「……そうだね」
「笹部は数学できるよ、期末も点数よかったみたいだし。っていうか、そう考えたらますます英凜って頭よすぎるのがもったいないよね。笹部も、英凜じゃなきゃ余裕だったのに」
仮に笹部くんが数学をできるのだとしたら、もう少し笹部くんとの話は通じやすかった気がする。そう感じるせいか、胡桃の話すことの意味が、あまり分からなかった。
「……桜井くんって、昔からあんな感じなの?」
「なにが?」
つい、欲望に負けて桜井くんの名前を口に出した。
「奔放っていうか……天真爛漫っていうか」
「んー、うーん、それは英凜が昴夜のことを良く見すぎ。ただのわんぱくなガキって感じだよ。ボール1個あれば遊べるって感じのタイプで、あたしがいても全然気にしないで泥まみれになるし、夏になったら川でも海でも飛び込むし」
「……いまと全然変わらないね」
「でしょ。あたしが塾に行った帰りにチャンバラ遊びして、竹で額切ったとか言って、血まみれになって帰ってきたとかあったの! もう昴夜のお母さんがすっごい慌ててた。……すごく美人なお母さんだったんだよねー。懐かし」
そうか、胡桃は桜井くんのお母さんのことも知ってるんだ。私は、桜井くんのお母さんが事故で亡くなった以上のことは知らないけれど。
「……あ、昴夜のお母さん、亡くなってるの、知ってる?」
「……うん。事故だったって」
「そ。飲酒運転だったらしいよ。だから昴夜、大人になってもお酒は絶対飲まないって決めてるんだって。お父さんは結構飲むんだけど、代わりに車は全然運転しないの」
お盆にお父さんが帰ってきて、あと5年くらいで晩酌に付き合えるようになるから待ってるって話すんだけど、昴夜は絶対飲まないって突っぱねるんだって。昴夜は小さい頃にプールで溺れかけたことがあって、そういうのは結構トラウマになりがちなのに、全然気にしないし、むしろ海とかプールとか大好きなんだよね、バカな昴夜らしい。ピアノを弾いてみたいんだって言って、最近たまにキーボードで弾いてるんだけど、これがめちゃくちゃ下手で、私が行くと弾くのやめちゃうの。部屋に楽譜まで転がってて、本気なんだなって思ったんだけど、ガチの楽譜で、昴夜が弾けるレベルじゃないんだよね。――3年男子の学年競技を見ながら、胡桃はそんなことを話していた。
ピアノが好きだということ以外、私の知らない話だった。なんなら私は桜井くんの部屋にすら入ったことがない。せいぜい、あの家の居間までだ。
きっと私は、ずっと桜井くんの部屋のことなんて知らないままだ。そんなことを考えていて、ふと笑みが零れた。
「ね、昴夜、昔から全然変わんないでしょ」
「……そうだね。なんか、胡桃が知ってる桜井くんって、本当に桜井くんの全部で、そのまま桜井くんなんだなって感じ」
「うーん、そうかも。ただの腐れ縁なのに、結局あたしが一番昴夜のこと知っちゃってる」
困ったように笑う様子を見ていて、どこか腑に落ちた。腑に落ちたというか、納得したというか、ストンと胸に落ちるものがあった。
「あ、てかやば、騎馬戦始まるじゃん。見る準備しないと。じゃねー、英凜」
「うん」
棒倒しは赤組の圧勝だった。3年女子の学年競技も終わり、男子の騎馬戦が始まって、グラウンドは肌色で埋め尽くされる。騎馬戦では上裸と決まっているからだ。ラグビーよろしく、服を掴んで引き倒されると困るからだろうか。
「笹部は数学できるよ、期末も点数よかったみたいだし。っていうか、そう考えたらますます英凜って頭よすぎるのがもったいないよね。笹部も、英凜じゃなきゃ余裕だったのに」
仮に笹部くんが数学をできるのだとしたら、もう少し笹部くんとの話は通じやすかった気がする。そう感じるせいか、胡桃の話すことの意味が、あまり分からなかった。
「……桜井くんって、昔からあんな感じなの?」
「なにが?」
つい、欲望に負けて桜井くんの名前を口に出した。
「奔放っていうか……天真爛漫っていうか」
「んー、うーん、それは英凜が昴夜のことを良く見すぎ。ただのわんぱくなガキって感じだよ。ボール1個あれば遊べるって感じのタイプで、あたしがいても全然気にしないで泥まみれになるし、夏になったら川でも海でも飛び込むし」
「……いまと全然変わらないね」
「でしょ。あたしが塾に行った帰りにチャンバラ遊びして、竹で額切ったとか言って、血まみれになって帰ってきたとかあったの! もう昴夜のお母さんがすっごい慌ててた。……すごく美人なお母さんだったんだよねー。懐かし」
そうか、胡桃は桜井くんのお母さんのことも知ってるんだ。私は、桜井くんのお母さんが事故で亡くなった以上のことは知らないけれど。
「……あ、昴夜のお母さん、亡くなってるの、知ってる?」
「……うん。事故だったって」
「そ。飲酒運転だったらしいよ。だから昴夜、大人になってもお酒は絶対飲まないって決めてるんだって。お父さんは結構飲むんだけど、代わりに車は全然運転しないの」
お盆にお父さんが帰ってきて、あと5年くらいで晩酌に付き合えるようになるから待ってるって話すんだけど、昴夜は絶対飲まないって突っぱねるんだって。昴夜は小さい頃にプールで溺れかけたことがあって、そういうのは結構トラウマになりがちなのに、全然気にしないし、むしろ海とかプールとか大好きなんだよね、バカな昴夜らしい。ピアノを弾いてみたいんだって言って、最近たまにキーボードで弾いてるんだけど、これがめちゃくちゃ下手で、私が行くと弾くのやめちゃうの。部屋に楽譜まで転がってて、本気なんだなって思ったんだけど、ガチの楽譜で、昴夜が弾けるレベルじゃないんだよね。――3年男子の学年競技を見ながら、胡桃はそんなことを話していた。
ピアノが好きだということ以外、私の知らない話だった。なんなら私は桜井くんの部屋にすら入ったことがない。せいぜい、あの家の居間までだ。
きっと私は、ずっと桜井くんの部屋のことなんて知らないままだ。そんなことを考えていて、ふと笑みが零れた。
「ね、昴夜、昔から全然変わんないでしょ」
「……そうだね。なんか、胡桃が知ってる桜井くんって、本当に桜井くんの全部で、そのまま桜井くんなんだなって感じ」
「うーん、そうかも。ただの腐れ縁なのに、結局あたしが一番昴夜のこと知っちゃってる」
困ったように笑う様子を見ていて、どこか腑に落ちた。腑に落ちたというか、納得したというか、ストンと胸に落ちるものがあった。
「あ、てかやば、騎馬戦始まるじゃん。見る準備しないと。じゃねー、英凜」
「うん」
棒倒しは赤組の圧勝だった。3年女子の学年競技も終わり、男子の騎馬戦が始まって、グラウンドは肌色で埋め尽くされる。騎馬戦では上裸と決まっているからだ。ラグビーよろしく、服を掴んで引き倒されると困るからだろうか。



