ぼくらは群青を探している

「この際だろ、九十三先輩も巻き込め」
「……それマジで言ってる?」

 狼狽(ろうばい)する私の前で、九十三先輩は珍しく真面目な顔で眉を(ひそ)めた。

「新庄って、深緋の新庄だろ? 青蘭学園(あおがく)の1年」
「それです。俺らが西の死二神なら北の悪鬼(あっき)
「ねーよ。芳喜は知らねーけど、永人がそれはマジでない」本当に、有り得ない事象について口にするかのように「新庄、マジクソ有名なドゲスだろ? あれと永人が組んだら縁切れるわ」

 そん……なに……? 困惑する私と雲雀くんに「まあお前らが言うならそれなりになんか証拠あんだろうけどさあ、永人って時点で俺はナシって言えるかな」と九十三先輩は続ける。

「大体それ、永人が三国ちゃん襲わせたってことになるってことだろ? 有り得ねー、有り得ねー」パタパタと手を大きく横に振って「別の意味で襲うことはあってもそれはねーわ。群青のメンバー売るようなヤツじゃねーよ」

 群青のメンバーを売るようなヤツじゃない……。そのセリフからは、蛍さんがいかに群青を大事にしているかが伝わってくるけれど、一方で、蛍さんが群青を大事にしていればしているほど、蛍さんが私を利用する動機があることになる――そんなパラドックスがある。

「てか、永人、1年にそんなふうに思われてんだ。カーワイソ」
「そんだけ怪しいことがあったって話ですよ」
「……それが何かは聞かねえけどさあ、マジでない。新庄と組んでるつーなら服部とかじゃねーの? アイツ、永人と仲悪いし」

 ……服部先輩? 頭には勉強会のときに教室の隅っこでつまらなさそうに教科書を(めく)っていた姿が浮かんだ。同時に、蛍さん達と同級生だけれど、留年して今は常磐(ときわ)先輩と同級生だという情報も浮かぶ。その服部先輩は視聴覚教室に移った後は来ていなかったし、海にもいなかったので、6月以来顔を見ていない。ただ、永人さんも「服部みたいに|留年する(ダブる)といけないから」と勉強会を開いていたわけだし……。

「……仲悪いんですか?」
「ああ。永人とトップ取り合ってからますます険悪になった」

 服部先輩がトップ……? 頭にはまた服部先輩の姿が浮かんだ。体は蛍さんの2倍くらいあるけど、蛍さんと違って、リーダーとしての風格が全くない。蛍さんがリーダーだからそう思うのかもしれないけれど……。それに、他の先輩達と違って私達にほとんど話しかけてこないのでどんな人なのかも分からない。

「そもそも群青ってどうやってトップ決めんです?」
「先代の指名。永人は石橋(いしばし)先輩――去年のトップに指名されて、芳喜とか俺とか、No.2以下は永人が指名してる」
「へえ……」
「んで、服部は幹部についてないじゃん? まあ永人と仲悪いからなんだよね」
「なんで蛍さんとそんなに仲悪いんですか?」

 蛍さん自身はそんなに敵を作りそうなタイプには見えないけれど……と首を傾げると「いやあ、普通に音楽の方向性の違いとかそういうヤツだよ」とよく分からないたとえをされた。

「音楽の……方向性……?」
「群青っていう組織の在り方ってことですか?」
「そうそう」

 ああ、なんだそういうことか。そう言ってくれればいいのに。

「それってどういう……」