ぼくらは群青を探している

「夏休みだろ? 毎年来てんじゃねーの」
「駿くんのお母さんが私のお父さんの妹だから、お嫁に行ってる側で、あんまりうちには来ないよ」
「ああ、そういう」
「確かに妙子(たえこ)おばあちゃんにはあまり会わない」
「お盆は真哉(まさや)お兄さんの実家に行くしね」

 ぴくりと雲雀くんの眉間に皺が寄った。その反応にはどことなく不穏(ふおん)な雰囲気があり、私もびくりと体の動きを止めてしまう。

「……どうかした?」
「……いや、父親の名前貰って名前がついてんのかなと思って」
「ああ、お父さんの『哉』の字を貰った」

 駿くんはお父さんっ子だ。お陰でそう話す顔は、無表情ながらもどこか誇らしげに見えた。
 対して雲雀くんには両親が離婚しているという事実、そして父親似というおばあちゃんの発言を即座に否定した事実がある。そのたった2つの事実があるだけでも、最悪の話題だと気付いてしまい、真夏の海の砂浜の上で、ひやりと背筋を冷や汗が滑り落ちた。

「あ、えっと……」

 いや、でも雲雀くんのことだ、父親の名前に反応してしまったとはいえ、感情を表に出すようなことはしない……はず、だけれど、(こと)両親の話題に関してはその表情が変わることを知っていると、杞憂(きゆう)とは到底思えない。

「……なんで同じ漢字つけたがるんだろうな」

 それどころか想像したとおりの危うさを(はら)んだ相槌(あいづち)に今度こそ硬直したし、脳裏には一度聞いた雲雀くんの父親の名前が浮かんだ──『コウセイ』。漢字は分からないけれど、雲雀くんの名前の「生」の字が「セイ」に当てられていることは容易に想像がついた。

「ひばり先輩も同じ漢字がついてるのか」
「ああ、侑生の『生』の字」

 とはいえ2人の会話を止める手立ては私にはなかった。

「なにがそんなにイヤなんだ?」
「何がって」雲雀くんは鼻で笑って「俺にもあのクソ野郎の血が流れてるってだけでも虫唾(むしず)が走るのに、名前まで同じとか反吐(へど)が出る」

 ……今の今まで気が付かなかったけれど、駿くんと雲雀くんは最悪の取り合わせだった。頑張れば予想はできたかもしれない、しれないけれど、さすがにそこまで頭は回らなかったし、きっと防ぎようはなかっただろう。そんな事態に戦慄(せんりつ)してしまった。

「お父さんが嫌いなのか」

 しかも、駿くんがしごく純粋にそう(たず)ねることが事態の悪さを加速させる。

「お前、父親好きなの」
「好きだし、尊敬している」
「どこらへんを」
「医者で、いろんなカンジャさんの命を助けている」

 ピシャッ――と落雷の衝撃が全身に走るようだった。
 だから、最悪の取り合わせなんだ。真哉お兄さんは医者で、雲雀くんのお父さんもそうで、駿くんがこの場でどこまで口走ってしまうかは分からないけどその将来の夢は医者で、その理由は当然のように敬愛する真哉お兄さんで、雲雀くんは――。

「……あ、そ」

 ドクリドクリと動悸(どうき)がし始めていた。この先何が起こるのか、どんな会話の応酬がなされるのか、全く見当はつかないけれど、少なくとも所せましと地雷が埋められていることだけはよく分かる。

「ひばりセンパイはなんでお父さんが嫌いなんだ」

 そして駿くんがその地雷の存在に気付くタイプでないことも、まるで幼い頃の自分を(かえり)みるかのように、よく分かっていた。

「看護師と不倫してたから」
「フリン……」