いなー、お前やっぱり三国のこと好きだったんじゃん、早く言ってくれよー。そしたらもっと気利かせて2人きりにしたのにさあー」
「んじゃ出て行けよ今すぐに」
「冷たっ。それが友達に言うことかよ、なあ三国ぃ」

 こればかりは私も雲雀くんと同意見だった。荒神くんの緩んだ笑みは正直……ちょっとだけ腹立たしかった。

「な、三国は侑生のどんなところが好きなイテテテ外れる! それ腕外れるから!」
「出て行け。今すぐに」

 雲雀くんが荒神くんの背中を蹴りそのまま足で肩を押さえつけ腕を捩じ上げる、その僅か5秒で片がついた。

 その荒神くんが出て行ったかと思えば、今度は窓がバーンッと開いて「侑生さん英凜さんおめでとうございます!」と中津くんがやってきた。

「分かってましたけどね? 分かってましたけどね、俺を助けてくれたときの2人のコンビネーションから! 分かってましたけどそれでも本当に付き合うってなるとなんかすげー自分のことのように嬉しいです! おめでとうございます! 群青の最強の頭脳がくっついたらもう怖いもんなしですね! ゆくゆくは侑生さんと英凜さんが群青を背負──」