ぼくらは群青を探している

 やっぱり、蛍さんや能勢さんには、私達が見落としている情報源があるということだろうか。それならそうに越したとはないのだけれど。

「……やっぱ舜か」
「情報源として有り得るってこと? でも雲雀くん達、荒神くんは意外と口が堅いって言ってなかったっけ」
「雑談代わりに他人の病気の話なんてするヤツじゃねーけど、そうじゃなくて、そもそも蛍さんが持ってる“耳”なんじゃないかって」
「耳って? 間諜(かんちょう)みたいな?」

 先生の姿が見えたので声を潜めながら手を動かすと「みたいな。てかなんで咄嗟(とっさ)に出てくんのが間諜なんだよ」と鼻で笑われた。

「そんな感じ。もともと蛍さんにとって俺らが群青入るかは分からなかったわけだ。群青として1年の情報は欲しかったんじゃないかって考えると、舜がそれだった可能性はある」
「なんで荒神くんなの? 中津くんでいいじゃん」
「確かにそこは分かんねえな。ただ単純に舜が怪しい」雲雀くんは眉間に皺を寄せて「5月、新庄にお前が拉致られたことあったろ。あの時、蛍さんが舜になんて言ったか覚えてるか?」
「『荒神、お前は知らねー、1人で帰れ』」
「それ。でもそれより前に、アイツが蛍さんの前で名乗った場面なんてあったか?」

 ……言われてみれば、ない。実際、あの光景を見て、私だって荒神くんと蛍さんは面識があるのではないかと考えていたくらいだ。

 ただ、それをいえば、高校生になってから荒神くんに初めて会った日――ファミレスで桜井くんと雲雀くんとご飯を食べていた日――荒神くんは既に能勢さんに桜井くんと雲雀くんを群青に誘うように言われていたし、蛍さんのことも「永人さん」なんて呼んでいた。

「……でも、荒神くんって、中学のときから2人と一緒にいるんでしょ? 2人に目をつけてる群青の人達は荒神くんのことを知ってるんじゃ」
「それにしては妙に親しみがあった、つかなんか呼び慣れてる感じあったんだよな。俺が気にしすぎかもしれねーけど」

 それは、私には分からなかった情報だ。でも雲雀くんがそう言うのならそうに違いない。

「……じゃあ荒神くんがそうだとして、荒神くんを群青に入れてないのも、群青のメンバーじゃない情報屋みたいな人間がほしいから?」
「さあ、そこまでは。でもそもそも蛍さんは1、2年の群青メンバーを絞ってる感じあるからな。もしかしたらそういうつもりかも」

 群青のメンバーを絞っている……。なんのために。そしてその基準はどこに。

 うんうん首を捻りながら足を進めると、別の話し声がしたので顔を上げた。どうやら雲雀くんの予想のとおり、体育館の南側は別のクラスが担当していたらしく、男女2人組が私達と似たように(ほうき)を持って喋っていた。

 そして最悪なことにその男子は笹部くんだった……。同時に合点がいった、体育館の南側は道路に面しているから、南側に外の人から見られても問題のない特別科の生徒を配置し、北側に普通科を配置していたのだろう。

 だからってよりによって笹部くんじゃなくてもいいのに……。気付かないふりをして(うつむ)こうとしたけれど、私が見た瞬間に笹部くんも私を見た。そんな運命じみた偶然なんて要らなかった。

「三国じゃん。ここ掃除なの」
「……まあ」
「見れば分かるだろ」