ぼくらは群青を探している

「俺、そんな怖いかなあ」
「俺らは知ってるから思いませんけど、九十三先輩達が歩いてると商工の連中すら目合わせようとしないじゃないですか」

 灰桜高校から少し離れたところにある一色(いっしき)商業工業高校のことだ。灰桜高校の普通科が「掃き溜め」とただ不優秀であるかのように言われるのに対し、商業工業高校は「ガラが悪い」とストレートに治安の悪さを指摘される。その商工の生徒が目を合わせようとさえしないということはよっぽど怖い、という意味になる。
 九十三先輩も能勢さんも、顔つきは優しいのに、何も知らない人からしたら「群青の怖い人ツートップ」に見えるのだろうか。……見えそうだ。一瞬考えたけれどすぐに納得してしまった。ただ「あー、商工のいまの3年はね、前に大喧嘩したことあるから」ということなので、外見以上の情報があるらしい。

「大喧嘩……って、何でですか?」
「そん時の群青のトップの彼女に手出したんだよ。だから群青のトップもブチギレちゃってさあ。商工には群青(おれら)みたいなチームないじゃん? そん時に潰して、そのまま二度と作んなってことになったんだよね。俺とか永人とか、前線に駆り出されたから顔覚えられてんの」

 群青と仲が悪いという深緋さえ存在を許されているというのに、それを許されないほどの大喧嘩が勃発(ぼっぱつ)したのか……なんて頭で考えていると、九十三先輩は自分の背中を見ながら「ほらこれ、そんときの傷」と腰のあたりにある、うっすらと膨れた、ほんの1センチくらいの傷痕を指差した。

「アイツらマジで頭おかしいからさ、刃物とか普通に使ってくんだよね」
「……え?」
「あ、でも度胸ないんだよね。とりあえず刃物持つやつっているじゃん、それに刺されただけ。ちょっとあちーなと思ったら怪我してたみたいな感じだったから、大したことないんだけど、刺さったとこだけ傷になっちった」

 当然納得できるだろうみたいな口調だったけど何も納得できなかった。お兄ちゃん達はいまの灰桜高校を世紀末だと言ったけれど、間違いなくその時代のほうが世紀末だ。お陰でぶるっと背筋を震わせた。この人達と同い年じゃなくて本当によかった。
 荷物があるところに戻って、互いに手の中にあるご飯を食べ終え、暫く休憩してから「んじゃバレーやるかあ」と九十三先輩は立ち上がった。桜井くんは荷物番なので「いってらっしゃあ」と座ったまま手を振る。

「三国ちゃんもバレーやる?」
「さすがにちょっと疲れたので、私は見学で」
「なんだ残念」

 そんな言い訳をしたけれど、正直なところ、先輩達のバレーに混ざる勇気がなかっただけだった。現に私と駿くんの目の前ではボールが砂の飛沫(しぶき)でも作りそうな勢いで砂浜に叩きつけられていた。あんなものを腕で受けたら折れてしまう。
 ただ私達が暇そうだと気を遣われたのか、それとも私が見ていないうちに駿くんが先輩達に馴染んでしまったのか、砂浜に横たわった駿くんが埋められるという遊びまで行われた。しかも埋められた駿くんの体の上にどこからか捕まえてきたイソガニを乗せ始めたせいで駿くんが本気で(おび)えた。本当に先輩達の遊びには理解できないことしかない。