ぼくらは群青を探している

 息を吸おうとして、上手く吸えずに途中で止まってしまった。深呼吸なんてできなかった。ちらと雲雀くんを見て、やっぱりまっすぐ見ることができずに(うつむ)いた。

「……あの、あのね」

 ドッと心臓が跳ね上がった。口に出そうと現に行動に移した途端、自覚した心臓が「まだ心の準備ができてません」と目いっぱいに主張している。じんわりと熱かった耳が、どんどん火照(ほて)ってきているのを感じる。

「……なに……なにから言えばいいのか分からないんだけど……」
「うん」

 ぎゅう、と胸が苦しい。ドクリドクリとうるさく鼓動している心臓とは別の部分が苦しい。このまま息ができなくなりそうだった。

「……結論から言えば……その、雲雀くんのことをそう思ってないのは、事実、で……」

 結論から言えてない……! 口に出した後で間違っていることに気が付いた。でもじゃあ今の発言は取り消しますなんていうのも間抜けだし、ただ結論を言いたくないがための時間稼ぎにしか聞こえない。実際、そんなことはただの時間稼ぎだ。

「……だから、その……」

 続きが言えなかった。気管が閉塞(へいそく)しかけているような息苦しさがあった。五臓(ごぞう)六腑(ろっぷ)が一気に収縮してしまったような緊張感があった。

「……三国」

 名前を呼ばれた瞬間、顔が一気に熱くなった。雲雀くんの目を見た瞬間、もう何も考えられなくて、恥ずかしくて死にそうだというたった一言だけが頭に浮かんだ。

「いいよ、別に」

 身構えるように腕を組んだままの雲雀くんが微笑した。

 そう、身構えるように。最初から雲雀くんはずっと身構えるように腕を組んでいた。

 きっと、私の返事に身構えていた。

「……あのタイミングで言うことじゃないと思ってたし、言うつもりもなかったし……三国を――好きなのは本当だし、それがどうってことじゃないけど、三国に言うのは……、三国に伝えるってことだけは、俺の中で誤算っぽいところがあった。いつか、我慢できなくなって言うんだろうけど、卒業まで我慢できたらいいなとか、そういう感じで思ってたし……」

 ギュ、ギュ、と胸が締め付けられた。泣きそうというわけではなかったけれど、目が熱くなった。雲雀くんが私を見続ける間、何度も何度も目を逸らして、また戻してを繰り返してしまった。

「……だから、まあ、あんま気にすんな。俺は言った以上返事が欲しかっただけだから」

 胸から肩まで、肩から背中まで、背中から腰まで、どんどん熱が広がっていく。体が熱い。

「1週間、考えてくれただけで充分だよ」

 優しく見つめ返してくれるその目に、最初から見えていた諦念(ていねん)がはっきりと形になっていく、その過程が見えるようだった。

「……昴夜には俺から言っとくから、今までどおりでいい」

 カラッと音がして、雲雀くんが扉に手をかけていたことに気が付いた。同時に、雲雀くんがこのまま出て行こうとしていることを――言われていることの意味を、やっと理解した。

「じゃ――」
「え、ちょ、ちょっと、待って」

 その腕に(すが)りつくようにして、慌てて引き留めた。驚いた雲雀くんが、多分反射で扉を閉じる。ピシャリという音と共に、もう一度空間が遮断された。

「な、なにか……えっと……だからえっと、私から……話を……しないと」
「……返事さえ分かれば、別に――」
「いや、だから、そうじゃなくて……」慌てて言葉をかぶせながら「その、雲雀くんが言ったことは……そのとおり、なんだけど……」