ぼくらは群青を探している

「そもそも、雲雀くんはどっちかと言わずとも感情抑えてるほうだし、同級生よりずっと大人だと思うし……そう、言われるでしょ?」
「……ぶってるだけだよ。小学1年生に当たり散らすくらいには持ってる感情はガキ」
「別に、子供も大人も、抱く感情の種類に変わりはないでしょ? 感情を抑えて表に出さないことが大人になるってことなんだと私は思ってるから……」

 雲雀くんは膝に額を乗せて(うつむ)いたままだった。手持(てもち)無沙汰(ぶさた)に、銀髪をくるくると指に巻いてほどいてまた巻いてを繰り返している。

「……三国はいつもそうやって、自分だけ先に大人になってるみたいな喋り方するよな」
「え、そうなのかな……ごめん偉そうで……」
「……そういう意味じゃない。お前はいつも大人だなって言いたかっただけだよ」

 ぐしゃぐしゃっとその銀髪は乱暴にかきまぜられた。顔を上げた雲雀くんは、そのまま、ふー、と眉間に皺を寄せて溜息を吐く。きっともう一度何か話そうとしたのだろうけど、ボンッと知らない人のビーチボールが飛んできたので話は途切れた。
 その知らない人は「すみませーん……」と走ってきて、(おそらく雲雀くんの銀髪に)ゲッと顔をひきつらせながら雲雀くんの投げたボールを受け取り「あ、ありがとうございました!」と素早く頭を下げると、何もしていないのに脱兎(だっと)のごとく走り去った。

「……雲雀くん、見た目で損してるよ」
「そうか?」
「普通に優しいのに、見た目が不良みたいだから……」

 いや、みたいというか不良か。首を傾げながら、それよりも、話題を変える契機(けいき)を得たことに胸を()で下ろす自分がいた。雲雀くんもあえて蒸し返そうとはせず「まあ銀髪は怖いかもな」と(うそぶ)く。

「なんで銀色なの?」
「……なんか金髪だとありがちでイヤじゃね」
「ありがちだとイヤかな」
「人間誰だって自分を特別だって思いたいもんだろ、って言おうとしたけど、三国はそういうことなさそうだな」
「……それはそんなことないよ」思わず笑ってしまいながら「……普通だって信じたいけど、それと平凡は別かな……。というか、異常で凡庸(ぼんよう)なんてただの狂人(きょうじん)だし……」
「異常で非凡なら天才だからな」
「異常を否定してよ」
「そんなことする必要ないだろ」

 冗談を言えた自分にびっくりしてしまったし、雲雀くんの軽さにもびっくりした。
 でもそうだ。桜井くんが(とぼ)けてみせたように、私のそれは最初からその程度に軽視してよかったものなのかもしれない。

「あー、てかヤバいな、首焼けた気配する」
「……本当だ、赤くなってる。でも色黒の雲雀くんって想像つかない……」
「まあ、赤くなるけど、すぐ白く戻る」
「やっぱり。いいなあ」
「いいか?」
「だって──」

 だって、色白の女の子のほうが可愛いでしょ。
 そう口にしようとして、(つぐ)んだ。雲雀くんが怪訝(けげん)な顔をしていることに気付いて「……ほら、黒くなると、皮がむけて面倒だから」と続きを変更する。面倒だと感じるのは本当だった。

「ああ、まあ、そういうのはあるな。三国らしい着眼点」

 そうだ、その着眼点なら、私らしい。
 でも色白のほうが可愛いから色白がいい、なんて私らしくない着眼点だった。美容院へ行っても「適当に短くしてください」以外に言わないくらい、自分でも容姿に興味はないと思っているのだけれど、そんな自分がそんなところに目を付けたのは……、なぜ、だろう。