夏休み明け初日の教室に行くと、桜井くんと雲雀くんはまだ来ていなくて、代わりに胡桃がいて「あ、英凜、ちょうどよかった! 海のときの写真持ってきたの!」と桜井くんの机の上に写真を広げていた。その隣にカバンを置きながら「ああ、あの……」と1ヶ月近く前のことを記憶から掘り起こす。
「厳選したから安心して。英凜がうつってるのはこれとー、これとー……」
どうやら私が見ていないところでも胡桃はたくさん写真を撮っていたらしい。最初に胡桃とうつっているツーショット以外にも、一瞥しただけで、私が海に投げられる間抜けな図から、雲雀くんが足でバレーボールを取る野性的な図まであることが分かった。
そして私が胡桃とうつっているツーショットは、私がこの手に持つとただの自虐だ。なにが楽しくて美少女と同じコマに切り取られなければならないのか。でもさすがの私も要らないとは言えない。
「……ありがとう」
「あ、能勢さんの写真要る? なんか英凜が能勢さんのこと気になってるみたいなこと聞いたから」
誤解……。気になっていると言っても意味が違う。しかもその誤解は私が能勢さんの顔に見惚れていると勘違いしまくりな九十三先輩のせいに違いない。
差し出されたのは能勢さんと九十三先輩のツーショットで、肩を組まれた能勢さんが苦笑していた。こう見ると本当に九十三先輩のガタイがいい。というか、上裸の先輩達の写真なんて、正直持つのが恥ずかしいような……。
「え、え、ちょっと待って、能勢さんの上半身? え? あたしこれ欲しい」
聞きつけた陽菜が興奮気味にしゃしゃり出た。胡桃が「いいよー、持ってきた分は全部あげるつもりできたし」と快諾し「お願い英凜、これちょうだい。これはちょうだい!」と陽菜が懇願し「……別にいいけど」「ありがとお! やば、半分に切ってパスケースに入れようかな」と九十三先輩に残酷なことを言う。九十三先輩が捨てられてしまったら私が拾うことにしよう。
「おーはよー。あーすずしっ」
「あ、昴夜、おはよ」
桜井くんのゆるゆるとした挨拶に振り向けば、後ろには欠伸をする雲雀くんもいた。胡桃が桜井くんに「これ、海の写真」「あー、そういやなんか色々撮ってたね」と話す隙に、雲雀くんは胡桃を避けるように、するりと私の後ろに着席する。
「2人で来たの?」
「いや、たまたま。なにこれ?」
シャツの下に着ている濃紺のティシャツを掴んでパタパタと扇いでいた雲雀くんは、机の上に置いてある掃除分担表の上に手を置いた。
「始業式の後の掃除。私と雲雀くん、体育館横」
「ああ、涼しくていいな」
「えー!」
仲間外れに対する地獄耳なのか、桜井くんは写真そっちのけで雲雀くんの席に飛び込むようにしてこっちの会話に入ってくる。
「侑生と英凜は一緒なのに俺は!?」
「お前サ行じゃねーか」
「英凜と侑生だってミ行とヒ行じゃん!」
「マ行とハ行な」
「ずーるーいー。掃除時間なんてどうせ喋ってるだけじゃん、仲良いヤツと一緒になれるかにかかってるじゃん」
桜井くんの名前は物理教室と書いてある。でも物理教室は敷地内最北で涼しいから当たりだ。体育館脇の永久日陰とどちらが涼しいか、いい勝負だろう。
「昴夜、どこ掃除なの」
「物理教室だって」
「じゃ、真逆だ。あたし応接室だったもん」
「そういうところは特別科の生徒しか割り当てられないんだろうね」
「厳選したから安心して。英凜がうつってるのはこれとー、これとー……」
どうやら私が見ていないところでも胡桃はたくさん写真を撮っていたらしい。最初に胡桃とうつっているツーショット以外にも、一瞥しただけで、私が海に投げられる間抜けな図から、雲雀くんが足でバレーボールを取る野性的な図まであることが分かった。
そして私が胡桃とうつっているツーショットは、私がこの手に持つとただの自虐だ。なにが楽しくて美少女と同じコマに切り取られなければならないのか。でもさすがの私も要らないとは言えない。
「……ありがとう」
「あ、能勢さんの写真要る? なんか英凜が能勢さんのこと気になってるみたいなこと聞いたから」
誤解……。気になっていると言っても意味が違う。しかもその誤解は私が能勢さんの顔に見惚れていると勘違いしまくりな九十三先輩のせいに違いない。
差し出されたのは能勢さんと九十三先輩のツーショットで、肩を組まれた能勢さんが苦笑していた。こう見ると本当に九十三先輩のガタイがいい。というか、上裸の先輩達の写真なんて、正直持つのが恥ずかしいような……。
「え、え、ちょっと待って、能勢さんの上半身? え? あたしこれ欲しい」
聞きつけた陽菜が興奮気味にしゃしゃり出た。胡桃が「いいよー、持ってきた分は全部あげるつもりできたし」と快諾し「お願い英凜、これちょうだい。これはちょうだい!」と陽菜が懇願し「……別にいいけど」「ありがとお! やば、半分に切ってパスケースに入れようかな」と九十三先輩に残酷なことを言う。九十三先輩が捨てられてしまったら私が拾うことにしよう。
「おーはよー。あーすずしっ」
「あ、昴夜、おはよ」
桜井くんのゆるゆるとした挨拶に振り向けば、後ろには欠伸をする雲雀くんもいた。胡桃が桜井くんに「これ、海の写真」「あー、そういやなんか色々撮ってたね」と話す隙に、雲雀くんは胡桃を避けるように、するりと私の後ろに着席する。
「2人で来たの?」
「いや、たまたま。なにこれ?」
シャツの下に着ている濃紺のティシャツを掴んでパタパタと扇いでいた雲雀くんは、机の上に置いてある掃除分担表の上に手を置いた。
「始業式の後の掃除。私と雲雀くん、体育館横」
「ああ、涼しくていいな」
「えー!」
仲間外れに対する地獄耳なのか、桜井くんは写真そっちのけで雲雀くんの席に飛び込むようにしてこっちの会話に入ってくる。
「侑生と英凜は一緒なのに俺は!?」
「お前サ行じゃねーか」
「英凜と侑生だってミ行とヒ行じゃん!」
「マ行とハ行な」
「ずーるーいー。掃除時間なんてどうせ喋ってるだけじゃん、仲良いヤツと一緒になれるかにかかってるじゃん」
桜井くんの名前は物理教室と書いてある。でも物理教室は敷地内最北で涼しいから当たりだ。体育館脇の永久日陰とどちらが涼しいか、いい勝負だろう。
「昴夜、どこ掃除なの」
「物理教室だって」
「じゃ、真逆だ。あたし応接室だったもん」
「そういうところは特別科の生徒しか割り当てられないんだろうね」



