どちらにしろ体育館なんてみんながいるところでは選択ができない。雲雀くんの話をするにしろ、しないにしろ、一度桜井くんと外に出るべきだった。

「てかコンビニ? 購買でもいんじゃね」
「……今、購買に行くのはちょっと」
「あ、そーか、笹部の噂うるさいもんな」

 日差しのある外に出ると、体育館内とはまた別のじんわりとした暑さに襲われた。外にいるだけでこんがりと焼けてしまいそうな暑さにはいい加減|辟易(へきえき)する、早く秋になってほしい。桜井くんも財布を片手に「あちぃー」と軽く空を仰いだ。でもその肌はほんの少し小麦色に近付いただけで、まだ白い。他の先輩達はもちろん、私だって小麦色に近い肌色になってしまっているのに、桜井くんの肌はまるで日焼け知らずと言わんばかりだ。お陰で隣を歩くとなんだか恥ずかしい。

「……桜井くんも、あんまり日焼けしないの?」
「んー? んー、黒くはなんない。赤くなってすぐ白く戻る」
「……雲雀くんと一緒なんだ」
「そうだね、アイツも同じ。アイツはなよなよして見えるからヤダって言ってるけどな」

 海で話したとおりだ。そのときの場面を思い浮かべ、荷物番の相手として雲雀くんを選んでしまったことを思い出す。胡桃と雲雀くんの折り合いが悪いからそうしただけだけれど、雲雀くんもそう分かっただろうか。思わせぶりな行動は、本当になかったのだろうか……。

「……てか、さあ」不意に桜井くんが少し切り出し辛そうに間を空けて「……侑生から聞いたんだけど」

 ……何、とは言わないけれど、十中十、告白のことに違いなかった。体がブロックになってしまったかのように硬直してしまい、隣を歩いていたはずの桜井くんが先に行ってしまいそうになり、立ち止まって振り向く。そして、まるで悪戯が見つかったような、どこかバツの悪そうな顔をされた。

「……ごめん、言わないほうがよかった?」
「……いや……桜井くんが……知ってるのは……私の選択を減らすのでありがたいんだけど……」
「選択を減らす?」
「……桜井くんに話すか話さないか、悩まないでいいじゃん」
「ああ、そういう」

 手持(てもち)無沙汰(ぶさた)なのか、続ける言葉に悩んだのか、桜井くんはくるくると指先で髪を回す。やっと歩き始めた私の隣に再び並びながら「……んーとね」なんて口にするので、桜井くんとしても切り出しにくい話なのは分かった。

「侑生にカバン届けに行ったときに聞いてさあ、ははーん、どおりで英凜の様子おかしかったわけだなーって」
「ははーんって……」
「いや聞いたときはビビったけどね? 英凜のこと、まあ好き寄りなんだろうなとは分かってたけど、告るほど本気だったかーって」
「え、え、ま、待って」

 その話しぶりだと、あたかも好きなのは気付いていたけど告白という一点においてのみ想定外だったかのように聞こえるのだが? そう口にする前に「え、だって侑生が仲良い女子って英凜くらいじゃん。池田も最近は仲良いけどさ」続きを読まれた。ただ、その程度の推論理由なのであれば大した問題はない。私が鈍かったわけではない。

「てか最初っから気に入ってたよな。一目惚れだったのかなあ、そこまで聞いてないけど」
「え、いや、だから、いやそんな話は、どうでも」
「どうでもよくないじゃん、気になるじゃん。さすがに停学食らったばっかり、告ったばっかりだから聞かなかったけど」

 でも先輩らあの調子なら復帰した瞬間に聞いていじり倒すのかなあ、と桜井くんはいつもどおりのぽやぽやした様子でぼやくだけだ。