「そうだよ。っていうか、だからそうだよー、絶対侑生って英凜のこと好きなのに、英凜にフラれたって噂流れてるのさすがにカワイソすぎない? っていうかこれで英凜も侑生のこと意識してたりしない? そういうのどう?」
ぐいぐい来る……。爛々と輝く胡桃の目の温度に気付かないふりをして、必死に3年生の棒倒しに意識を集中させた。実際、赤組と青組の戦いでは蛍さんの立つ棒はほとんど揺れず、青組の棒に群がる赤組によって、棒の上の大将が斜めに倒れた棒にしがみついているところだった。青組が負けるのは時間の問題だろう――なんて考えているうちに、棒がぐらりと更にかしいで、そのまま生徒の群れの中に沈んだ。
「あ、負けた……」
「え、あ、本当だ。ま、蛍先輩相手じゃ仕方ないよねー。でも黄組は体操部の元キャプテンだから。で? どうなの、英凜って侑生のことどう思ってるの?」
やっぱり胡桃からは逃れられない……。陽菜とはまた違う温度感で「てかぶっちゃけ侑生だったら好きじゃなくても全然アリじゃない? イケメンだし将来有望だし」と目を輝かせたままだ。
「……別に、ほら……そういう話じゃ……ないから……」
「だからー、ちょっと意識しちゃうでしょって話。でもあたしは英凜は蛍先輩と付き合うんだと思ってた、だからそこはちょっと予想ハズレだったかも」
突飛過ぎて心臓が全く反応しない人選に、ぱちくりと目を瞬かせてしまった。胡桃は人差し指を唇に当てながら「だってー、蛍先輩は英凜のことすっごい可愛がってるじゃん?」と小首を傾げる。
「元カノさんともそれで別れたって聞いたし……蛍先輩は英凜のこと好きなんだと思ってたけどなー。噂聞いても告白しないってことはそんなことなかったのかな。いや、ここは漁夫の利を狙ってる可能性……!」
「|利ようがなくない? それに……蛍さんのはなんか……」
元カノさんという比較的身近な人という点から信憑性の高さを裏付けられるとすれば、死んだ妹の代わりという説が濃厚……。さすがの私も、蛍さんに特別扱いされていることは分かるけれど、その特別の理由が恋愛にあるとは、どうしても思えない。
「ま、英凜は頭のいい人が好きなんだもんね。侑生みたいなのは特別だけど、基本は特別科じゃないとダメかー。っていうか、それで言ったら笹部はなんでダメなのって感じするけど、英凜の頭がよすぎるんだよね」
「……笹部くんは頭は良くないんじゃないかな。桜井くんのほうが――」
よっぽど頭が良いよ――と言いかけて口を噤んだ。胡桃の前で桜井くんの名前を出すのは……、なにか、私にとってよくない結果をもたらすような気がしたから。
「昴夜のほうが?」胡桃は首を傾げて「昴夜が笹部よりいいのって英語の成績くらいじゃない? 笹部、7月の模試の英語4番だって言ってたけど、あれ、昴夜が3番だったんでしょ?」
「……らしいね」
つい、胡桃は桜井くんの名前を簡単に呼べることの意味を考えてしまった。私はたったのその一言を呼ぶだけでも高くて見えないハードルを越えるのに必死だったけれど、胡桃は呼吸をするように簡単に呼ぶことができる。
それは、桜井くんと胡桃、桜井くんと私との、如実な距離の差だ。そんなことは前から――なんなら口にも出して分かっていたことだったはずだったのだけれど、どうしてかそんなことを考えた。
「英語できるからって頭いいみたいなのってあんまりないよねー。やっぱり数学できる人って頭良いなって思うけど。ほら、昴夜、数学は全然できないじゃん?」
ぐいぐい来る……。爛々と輝く胡桃の目の温度に気付かないふりをして、必死に3年生の棒倒しに意識を集中させた。実際、赤組と青組の戦いでは蛍さんの立つ棒はほとんど揺れず、青組の棒に群がる赤組によって、棒の上の大将が斜めに倒れた棒にしがみついているところだった。青組が負けるのは時間の問題だろう――なんて考えているうちに、棒がぐらりと更にかしいで、そのまま生徒の群れの中に沈んだ。
「あ、負けた……」
「え、あ、本当だ。ま、蛍先輩相手じゃ仕方ないよねー。でも黄組は体操部の元キャプテンだから。で? どうなの、英凜って侑生のことどう思ってるの?」
やっぱり胡桃からは逃れられない……。陽菜とはまた違う温度感で「てかぶっちゃけ侑生だったら好きじゃなくても全然アリじゃない? イケメンだし将来有望だし」と目を輝かせたままだ。
「……別に、ほら……そういう話じゃ……ないから……」
「だからー、ちょっと意識しちゃうでしょって話。でもあたしは英凜は蛍先輩と付き合うんだと思ってた、だからそこはちょっと予想ハズレだったかも」
突飛過ぎて心臓が全く反応しない人選に、ぱちくりと目を瞬かせてしまった。胡桃は人差し指を唇に当てながら「だってー、蛍先輩は英凜のことすっごい可愛がってるじゃん?」と小首を傾げる。
「元カノさんともそれで別れたって聞いたし……蛍先輩は英凜のこと好きなんだと思ってたけどなー。噂聞いても告白しないってことはそんなことなかったのかな。いや、ここは漁夫の利を狙ってる可能性……!」
「|利ようがなくない? それに……蛍さんのはなんか……」
元カノさんという比較的身近な人という点から信憑性の高さを裏付けられるとすれば、死んだ妹の代わりという説が濃厚……。さすがの私も、蛍さんに特別扱いされていることは分かるけれど、その特別の理由が恋愛にあるとは、どうしても思えない。
「ま、英凜は頭のいい人が好きなんだもんね。侑生みたいなのは特別だけど、基本は特別科じゃないとダメかー。っていうか、それで言ったら笹部はなんでダメなのって感じするけど、英凜の頭がよすぎるんだよね」
「……笹部くんは頭は良くないんじゃないかな。桜井くんのほうが――」
よっぽど頭が良いよ――と言いかけて口を噤んだ。胡桃の前で桜井くんの名前を出すのは……、なにか、私にとってよくない結果をもたらすような気がしたから。
「昴夜のほうが?」胡桃は首を傾げて「昴夜が笹部よりいいのって英語の成績くらいじゃない? 笹部、7月の模試の英語4番だって言ってたけど、あれ、昴夜が3番だったんでしょ?」
「……らしいね」
つい、胡桃は桜井くんの名前を簡単に呼べることの意味を考えてしまった。私はたったのその一言を呼ぶだけでも高くて見えないハードルを越えるのに必死だったけれど、胡桃は呼吸をするように簡単に呼ぶことができる。
それは、桜井くんと胡桃、桜井くんと私との、如実な距離の差だ。そんなことは前から――なんなら口にも出して分かっていたことだったはずだったのだけれど、どうしてかそんなことを考えた。
「英語できるからって頭いいみたいなのってあんまりないよねー。やっぱり数学できる人って頭良いなって思うけど。ほら、昴夜、数学は全然できないじゃん?」



