ぼくらは群青を探している

 断りながら、雲雀くんは私の腕の上からテントの布を引き取る。私が何か言う前に「おい三国ちゃんにだけ優しくしてんじゃねーよ」と九十三先輩が口を(とが)らせた。

「これ、どこ持って行くんですっけ」
「あー……あー、どこだ?」
「体育倉庫ですよ……。分かっててこっち歩いてたんじゃないんですか……」
「いや、なんかみんなこっち方向行くから、適当に」

 体育倉庫のある方向へ歩いてはいたので、あながち間違ってはいない。九十三先輩はこういう本能で上手く生きてきたのだろうか。はて、と首を捻る私の横で「そういや明後日焼肉食うんだけど、お前来るだろ?」「行きますけど」「けど?」「なんか九十三先輩に行くって二つ返事で言うの、(しゃく)だなあと思って」「お前先輩をなんだと思ってんだよ」と憎まれ口を叩きながらも仲良く体育館倉庫へ向かう。雲雀くんに任せてさようならというのも気が引けたので、後ろをついていくと、倉庫では山口先生が「お前ら、こういうときは働いて便利だな」と多分群青のことを誉めてくれていた。

「てか、なんで明後日焼肉なんすか」
「体育祭の打ち上げ」
「だからなんでそれを明後日やるんですかって聞いてるんですよ」
「クラスの打ち上げと被るからじゃないんですか?」
「いや群青(おれら)はクラスに居場所とかないから」とんでもない一言をしれっと放ちながら「今日やると汗臭いからイヤだって永人が言うんだよ」
「どうせ焼肉臭くなるのに」
「な! 俺もそう言ったんだけどな。恋する乙女じゃねーんだから」

 ……この場において非常に不適切な形容で(ののし)った挙句、九十三先輩は「お、噂すれば永人だ。んじゃ時間は明日連絡入れるからー」と前方を歩く蛍さんを追いかけて行ってしまった。

 沈黙が落ちた。グラウンドの人はまばらで、少なくとも私達の会話がごく自然に耳に入るような距離に人はいなくて、でもきっと私達が喋っているのを見れば、耳を澄ませる人がいるのは分かっていた。

「……赤組優勝だったね、おめでと」
「ああ」

 結果、できるだけ当たり障りのない話を選ぶしかなくなる。雲雀くんがそんなものに興味がないことは分かっていたけれど、場を繋ぐにはそれしかなかった。

「……あと1年生アンカー、すごく速かった。や、身体測定の結果聞いて雲雀くんの足が速いのは知ってたんだけど」
「……まあ、走るなんてサルでもできるだろ」
「でもみんなが速く走れるわけじゃないじゃん」
「結局どう地面を蹴ればいいか分かってるか分かってないかって話だから」
「それは理論の話じゃん、みんながみんな体の動きに変えられるわけじゃないし」
「三国って足速いんだっけ」
「平均。8秒は切らないから」
「平均よりは速いんじゃねーの、それ」
「厳密な女子高校生平均なんて知らないし……」

 下駄箱に靴を入れる間、5組の人がいたので会話は止まった。そのままなんとなく無言になり、そのまま着替えのために雲雀くんは6組、私は5組に戻る。陽菜が先に帰ってきていて「お、英凜、遅かったな」ともう制服に着替えていた。

「……片付けしてた」
「ああ、そういう。あとクラスで打ち上げ行くって話あるけど、お前来る?」
「ううん、行かない」

 朝、おばあちゃんが「今日はトンカツにしようね」と話していたことを思い出す。時間的にはまだ準備はしてないだろうけれど、おばあちゃんなりに体育祭後の私をねぎらいたい気持ちがあるのだと思う。でもそんなことを知らない陽菜は「お前相変わらずノリ悪いな」と笑った。

「てかそっか、雲雀に返事しなきゃだもんな」