ぼくらは群青を探している

「てか侑生、リレー選手やんの?」
「やるだろ、なんで」
「だってバトン渡す練習とかしてないじゃん」
「別に普通にやればいいんだろ」

 ドクリドクリと心臓がうるさく鳴り始めた。でも雲雀くんが来たのがホームルームギリギリだったお陰で、すぐに担任の先生が来て、喋らない口実ができた。なんなら、体育祭のお陰で、ホームルームが終わってすぐ、雲雀くんは桜井くんと連れだって6組に着替えに行った。

 ほーっ、と胸を撫で下ろす私の隣にジャージを置いて、陽菜はニヤニヤと笑みを浮かべる。

「雲雀と一言も喋んないんだな。返事は?」
「まだしてない……」

 雲雀くんの停学当初、どんでもない尾ひれをつけていた噂は、今となっては「笹部が三国にフラれて悪口を言ったから雲雀と群青の先輩に殴られた」という、結局事実ではないものの、穏当なものに落ち着いてはいた。肝心の雲雀くんの公開告白も「公開告白はしていないらしい」とはなっている。体育館にきた先輩達が大声で騒いで帰ってくれたお陰だ。

 ……もしかしたら先輩達はそれを狙っていたのだろうか……と考えている途中で、あのニヤついた顔を思い出して考え直した。ただの結果論に違いない。

「早く返事しちゃえばいいのにさ」陽菜はスカーフをほどいて着替え始めながら「てか雲雀すげーな、あたしだったら1週間も待てねーわ」
「……そんなもん?」
「え、返事なんてすぐ欲しいじゃん。1週間悩んだって無理なもんは無理だし良いもんは良いだろ」

 ……そうだろうか。きっと1週間のどのタイミングで答えなければならなかったかによって、答えは違った気がするけれど。

「てか結局今日返事すんの」
「……今日は、どうしようかな……」

 体育祭の後だと砂埃と汗で雰囲気がないと言われたことを思い出す。雰囲気は要らないにしても、砂埃と汗に汚れた状態で雲雀くんの前に立つのは気が引けた。

「……別に……停学明けって言われただけで体育祭の日って言われたわけじゃないし……来週でもいいかなって……」
「うわー、あたしだったら絶対早く知りたい。代休の丸二日悩みそうだし」

 ……漫画でよくある描写の、良心を(つかさど)る天使と我儘を司る悪魔、その天使のほうが具現化されたかのようなセリフだった。ただ天使にしてはちょっと口調が強いので、天使っぽい口調に訳すとすれば「雲雀くんだって停学明けくらいにはって言ってたし、遅くとも停学明けって意味だったんじゃないかな。1週間も悩ませてるんだろうし、早く返事してあげなよ!」といった感じだろう。ちなみに私の中の悪魔は「待つって言ったんだから最悪催促されるまで引き延ばしてもよくない? なんならそのまま答え出さないでスルーできるかもよ?」くらいとんでもないことまで考えている。さすが悪魔だ、いくら私でもそこまでの我儘は言えない。

「……可能であれば……今日中には……返事をしようと……」
「なんて言うの? なんて言うの!? いやここは楽しみにとっとくわ。月曜遊ぼうぜ!」
「いいけど……」
「あ、でも付き合うんだったら雲雀とデートする? んじゃデートしないってなったら遊ぼうぜ」
「…………いいけど」

 私達よりも周囲のほうが大騒ぎしているというか、楽しそうというか……。