ぼやく雲雀くんに「手を出すって宣言かそれは?」蛍さんはギラリと目を光らせ「そんなことは言ってません」雲雀くんはまたぼやく。私はそっと桜井くんの様子を窺う。でも桜井くんはなんでもないように、ともすればどこか無関心そうに、終始お肉を食べているだけだった。
かくして予想どおり、いや予想以上に、先輩達は打ち上げの2時間を通じて雲雀くんイジメに躍起になっていた。能勢さんが「大丈夫、非モテのただの僻みだから」と微笑んでいたけれど、なにがどう大丈夫なのか分からなかった。なお、まるで(というか実際)非モテなんてワードに縁がないかのような発言だったせいでその後頭部には伝票を入れるためのプラスチックの筒が飛来していた。
その晒上げ地獄のような打ち上げが終わった後、次の日に待っていたのは更なる晒上げ地獄だった。
「おい雲雀はいるか」
昼休み、いつしかのように教室の扉を叩き破る勢いで蛍さん御一行がやってきた。問題の雲雀くんは桜井くんと花札をしている。
「……なんすか」
「血判状持ってきたから押せよ」
あれ冗談じゃなかったの……? 呆然とする私の隣に座り、蛍さんは花札が広がる机の上に丸まった巨大な紙を叩きつけた。
「あ! 場が!」
「後にしろ。三国の貞操が先」
「そういうことを大きい声で言わないでくれませんか……?」
雲雀くんいじりが私への嫌がらせに思えてきた。先輩達にはデリカシーもへったくれもない。
そしてその紙には墨ででかでかと、そして無駄に達筆に『群青の健全なる異性交遊に関する十一箇条』と書いてあった。また一箇条増えている。しかも書いている途中で追加したらしく『十箇条』の横に狭苦しく『一』が割り込んでいた。
一、門限は夕方五時
一、常に十五センチ以上離れる
一、二人きりにならない
一、手を出していいのはAAAまで
一、デート禁止
一、隣に座らない
一、部屋に入らない
一、ベッドに近寄らない
一、Aより先を教えない
一、名前で呼ばない
一、集会で定期報告
……やや内容において重複するものがあるような気もしないでもないけれど、よくこんなに思いついたなと思えるほど、難癖に近い十一ヶ条だった。そして「集会で定期報告」はいかにも最後に付け加えました感が満載で、このせいで「一」を書き加える羽目になったのがよく分かった。
「ほら雲雀。判押しな」
「イヤですけど」
「なに? 三国ちゃんに手出すつもりなの?」
九十三先輩が私の机に腕と顎を乗せながら不気味な笑みを浮かべた。
「駄目だよ、俺達高校生だから。健全な高校生男女たるもの、手を繋いで恥ずかしがる甘酸っぱい青春が何よりも宝物じゃん? それ以上は卒業するまで我慢。そして卒業したら別れろ」
「諫言に見せかけたただの呪詛じゃないですか」
「いいから押せよ。押さなくてもいいけど無理矢理押させんぞ」
「押しません」
「よし、押さえろ」
「は──」
かくして予想どおり、いや予想以上に、先輩達は打ち上げの2時間を通じて雲雀くんイジメに躍起になっていた。能勢さんが「大丈夫、非モテのただの僻みだから」と微笑んでいたけれど、なにがどう大丈夫なのか分からなかった。なお、まるで(というか実際)非モテなんてワードに縁がないかのような発言だったせいでその後頭部には伝票を入れるためのプラスチックの筒が飛来していた。
その晒上げ地獄のような打ち上げが終わった後、次の日に待っていたのは更なる晒上げ地獄だった。
「おい雲雀はいるか」
昼休み、いつしかのように教室の扉を叩き破る勢いで蛍さん御一行がやってきた。問題の雲雀くんは桜井くんと花札をしている。
「……なんすか」
「血判状持ってきたから押せよ」
あれ冗談じゃなかったの……? 呆然とする私の隣に座り、蛍さんは花札が広がる机の上に丸まった巨大な紙を叩きつけた。
「あ! 場が!」
「後にしろ。三国の貞操が先」
「そういうことを大きい声で言わないでくれませんか……?」
雲雀くんいじりが私への嫌がらせに思えてきた。先輩達にはデリカシーもへったくれもない。
そしてその紙には墨ででかでかと、そして無駄に達筆に『群青の健全なる異性交遊に関する十一箇条』と書いてあった。また一箇条増えている。しかも書いている途中で追加したらしく『十箇条』の横に狭苦しく『一』が割り込んでいた。
一、門限は夕方五時
一、常に十五センチ以上離れる
一、二人きりにならない
一、手を出していいのはAAAまで
一、デート禁止
一、隣に座らない
一、部屋に入らない
一、ベッドに近寄らない
一、Aより先を教えない
一、名前で呼ばない
一、集会で定期報告
……やや内容において重複するものがあるような気もしないでもないけれど、よくこんなに思いついたなと思えるほど、難癖に近い十一ヶ条だった。そして「集会で定期報告」はいかにも最後に付け加えました感が満載で、このせいで「一」を書き加える羽目になったのがよく分かった。
「ほら雲雀。判押しな」
「イヤですけど」
「なに? 三国ちゃんに手出すつもりなの?」
九十三先輩が私の机に腕と顎を乗せながら不気味な笑みを浮かべた。
「駄目だよ、俺達高校生だから。健全な高校生男女たるもの、手を繋いで恥ずかしがる甘酸っぱい青春が何よりも宝物じゃん? それ以上は卒業するまで我慢。そして卒業したら別れろ」
「諫言に見せかけたただの呪詛じゃないですか」
「いいから押せよ。押さなくてもいいけど無理矢理押させんぞ」
「押しません」
「よし、押さえろ」
「は──」



