「後輩いじめちゃだめですよ、先輩」
その能勢さんの声と同時に、サッと蛍さんの元カノさんの頬に朱が差した。後輩いびりを見られたからか、はたまた相手が能勢さんだからかは分からなかったけれど、少なくとも私への攻撃が失速したのは間違いなかった。
「……いじめてなんかなくない。永人の愛人、いつからやってるのって聞いてるだけだし」
「三国ちゃんは永人さんの愛人なんてやってないですって。永人さんが愛人作る人じゃないっていうのは曽根先輩がよく知ってるんじゃないですか?」
……そういえば蛍さんは誠実さが売りだなんて話してたっけ。だからって誠実とは限らないけれど。
「……じゃみんなが言ってんのはなに?」
「永人さんがあんまり気に入ってるもんだからふざけて愛人って呼んでたらそういうことになっちゃっただけです。すいませんね、俺らのせいで」
蛍さんの元カノさんがそれに納得したのかどうかは分からなかった。表情に変化はあるけれど、それが嘘を弾劾しようとしてのものなのか、納得してなお納得したくないものなのかまで私には分からない。
「あと、そろそろ赤組の出番終わるんで、三国ちゃんいびってるところ見つからないほうがいいんじゃないですか?」
そっか、わざわざ蛍さんの愛人だのなんだの言い始めるってことは、結局まだ未練があるんだもんな……。そんなことを考えている私の前で、蛍さんの元カノさんは舌打ちまじりに「……別に永人とかどうでもいいけどさ」とその論理的な結論とは真逆のことを口にする。
「……三国さん、永人の愛人なのかどうかは別として、お気に入りだからってあんまり調子乗らないほうがいいんじゃないの」
今週1週間、散々聞こえるように言われた言葉の中には、そのセリフがイヤというほど含まれていた。別に調子に乗ってるつもりはないんだけど、そう見えるのかな……。やっぱり笹部くんが「最近イケてる」のがよくなかったのかもしれない。イケメンをフるなんて何様だと思われているのだろう。
「どうせ、死んだ妹の代わりなんだから。その立場、三国さんじゃなくてもいいんだから」
そんな呑気な思考は、思わぬ情報に叩き潰された。
「なにその顔? 知らないんだ。ま、そうだよね、所詮愛人っていうか、身代わりだし」
死んだの? 蛍さんの妹って、死んでるの?
「え、いや、だって群青の先輩だって、誰も……」
ああでも、群青の先輩達はそもそもメンバーのセンシティブな情報を口にしないのだった。だからそんなことを私が知らなくてもおかしくない。
それに、能勢さんだって、蛍さんは妹さんに何年も会ってないらしいと言っていた。やっぱりあれは死んだことの婉曲表現だったのかもしれない。慌てて能勢さんを見上げたけれど、能勢さんも、どこか怪訝そうに、不安そうに眉を顰めているだけだった。能勢さんも知らない、と。
「だから所詮身代わりって言ってんでしょ。それをモテてるとか、そういうふうに勘違いすんの、やめといたほうがいいよ。イタイだけだから」
まるでその情報格差で優位を確信したかのように、蛍さんの元カノさんはそれだけ吐き捨てて立ち去ってしまった。
呆然と立ち尽くす私の肩には、能勢さんの手が載ったままだった。その能勢さんをもう一度見上げる。蛍さんの元カノさんの発言に困惑した顔はそのままだった。
「……あ、助けていただいてありがとうございます」
その能勢さんの声と同時に、サッと蛍さんの元カノさんの頬に朱が差した。後輩いびりを見られたからか、はたまた相手が能勢さんだからかは分からなかったけれど、少なくとも私への攻撃が失速したのは間違いなかった。
「……いじめてなんかなくない。永人の愛人、いつからやってるのって聞いてるだけだし」
「三国ちゃんは永人さんの愛人なんてやってないですって。永人さんが愛人作る人じゃないっていうのは曽根先輩がよく知ってるんじゃないですか?」
……そういえば蛍さんは誠実さが売りだなんて話してたっけ。だからって誠実とは限らないけれど。
「……じゃみんなが言ってんのはなに?」
「永人さんがあんまり気に入ってるもんだからふざけて愛人って呼んでたらそういうことになっちゃっただけです。すいませんね、俺らのせいで」
蛍さんの元カノさんがそれに納得したのかどうかは分からなかった。表情に変化はあるけれど、それが嘘を弾劾しようとしてのものなのか、納得してなお納得したくないものなのかまで私には分からない。
「あと、そろそろ赤組の出番終わるんで、三国ちゃんいびってるところ見つからないほうがいいんじゃないですか?」
そっか、わざわざ蛍さんの愛人だのなんだの言い始めるってことは、結局まだ未練があるんだもんな……。そんなことを考えている私の前で、蛍さんの元カノさんは舌打ちまじりに「……別に永人とかどうでもいいけどさ」とその論理的な結論とは真逆のことを口にする。
「……三国さん、永人の愛人なのかどうかは別として、お気に入りだからってあんまり調子乗らないほうがいいんじゃないの」
今週1週間、散々聞こえるように言われた言葉の中には、そのセリフがイヤというほど含まれていた。別に調子に乗ってるつもりはないんだけど、そう見えるのかな……。やっぱり笹部くんが「最近イケてる」のがよくなかったのかもしれない。イケメンをフるなんて何様だと思われているのだろう。
「どうせ、死んだ妹の代わりなんだから。その立場、三国さんじゃなくてもいいんだから」
そんな呑気な思考は、思わぬ情報に叩き潰された。
「なにその顔? 知らないんだ。ま、そうだよね、所詮愛人っていうか、身代わりだし」
死んだの? 蛍さんの妹って、死んでるの?
「え、いや、だって群青の先輩だって、誰も……」
ああでも、群青の先輩達はそもそもメンバーのセンシティブな情報を口にしないのだった。だからそんなことを私が知らなくてもおかしくない。
それに、能勢さんだって、蛍さんは妹さんに何年も会ってないらしいと言っていた。やっぱりあれは死んだことの婉曲表現だったのかもしれない。慌てて能勢さんを見上げたけれど、能勢さんも、どこか怪訝そうに、不安そうに眉を顰めているだけだった。能勢さんも知らない、と。
「だから所詮身代わりって言ってんでしょ。それをモテてるとか、そういうふうに勘違いすんの、やめといたほうがいいよ。イタイだけだから」
まるでその情報格差で優位を確信したかのように、蛍さんの元カノさんはそれだけ吐き捨てて立ち去ってしまった。
呆然と立ち尽くす私の肩には、能勢さんの手が載ったままだった。その能勢さんをもう一度見上げる。蛍さんの元カノさんの発言に困惑した顔はそのままだった。
「……あ、助けていただいてありがとうございます」



