ぼくらは群青を探している

 能勢さんの残念そうな声の前を、九十三先輩が駆け抜ける。いつものヘラッとしたしまりのない笑みは影も形もなく、アッシュブルーの髪がまるで目に見える突風のようだった。

「……九十三先輩、黙ってれば恰好いいんですね」
「ハハッ、間違いない」蛍さんは明るく口を開けて笑って「アイツはマジで口開かなきゃモテんだよ。口開くからダメなんだけどな」

 その九十三先輩が差を詰め、最後の大将(アンカー)戦で青組は赤組に追い抜かれた。隣の蛍さんを含め、赤組の先輩達が「よっし!」と声を上げ、能勢さんを含む青組の先輩からは残念そうな声が漏れた。

「これで優勝は赤組(ウチ)が貰いだな」
「棒倒しと騎馬戦が本当にズルすぎですよ。まー、うちは色変えないから、桜井くんが3年生になる頃には青組が勝てそうですけどね」
「そン時は雲雀がいんだろ」
「あー、そうだった。まあ桜井くんと雲雀くんが揃って同じ色になってるよりマシですかね」

 終わった終わった、と後ろの先輩達が次々立ち上がる。蛍さんも腰を上げ、手に持っていたハチマキを額で結び直し、ふと私を見る。

「そういえば、|曽根(元カノ)が因縁つけてきたらしいな。悪かったな」
「……誰から聞いたんですか」
「芳喜。もう別れたのにうるせーやつだよな」

 やれやれ、とでも聞こえてきそうな口ぶりで、蛍さんはピンッとハチマキの端を指ではじいた。

「まあアイツには俺から言っとく。愛人説は俺も悪かったし」
「……愛人じゃなくて、妹みたいなものだって、ですか?」

 その探りは、ひとつの賭けだった。

 遅かれ早かれ、元カノさんが私に何を話したか、蛍さんは聞くことになるはずだ。蛍さんの元カノさんは「どうせ妹の代わりなんだから調子に乗るな」と言ったとまでは言わないだろうけれど、能勢さんから「そう言ってたんですけど、実際どうなんですか?」くらいの探りを入れられることは充分考えられる。能勢さん自身、群青のNo.2でありながら、そこを知らないのだから。

 それを先にされてしまって、私に情報が降りてこないより、この場で手に入れたほうがいいはずだった。

 そして、まるでそれこそが蛍さんの秘密だったかのように、ピンクブラウンの前髪の隙間から、大きく見開かれた目が、私を見た。

「……誰から聞いた」

 いつもより早口だった。

「……その、元カノさんから」
「……マジで余計なことしか言わねーな」

 舌打ち混じりにぼやきながら、せっかくハチマキを結んだばかりなのに、ハチマキがずれるのにも構わず髪をぐしゃぐしゃっとかき混ぜる。

「別に、妹の代わりになんかしてねーよ。安心しろ」
「……妹さんって……その、亡くなってるんですか?」
「はあ? 死んでねーよ、勝手に殺すな」

 あ、なんだ、よかった――。ホッと安堵した私を、蛍さんはじっと見つめる。

「……お前、知らねーんだな」
「……え、何をですか」
「……いや、いい」

 ふいっと、蛍さんは顔を背け、そのまま足も赤組の整列方向へと向けてしまった。じっと、その背中を目だけで追いかける。

 妹がいるのは本当。その妹は死んでないけど、何年も会ってない。……能勢さんの言う離婚説が妥当だろうか。

 で、その妹と私の関係は? 私の中学生のときの写真を持っていることと関係がある? その妹さんと私が中学生のときになんらかの接触をしている?

 それは、蛍さんが新庄と関わっていることとなにか関係がある?