ぼくらは群青を探している

「しゅ、んくん」(あせ)って出した声が掠れていて「常磐(ときわ)先輩のところ行こっか、もう1回投げてもらったら」

 もう駿くんをあっちへやる以外、方法はない。
 とはいえ、あまりにも脈絡(みゃくらく)のない提案に、駿くんの胡乱(うろん)な目が私を見た。そんなことがしたいなんて一言も言ってない、たださすがに突然そんなことを言われたら察するものはある。しかしその内容までは判然としないので私に回答を求めたい、きっとそんなところだ。

「……行く」

 ただ、私が回答を教える気がないのも分かったのだろう、すくっと立ち上がり、いそいそと帽子をかぶり「一人で行ける」と私が立ちあがるのも待たずに先輩達のほうへ行ってしまった。

 地雷を踏みまくられることがなくなったこと以外に状況はひとつも好転していなかった。雲雀くんの隣で完全に思考はストップしてしまい、一体何を口にだせばいいのかさっぱり分からない。いうなれば思考が五里霧中(ごりむちゅう)。それどころか、身動きひとつさえ許されないような気がした。空気が痛いという表現を理解できたことはなかったけれど、もしかしたらこの状況こそがそれなのかもしれない。
 ただ、先に物理的に動いたのは雲雀くんだった。額に手を当てて、手はそのままに、(うつむ)き、海水で張りついた銀髪を撫でるように手を頭の後ろへと流した。

「……ごめん」
「え、いや、えっと、雲雀くんが謝ることはなにも……」
「どう考えても俺が悪いだろ。三国の従弟、謝っといて」

 雲雀くんは腕を伸ばし、膝に額を乗せ、表情を私に見せないまま、はー、と深い溜息を吐いた。
 雲雀くんの駿くんに対する言動は、予想外ではあった。だって胡桃にさえ、名指しされたわけではないとはいえ「両親が揃ってるのが完璧の一要素」かのように語られても、それで嫌悪感を抱いていても、それを悟らせまいと感情を(おさ)えている。それができるのに、初めて会った友達の従弟に、しかも自分よりずっと年下の何も分からない子に向かってそんなことを言うのは、雲雀くんらしくなかった。

「……本当に。俺が大人げなかったから」
「でも悪いとかじゃ……」
「両親仲良くやってる小学1年生に言うことじゃねーだろ。……そうじゃなくても、今日会った従姉の友達の親が不倫して離婚してるとかマジで知ったことじゃねーし」
「……でも、ほら、私は知ってたわけだし……」
「そこまで気ィ使えるかよ。つか俺だって基本どうでもいい、もう3年前だし、慣れたし」どこか乱暴な口調で吐き捨てるようにこの間と同じことを繰り返して「……ガキだよなあ」私が聞き取れるか聞き取れないかくらいの小さな声で呟き、はーあ、ともう一度深い息を零した。

「小学生に八つ当たりしてどうすんだよって話だな。(なさ)けねえ」
「そんなことは……私達だって、小学生に比べれば年上だけど、まだ高校生だし、そんなの仕方ないと……」

 自分が大人びていると感じたことはただの一度もない。それはもしかしたら高校生という肩書に規定されているせいかもしれないけれど、それを捨象(しゃしょう)できたところで大人だなんて思えないし、一方で自分が子供だなと感じることだけはある。それは例えば、雲雀くんのように、感情で突っ走った後で冷静になって、自分の言動を(かえり)みたときとか。
 でもまだ子供なんだから仕方がない。駿くんのほうがずっと子供だけれど、私達だって子供なんだから仕方がない。立場が逆ならそんな(なぐさ)めを受け入れる気にはならないけど、立場は逆ではない。