ぼくらは群青を探している

 知らない、と首を横に振ると「単純接触原理とも言うんだけど」と付け加えられた。でもやっぱり知らなかった。

「簡単に言えば、人間の接触回数と好感度には相関関係があるって話」
「形だけでも付き合って接触する口実を増やすことで、相手の好感度を上げることが可能になるってことですか?」
「そそ。だからとりあえずでも付き合ってもらうことには意味と価値があるんだよ」

 ……雲雀くんが、“そういう目で見ることができる可能性があるなら付き合って”と言ったのは、それを見越してのことだったのだろうか。

「なんでそんなこと聞くの? 雲雀くんの告白を分析したかった?」
「……分析っていうか……」

 雲雀くんの告白にどう返事をするのが正解なのか、考えたかったから……。

「俺はいいと思うけどね、雲雀くんと付き合うの」能勢さんは煙草を足元で揉み消しながら「三国ちゃん、男の目に(うと)いから。そういう意味では雲雀くんじゃなくてもいいけど、せっかく雲雀くんが三国ちゃんのこと好きなわけだし。それに、雲雀くんは三国ちゃんの周りの男子ではベストじゃないかな」

 男の目に疎いという指摘も気になったけれど、どちらかというと雲雀くんと私の組み合わせの見え方のほうが気になった。

「ベスト……、っていうのは……」
「見張りありがと。そろそろ戻ろうか、ちょうど色別演技終わる頃だろうし」

 ……能勢さんは続きを教えてくれなかった。口にブレスケア用のタブレットを放り込み「ジャージに臭いがつくのが難点なんだよね。火薬の臭いですって誤魔化せないかな」なんて(うそぶ)くだけだ。

「三国ちゃんも、ごめんね。ジャージに臭いついてない?」
「いえ、風上だったので……」

 臭い……。赤倉庫で、蛍さんから煙草の臭いがしたことを思い出す。

「……能勢さんって、蛍さんの横で煙草を吸うことってあるんですか?」
「ないない。嫌がるから、永人さん」有り得ない、と笑いながら「それに、一応俺だって後輩だからね。後輩|然()としてるよ、永人さんの隣で煙草吸ったりしないって」

 ……赤倉庫から助けてもらった後、蛍さんから微かに煙草の臭いがした。その話を、雲雀くんは「多分能勢さんだ」と話した。蛍さんが煙草を嫌いだというだけで、群青にも喫煙者はいる、と。

 でも、じゃあ、“3年生で群青のトップの蛍さん”の隣で煙草を吸う人は?

 能勢さんは蛍さんの隣で煙草を吸わない、それは一応後輩だから、それが後輩としての礼儀だから。

 でもきっと、新庄はそんな礼儀なんて持ち合わせていない。新庄なら、蛍さんの前で煙草を吸っていても何もおかしくない。

「なに、どうかした?」
「……いえ……能勢さんって、私達から見たら先輩なんで……意外と後輩っぽくしてるんだなって……」
「はは、まあね。2年生って、1年から見たら先輩なのに3年から見たら後輩だから。ちょっと不思議だよね」

 あの日、赤倉庫に来る前、蛍さんって誰かに会ってましたか? ――そう訊ねたいのはやまやまだったけれど、能勢さん相手にそう口にするのは諸刃の剣だった。こんなところで急にその話を持ち出せば、蛍さんと新庄の関係――ひいては能勢さんと新庄の関係を疑っていると気づかれる。

「じゃ、ま、ありがとね。この後騎馬戦だから助かったよ」

 まるでドーピングを済ませることができたかのように、能勢さんは悠々と立ち去った。お陰でそれ以上のことを聞くことも、探ることもできなかった。