その沈黙の意味を、私なら読み取ることはできなかっただろう。でも先輩達は私ではない。なんなら、気のせいでなければ、焼肉の煙越しに先輩達の目が怪しく光った。
「……分かった、当てる」九十三先輩がまた厄介なことを言い始めて「髪は黒」
雲雀くんはやはり無言だった。今までになく丁寧にお肉を咀嚼している。
「頭が良い」能勢さんが怪しい笑みを浮かべた。
「常にすっぴん」蛍さんが悪口なのかなんなのか分からない指摘をした。
「最近はポニーテール」
「目が二重で真っ黒」
「いちいち謎知識出してきて何話してんのか分からん」
「身長160センチないくらい」
「鼻が高い」
「いつもぼーっとしてる」
「体重がー、あー、46キロくらいかな」
順々に要素を挙げていく中、九十三先輩の目算がピンポイント過ぎて震えた。
「あとなんだろう……青組?」
能勢さんのそれは一時的な学校行事での所属を指していて、好みも何もない。
「理屈っぽい」
蛍さんの指摘はさっきから半分くらい悪口だ。本当にこの人は私のことを大事にしてくれているのか疑問が湧く。
「雲雀、先輩達に何か報告することはないのかなあ?」九十三先輩は輩のように恐ろしく鋭い眼光を放ち「早く言えよ、スリーサイズ当てんぞ」
当て……られるのだろうか……私自身知らないのに……? オレンジジュースのグラスを手に呆然としている横で、やはり雲雀くんは無言だ。桜井くんも無言を貫いていたけれど、ややあってはっと我に返る。
「そういえば昨日テレビで肉の正しい焼き方をやってたんですけど――」
「親友を庇おうっていう心意気は買ってやる、だが今は黙れ」
「キャウン……」
蛍さんに躾られ、桜井くんは簡単に撃沈した。それでもなお雲雀くんは無言だ。
「おい雲雀、早くしろよ。上からいくぞ」
「……別に俺も知らないんで」
雲雀くんそこじゃない! 反論すべきはそこじゃない! ぶんぶん首を横に振る私の斜め前で、九十三先輩が頬杖をつきながら「85」……まるで競売のように数字を躊躇なく口にした。瞬間、頭の中には下着のラベルが浮かぶ。ラベルに書いてある数字は――……。
「ほーら隣で困ってる子いるよ? いいのかなぁー?」
脅しでなく本気で当てにくるつもりだ。しかもその煽りが最早答えだ。九十三先輩の血も涙もない一面を知った。
じわじわと耳が熱くなってきた横で、カタリと雲雀くんが遂に箸を置く。腕を組んだ手が白くなっていて、いかに力強く握りしめられているかが分かる。
「……報告が要るとは思ってないんですけど」
「んじゃその礼儀知らずの常識改めろ。報告が要るんだよ早く吐け」
「…………付き合いました」
「え、なに? 買い物にでも付き合ったの? ちゃんと言ってくれないと分からないんだけどなあ、誰と誰が何をどうしたの?」
能勢さんの煽りのせいか、はたまた単純にここで白状させられることによる緊張のせいか、掘りごたつの中で雲雀くんの足が小刻みに揺れている。組んだ腕の上に載った指も震えていた。
「……三国が俺の彼女だって言ってんですよ」
「死ね。間違えた、謝れ」
九十三先輩の目はいつになく冷ややかで、射殺さんばかりだった。
「誰に何を」
「彼女がいない全人類に謝れ」
「マジかよ三国ちゃん雲雀と付き合ったの!?」
「……分かった、当てる」九十三先輩がまた厄介なことを言い始めて「髪は黒」
雲雀くんはやはり無言だった。今までになく丁寧にお肉を咀嚼している。
「頭が良い」能勢さんが怪しい笑みを浮かべた。
「常にすっぴん」蛍さんが悪口なのかなんなのか分からない指摘をした。
「最近はポニーテール」
「目が二重で真っ黒」
「いちいち謎知識出してきて何話してんのか分からん」
「身長160センチないくらい」
「鼻が高い」
「いつもぼーっとしてる」
「体重がー、あー、46キロくらいかな」
順々に要素を挙げていく中、九十三先輩の目算がピンポイント過ぎて震えた。
「あとなんだろう……青組?」
能勢さんのそれは一時的な学校行事での所属を指していて、好みも何もない。
「理屈っぽい」
蛍さんの指摘はさっきから半分くらい悪口だ。本当にこの人は私のことを大事にしてくれているのか疑問が湧く。
「雲雀、先輩達に何か報告することはないのかなあ?」九十三先輩は輩のように恐ろしく鋭い眼光を放ち「早く言えよ、スリーサイズ当てんぞ」
当て……られるのだろうか……私自身知らないのに……? オレンジジュースのグラスを手に呆然としている横で、やはり雲雀くんは無言だ。桜井くんも無言を貫いていたけれど、ややあってはっと我に返る。
「そういえば昨日テレビで肉の正しい焼き方をやってたんですけど――」
「親友を庇おうっていう心意気は買ってやる、だが今は黙れ」
「キャウン……」
蛍さんに躾られ、桜井くんは簡単に撃沈した。それでもなお雲雀くんは無言だ。
「おい雲雀、早くしろよ。上からいくぞ」
「……別に俺も知らないんで」
雲雀くんそこじゃない! 反論すべきはそこじゃない! ぶんぶん首を横に振る私の斜め前で、九十三先輩が頬杖をつきながら「85」……まるで競売のように数字を躊躇なく口にした。瞬間、頭の中には下着のラベルが浮かぶ。ラベルに書いてある数字は――……。
「ほーら隣で困ってる子いるよ? いいのかなぁー?」
脅しでなく本気で当てにくるつもりだ。しかもその煽りが最早答えだ。九十三先輩の血も涙もない一面を知った。
じわじわと耳が熱くなってきた横で、カタリと雲雀くんが遂に箸を置く。腕を組んだ手が白くなっていて、いかに力強く握りしめられているかが分かる。
「……報告が要るとは思ってないんですけど」
「んじゃその礼儀知らずの常識改めろ。報告が要るんだよ早く吐け」
「…………付き合いました」
「え、なに? 買い物にでも付き合ったの? ちゃんと言ってくれないと分からないんだけどなあ、誰と誰が何をどうしたの?」
能勢さんの煽りのせいか、はたまた単純にここで白状させられることによる緊張のせいか、掘りごたつの中で雲雀くんの足が小刻みに揺れている。組んだ腕の上に載った指も震えていた。
「……三国が俺の彼女だって言ってんですよ」
「死ね。間違えた、謝れ」
九十三先輩の目はいつになく冷ややかで、射殺さんばかりだった。
「誰に何を」
「彼女がいない全人類に謝れ」
「マジかよ三国ちゃん雲雀と付き合ったの!?」



