そして、閉会式後の片付けの時間に「みーくーにちゃーん」と九十三先輩に大声で呼ばれるから何かと思ったら、ハチマキを押し付けられた。端には「ツクミ」と下手な字で名前が書いてあるし、私達のハチマキと違って少し色も褪せていた。
「……洗ってこいってことですか?」
「え、俺そんな後輩いびりする先輩だと思われてんの? 違うよー、ハチマキあげるよーって話。ほら、誰にも貰われないの寂しいからさ」
どうやら3年生のハチマキは、制服の第二ボタンと同じく、後輩にとって大事な意味を持つらしい。ただ、少なくとも、先輩のほうから後輩に押し付けるものではないはずだ。
その意味を知ってか知らずか、九十三先輩は「あ、これ永人のねー。んでこっちは中山のでー」と先輩を代表して私に4本のハチマキを押し付けた。
「……なんで私に」
「だって雲雀とかもらってくれないっしょ? あ、俺ら明後日打ち上げするけど、三国ちゃんも来る? 焼肉」
なんでこの人達は暑い日に暑いものを食べたがるのだろう……。そこはかとなく疑問だったけれど焼肉なら年中無休だろうか。そんなことを考えながら「……昴夜たちも行くなら」と頷けば、九十三先輩は途端にきょとんと目を丸くする。
「三国ちゃんって昴夜のこと名前で呼んでたっけ?」
「……呼んでましたよ」
「そうだっけ? そっか。雲雀のことも呼んであげなよ。あ、俺は? ケージ先輩って呼ぶのはどう?」
「みんながツクミ先輩って呼ぶので、名前で呼ぶと誰だか……」
「そうなんだよなあ、男って意外と名前で呼ばないんだよな。永人はね、蛍って名字がヤだから永人って呼ぶんだけど。あ、だから三国ちゃんも永人って呼んだほうがいいんじゃない?」
「……それはやっぱり関係性というか、距離感というか、そういう問題が」
くるくると先輩達のハチマキを丸めてポケットに押し込みながら、九十三先輩の隣でテントの骨組みに手を伸ばしたけれど届かず「あー、こういうのはね、女の子は無理無理」と笑われたし、代わりに九十三先輩が解体作業を引き受けてくれた。仕方なく、その背後に立ったまま、テントが解体される様子を眺める。
「……3年生の先輩方って」
「そーだよ、もう残すイベントは文化祭だけ。悲しいよねえ、俺達あと半年もしたら卒業だよ? 寂しいよねえ」
「……なんで蛍さんが私を特別扱いするのか、理由を聞きませんよね」
突然のジャブに、九十三先輩は無言だった。ガチャガチャと金属音だけが聞こえていて、でも当然、私の声を聞こえていないふりをするには細やかな音に過ぎなかった。
「……3年生の先輩達は、みんな蛍さんが私を特別扱いする理由を知ってるんですよね」
私と雲雀くんの関係さえ、デリカシーなくいじり倒し、下世話に首を突っ込んで楽しむほど軽薄な先輩達が、実は一度も蛍さんの愛人説に口を出したことがない。正確には、「愛人」だと笑いはしても、なぜ愛人なのかを問いただしたことが一度もない。
疑問を口にするのは、せいぜい能勢さんのような2年生だけ。3年生の先輩は、なんなら蛍さんと対等であるはずの3年生のほうが、何も聞かない。それは私が知っている3年生の先輩像とちぐはぐだった。
「知ってると言えば知ってるし、知らないと言えば知らないかなあ」
ひょいと九十三先輩は鉄パイプを肩に乗せて歩き出してしまう。この隙に聞けないと聞くタイミングがない、逃してなるものか、とその脇に置いてあるテントの布を持って追いかければ「三国ちゃん、とてとてついて来んの可愛いね」といつもの調子で誤魔化された。
「……洗ってこいってことですか?」
「え、俺そんな後輩いびりする先輩だと思われてんの? 違うよー、ハチマキあげるよーって話。ほら、誰にも貰われないの寂しいからさ」
どうやら3年生のハチマキは、制服の第二ボタンと同じく、後輩にとって大事な意味を持つらしい。ただ、少なくとも、先輩のほうから後輩に押し付けるものではないはずだ。
その意味を知ってか知らずか、九十三先輩は「あ、これ永人のねー。んでこっちは中山のでー」と先輩を代表して私に4本のハチマキを押し付けた。
「……なんで私に」
「だって雲雀とかもらってくれないっしょ? あ、俺ら明後日打ち上げするけど、三国ちゃんも来る? 焼肉」
なんでこの人達は暑い日に暑いものを食べたがるのだろう……。そこはかとなく疑問だったけれど焼肉なら年中無休だろうか。そんなことを考えながら「……昴夜たちも行くなら」と頷けば、九十三先輩は途端にきょとんと目を丸くする。
「三国ちゃんって昴夜のこと名前で呼んでたっけ?」
「……呼んでましたよ」
「そうだっけ? そっか。雲雀のことも呼んであげなよ。あ、俺は? ケージ先輩って呼ぶのはどう?」
「みんながツクミ先輩って呼ぶので、名前で呼ぶと誰だか……」
「そうなんだよなあ、男って意外と名前で呼ばないんだよな。永人はね、蛍って名字がヤだから永人って呼ぶんだけど。あ、だから三国ちゃんも永人って呼んだほうがいいんじゃない?」
「……それはやっぱり関係性というか、距離感というか、そういう問題が」
くるくると先輩達のハチマキを丸めてポケットに押し込みながら、九十三先輩の隣でテントの骨組みに手を伸ばしたけれど届かず「あー、こういうのはね、女の子は無理無理」と笑われたし、代わりに九十三先輩が解体作業を引き受けてくれた。仕方なく、その背後に立ったまま、テントが解体される様子を眺める。
「……3年生の先輩方って」
「そーだよ、もう残すイベントは文化祭だけ。悲しいよねえ、俺達あと半年もしたら卒業だよ? 寂しいよねえ」
「……なんで蛍さんが私を特別扱いするのか、理由を聞きませんよね」
突然のジャブに、九十三先輩は無言だった。ガチャガチャと金属音だけが聞こえていて、でも当然、私の声を聞こえていないふりをするには細やかな音に過ぎなかった。
「……3年生の先輩達は、みんな蛍さんが私を特別扱いする理由を知ってるんですよね」
私と雲雀くんの関係さえ、デリカシーなくいじり倒し、下世話に首を突っ込んで楽しむほど軽薄な先輩達が、実は一度も蛍さんの愛人説に口を出したことがない。正確には、「愛人」だと笑いはしても、なぜ愛人なのかを問いただしたことが一度もない。
疑問を口にするのは、せいぜい能勢さんのような2年生だけ。3年生の先輩は、なんなら蛍さんと対等であるはずの3年生のほうが、何も聞かない。それは私が知っている3年生の先輩像とちぐはぐだった。
「知ってると言えば知ってるし、知らないと言えば知らないかなあ」
ひょいと九十三先輩は鉄パイプを肩に乗せて歩き出してしまう。この隙に聞けないと聞くタイミングがない、逃してなるものか、とその脇に置いてあるテントの布を持って追いかければ「三国ちゃん、とてとてついて来んの可愛いね」といつもの調子で誤魔化された。



