ぼくらは群青を探している

 どれから探ればいいのか分からなくて、じっと考え込んだまま、青組のテントに戻る。ただ一つ、気になるのは――。

「んあ、英凜」

 ふ、と桜井くんの声に顔を上げる。桜井くんの金髪は、なぜかびっしゃりと水に濡れて、額からガバッとかき上げられていた。そのせいなのか、ハチマキは額に巻かれずに肩に載っている。

「……どうしてそんなに濡れてるの」
「リレー終わった後、暑くって。もう我慢できなくて水浴びた、どうせもう片付けて帰るだけだし」
「そんな、犬じゃないんだから」
「わっふわっふ」

 ぺろっと悪戯っぽく舌を出して目だけで笑ってみせる桜井くんが可愛くて、思わず笑ってしまった。

「リレー、俺の活躍見てた?」
「見てたよ、先輩達と。チビなのに速いねって」
「チビは余計じゃん。てかツクミン先輩速くね? 確かにダッシュで勝ったことないんだけどさあ、ツクミン先輩カッケーってなった!」
「その話、私達もしてた。黙ってたらモテるのにって」
「あーね。でもツクミン先輩って喋ったら優しいじゃん、黙ってたらむしろちょっと怖くない?」

 あ、整列だ、と桜井くんが体の向きを変える。拍子に、その肩からハチマキが滑り落ちた。慌てて私がキャッチしたけれど、桜井くんは気づかずにそのまま足を進めようとする。

 口を開いて――一瞬、躊躇(ちゅうちょ)した。

「――昴夜、ハチマキ」

 金髪が、水を滴らせながら振り向いた。長い睫毛が、聞き間違えたかのようにぱたりぱたりと上下する。

「ハチマキ。落ちたよ」
「あー……うん」

 するりと、私の手から青色のハチマキが抜き取られる。桜井くんの目がうろうろと彷徨うから、つい、からかうような気持ちで笑った。

「どうして、昴夜のほうが戸惑ってるの」
「……なんか不意打ちだったから。なんかびっくりした」
「名前で呼ぶって約束したじゃん」
「……そうなんだけどさ」

 その戸惑いを動きにするように、桜井くんは、もたもたと頭にハチマキを乗せたまま、左右から両手で引っ張る。ハチマキが水に濡れて、じんわりと色を変えていく。

「……なんやかんや言って、英凜は『桜井くん』呼びのままなのかなって思ってた。今週もなんか無理矢理俺のこと呼ぼうとしない感じあったし。なんで急に?」
「……騎馬戦の前に胡桃と喋ってて思ったんだけど。やっぱり、名前を呼ぶことって、親しみの必要条件だけど十分条件じゃないなって思って」
「あー、それ俺苦手なヤツ。もっと分かりやすく言って」

 本当に、桜井くんはそれが苦手なのだろうか。普段話していれば、苦手じゃないことはバレバレなのに。それとも、授業で習った言葉を使うと拒否反応を示してしまうのだろうか。

「私が昴夜を昴夜って呼んでも、それは私と昴夜が特別に親しいことを意味するものじゃないって話」

 もし、分かっていて促したのだとしても、それはそれで、私がはっきりと口に出して、桜井くんにも私にも言い聞かせることに意味があるというのなら、それはそれでいい気がした。

「……俺なんか意地悪言われてない? 気のせい?」
「気のせいだよ」

 コテン、コテン、と桜井くんは何度か首を左右に傾げた。でも「そっか、気のせいかな」と首を傾げるだけで、それ以上のことは言わなかった。

 蛍さんの読み通り、優勝は赤組だった。蓋を開けてみれば、その得点差はあまりにも歴然としていて、棒倒し、騎馬戦、色別リレーの全てを制したことがいかに優位を得るために重要なものだったかを理解させられた。