ぼくらは群青を探している

 青組のテントの下へ戻ると、これから始まる3年男子学年競技で盛り上がっていた。これからのプログラムは3年男子学年競技、3年女子学年競技、男子騎馬戦、教員選抜リレー、色別対抗リレーとなっている。花形競技が集中しているせいか、前方は観戦を待ち望んでいた人達で固まっていた。この調子じゃ、テントの下から観戦することはできなさそうだ。仕方なくテントから出て、全体を見渡せそうな位置に陣取る。日が当たるせいで周りには誰もいなかった。

「えーりっ!」

 その両肩をガシッと背後から掴まれたかと思うと、にこっと笑みを浮かべた胡桃が私を見上げていた。体育祭も終盤に差し掛かって、大抵の子は髪も肌もくしゃくしゃなはずなのに、胡桃の髪はいつものサラサラのツインテールのままで、いつもの薄化粧も全く崩れていない。

 ああ、やっぱり、胡桃は私と違って特別な美少女なんだなと痛感する。

「……なんか、久しぶりだね」
「だって英凜、ずっと噂になってるんだもん。あたしが話しかけに行ったら『なんて言ってた?』って余計に聞かれるんじゃないかと思って。みんなが3年競技見てる間がチャンス」

 確かに、胡桃なら何か聞き出せるんじゃないかと思う人は多いかもしれない。そして3年の棒倒しは目を離せない激しい|戦い(・・)だろうから、その読みもきっと正しい。私もみんなと同じようにグラウンドの中心へ視線を向けると、赤色のテープの貼られた棒に蛍さんが上っているところだった。

「あ、蛍先輩とか見たい? 前行く?」
「……ううん、ここからでも見えると思ってここに来たから、大丈夫」
「今年は絶対赤組だよねー。赤組に運動神経いい人が集中してるんだって」

 私が知っているのは蛍さんと九十三先輩くらいだ。ただ、ほんの十数センチほどの直径しかなさそうな棒の上に立つ蛍さんを見れば、その運動神経の良さは分かる。手で押さえながらとはいえ、あんな不安定なところに留まれるわけがない。私なら上に立つだけで精一杯だ。

「で、ごめん、あたしも例の噂のことはすっごく聞きたいんだけど」コソコソと胡桃は私に耳打ちして「侑生のことフッたって本当?」
「……フッてないよ」
「だーよね! 英凜ならフんないよね!」
「……どういうこと?」

 みんなの反応と違うということは、噂の聞こえ方も違ったことを意味する。胡桃の明るい、どこかホッとしたような声には怪訝さを隠さずにはいられなかった。

「だって、侑生が英凜のこと好きなのって、結構分かりやすいじゃん? 英凜、別に天然でもないんだし、気付いてないはずないって思って」

 ザクリ……と無垢(むく)な指摘が良心に突き刺さる。そして私のその機微(きび)を感じ取ったのか、胡桃はその丸い目を(ゆが)めて眉間に皺を寄せ「……もしかして気付いてなかった? マジ?」と怪しい声を出す。

「え、だって侑生だよ? 英凜以外の女子と全然喋んないし、ってかあたしなんてメアドも知らないくらいだし!」
「……雲雀くんのメアドは、陽菜も知ってるから、大して意味を持つ事実じゃないと……」
「え、そうなの。でもそれって英凜の友達だからじゃない?」

 それを言えば胡桃も私の友達ではあると思うんだけどな……。ただ、雲雀くんが……、私を好きだというのは本当なので、胡桃の指摘をそう躍起(やっき)になって否定する必要はない。

「侑生が女の子連れてるところなんて見ないしー……っていうか、笹部相手にあんなにむきになるのも侑生らしくないもん、ほら、侑生っていつもあんな感じでクールだから」
「……そうかな」