「…………分かってるから言わないで」
本日の最大の難関はいまだびくともせずに私の前に立ちはだかっている。でも、今日に雲雀くんと二人きりになる時間なんてあるのだろうか……。それでも、今日返事をしないと、来週からも毎日が気まずくて仕方がないし、そもそも月曜日は群青の先輩達含めて焼肉に行くのに、そんなところでもまだ返事をしてないなんて自体は避けたいし……遅かれ早かれ決まることだし……。
|悶々(もんもん)と考え込みながら着替えを終え、廊下で待っていた男子が教室の中に戻ってきて、後ろで雲雀くんが座る音に全神経を集中させ、ホームルームの連絡事項を聞き流し、すべてが終わった後に、教室の中からパラパラと人が出て行くのを見守る。
「英凜、今日飯は?」
カバンを持つ桜井くんに「……今日はおばあちゃんが待ってるから、帰らないと」と返事をしながら、桜井くんがいる限り雲雀くんと二人きりになんてなれないことに気が付く。桜井くん……、桜井くんは何も悪くないんだけど、提出物を忘れてたとか言って、15分くらい生物教室に行ってくれないかな……。
「あー、てか俺、反省文出せって言われてたんだった」
「え!」
「え?」
まるで私の念でも通じたかのように、桜井くんはゴソゴソと机の中を漁り始める。驚いて素っ頓狂な声を上げた私に間抜けな声を出しながら、端の折れた原稿用紙を取り出した。
「……な……なんの、反省文……?」
「この間、舜と遊んでたときに非常ベル鳴らして怒られた」
「お前ら本当にどうしようもねーな」
背後から雲雀くんの冷ややかな声が聞こえた。このタイミングで反省文を出すということは9月に入ってからの話であるはずだけれど、そんなことがあった記憶はないので、きっと私がいない放課後の話だろう。特に、今週は桜井くんと2人で帰るのも気まずくて、どうせ方向も違うしと1人で帰っていたし。
「……荒神くんはもう反省文出したの?」
「さあ? アイツの名前が黒板から消えるの見たことないし。つか反省文とか書くことなさすぎて『本当に反省しております』って10回くらい書いたんだけどこれでいいのかな」
本当に反省していることがよく分かる反復回数だ。つい皮肉が浮かんでしまった。しかも文字数を稼ぐために『しております』とした桜井くんの思考が容易に読み取れた。雲雀くんのいうとおり、本当にどうしようもない。
「てか侑生の真似ればよかった」
「笹部と違って非常ベルは何も悪いことしてねーから無理だろ」
そこじゃなくない……? 雲雀くんが冗談で言ってるのか本気で言ってるのか分からなくて何もツッコミを入れられなかった。なんなら3人でいるときに何を喋っていいのかも分からなかった。そして桜井くんはそれを察してか察せずか「んじゃ出してくるー。待ってて」とぴらぴらと軽々しく原稿用紙を振りながら出て行ってしまった。
私と雲雀くんの間には再び沈黙が落ちた。やっぱり返事は今度にして今日は帰ろうかな……と決心を鈍らせる私のお尻を叩くように、教室内からはどんどん人が減っていく。
それでも、体育祭の余韻に浸ってか、だらだらと教室内に残り続ける人はいた。様子をうかがう限り、今から桜井くんが戻ってくるまでの間に帰る気配はない。つまり、ここで偶然に雲雀くんと二人きりになる方法はない。
じんわりと、自分の耳が熱くなるのを感じる。緊張しているのは分かった。でもどちらにしろ、運よく教室で二人きりになれたとしても、途中で桜井くんが帰ってきてしまったら台無しだ。
「……雲雀くん」
本日の最大の難関はいまだびくともせずに私の前に立ちはだかっている。でも、今日に雲雀くんと二人きりになる時間なんてあるのだろうか……。それでも、今日返事をしないと、来週からも毎日が気まずくて仕方がないし、そもそも月曜日は群青の先輩達含めて焼肉に行くのに、そんなところでもまだ返事をしてないなんて自体は避けたいし……遅かれ早かれ決まることだし……。
|悶々(もんもん)と考え込みながら着替えを終え、廊下で待っていた男子が教室の中に戻ってきて、後ろで雲雀くんが座る音に全神経を集中させ、ホームルームの連絡事項を聞き流し、すべてが終わった後に、教室の中からパラパラと人が出て行くのを見守る。
「英凜、今日飯は?」
カバンを持つ桜井くんに「……今日はおばあちゃんが待ってるから、帰らないと」と返事をしながら、桜井くんがいる限り雲雀くんと二人きりになんてなれないことに気が付く。桜井くん……、桜井くんは何も悪くないんだけど、提出物を忘れてたとか言って、15分くらい生物教室に行ってくれないかな……。
「あー、てか俺、反省文出せって言われてたんだった」
「え!」
「え?」
まるで私の念でも通じたかのように、桜井くんはゴソゴソと机の中を漁り始める。驚いて素っ頓狂な声を上げた私に間抜けな声を出しながら、端の折れた原稿用紙を取り出した。
「……な……なんの、反省文……?」
「この間、舜と遊んでたときに非常ベル鳴らして怒られた」
「お前ら本当にどうしようもねーな」
背後から雲雀くんの冷ややかな声が聞こえた。このタイミングで反省文を出すということは9月に入ってからの話であるはずだけれど、そんなことがあった記憶はないので、きっと私がいない放課後の話だろう。特に、今週は桜井くんと2人で帰るのも気まずくて、どうせ方向も違うしと1人で帰っていたし。
「……荒神くんはもう反省文出したの?」
「さあ? アイツの名前が黒板から消えるの見たことないし。つか反省文とか書くことなさすぎて『本当に反省しております』って10回くらい書いたんだけどこれでいいのかな」
本当に反省していることがよく分かる反復回数だ。つい皮肉が浮かんでしまった。しかも文字数を稼ぐために『しております』とした桜井くんの思考が容易に読み取れた。雲雀くんのいうとおり、本当にどうしようもない。
「てか侑生の真似ればよかった」
「笹部と違って非常ベルは何も悪いことしてねーから無理だろ」
そこじゃなくない……? 雲雀くんが冗談で言ってるのか本気で言ってるのか分からなくて何もツッコミを入れられなかった。なんなら3人でいるときに何を喋っていいのかも分からなかった。そして桜井くんはそれを察してか察せずか「んじゃ出してくるー。待ってて」とぴらぴらと軽々しく原稿用紙を振りながら出て行ってしまった。
私と雲雀くんの間には再び沈黙が落ちた。やっぱり返事は今度にして今日は帰ろうかな……と決心を鈍らせる私のお尻を叩くように、教室内からはどんどん人が減っていく。
それでも、体育祭の余韻に浸ってか、だらだらと教室内に残り続ける人はいた。様子をうかがう限り、今から桜井くんが戻ってくるまでの間に帰る気配はない。つまり、ここで偶然に雲雀くんと二人きりになる方法はない。
じんわりと、自分の耳が熱くなるのを感じる。緊張しているのは分かった。でもどちらにしろ、運よく教室で二人きりになれたとしても、途中で桜井くんが帰ってきてしまったら台無しだ。
「……雲雀くん」



