そしてそのタイプは、考えてみれば桜井くんとは真逆な気がした。幼馴染として桜井くんに慣れている胡桃にとって、能勢さんは最も知らないタイプというか、縁遠いものなのかもしれない。
「九十三先輩とかはね、いいよね。年上だし、イケメンだし、背も高いし。もー、本当に頭さえよければタイプなのに……」
「頭の良い人が好きなの?」
「え、うん。英凜はそうじゃないの?」
「うーん……あんまり考えたことはなかったけど……」
私の恋愛は初恋で止まっている。しかも初恋といっても、小学3年生のときに、ありがちにクラスで人気者の男子を好きで、ありがちに私はクラスの日陰者で、同じ教室にいながらもその世界線は交わることなく終わった、といった感じだ。
だから人並みに男子のことは好きなんだろうな、とは思うのだけれど……、どちらかというと会話に気を付けるほうに頭を使ってばかりで疲れてしまうので、そんな感情任せのことをしている余裕がない。
とはいえ、今ここで考えるとすれば、あの初恋はクラスの隅っこにいるしかなかった私がクラスの中心人物に憧れたようなものだろうし、そう考えると私の恋愛はきっと一種の憧れと整理できるのだろうし、頭の悪い私は自分より頭の良い人を求めてしまうのかもしれない。
「……そうだね。私も私よりは頭の良い人がいいかも」
「でしょ。あんまり頭いい人なんていないけどね」
そうかな。でも桜井くんも雲雀くんも私より頭が良いんだろうし、能勢さんなんてきっと恐ろしいほどそうだろうし、意外とそのへんにごろごろいるんじゃないかと思うけどな。
そんな話をしているうちに、桜井くんと雲雀くんは浮島にたどり着いてしまって、座ってこっちに手を振っていた。2人で手を振って暫く、やっと私達も浮島に辿り着く。
「遅かったな」
「昴夜たちが早い! 意外と遠かった!」
浮島の上に座る2人は当然のことながら髪までぐっしょりと濡れていて、揃って後ろに掻きあげているので知らない人みたいになっていた。その髪のせいか、例によってちらちらと浮島の上の人の視線を集めてしまっている。
胡桃が浮島に片手をかけ、もう一方の手を伸ばす。桜井くんは海に足を投げ出して座ったままその腕を引っ張った。
「三国」
「え、あ、ありがと」
私は雲雀くんに腕を引っ張られた。浮き輪をまとっているので、海から出てしまうとなんとも間抜けな図だ。浮島に座り込んだ後、いそいそと浮き輪を体から取った。
浮島には当然他の遊泳客もいて、しかも内陸部より沿岸部が人気だ。桜井くんと雲雀くんは角を陣取るように座っていたけれど、胡桃が桜井くんの隣に腰かけてしまえば、他の遊泳客がいるので沿岸部には座るスペースはなかった。いそいそと雲雀くんの後ろに座ると「場所変わるか? 浮島の感触って微妙じゃね」と振り向かれたので、細やかな気遣いが雲雀くんらしくて「ううん、大丈夫」と答えながら笑ってしまった。
「昴夜と侑生、どっちが勝ったの?」
「俺でしたー」
「お前マジで体力バカだよな」
後ろで知らない人が「見て、あの子めっちゃ可愛い」「どれ?」「あのオレンジの」と話すのが聞こえた。つい、話をしている人達でなく胡桃を見てしまう。サラサラのツインテールは海水に濡れてもこれっぽっちもぐちゃぐちゃになっていない。私は早々に海に落とされてぐしゃぐしゃのポニーテールになってしまったというのに、酷い差だ。
「あれどう見ても隣がカレシだろ。聞こえるぞ」
「九十三先輩とかはね、いいよね。年上だし、イケメンだし、背も高いし。もー、本当に頭さえよければタイプなのに……」
「頭の良い人が好きなの?」
「え、うん。英凜はそうじゃないの?」
「うーん……あんまり考えたことはなかったけど……」
私の恋愛は初恋で止まっている。しかも初恋といっても、小学3年生のときに、ありがちにクラスで人気者の男子を好きで、ありがちに私はクラスの日陰者で、同じ教室にいながらもその世界線は交わることなく終わった、といった感じだ。
だから人並みに男子のことは好きなんだろうな、とは思うのだけれど……、どちらかというと会話に気を付けるほうに頭を使ってばかりで疲れてしまうので、そんな感情任せのことをしている余裕がない。
とはいえ、今ここで考えるとすれば、あの初恋はクラスの隅っこにいるしかなかった私がクラスの中心人物に憧れたようなものだろうし、そう考えると私の恋愛はきっと一種の憧れと整理できるのだろうし、頭の悪い私は自分より頭の良い人を求めてしまうのかもしれない。
「……そうだね。私も私よりは頭の良い人がいいかも」
「でしょ。あんまり頭いい人なんていないけどね」
そうかな。でも桜井くんも雲雀くんも私より頭が良いんだろうし、能勢さんなんてきっと恐ろしいほどそうだろうし、意外とそのへんにごろごろいるんじゃないかと思うけどな。
そんな話をしているうちに、桜井くんと雲雀くんは浮島にたどり着いてしまって、座ってこっちに手を振っていた。2人で手を振って暫く、やっと私達も浮島に辿り着く。
「遅かったな」
「昴夜たちが早い! 意外と遠かった!」
浮島の上に座る2人は当然のことながら髪までぐっしょりと濡れていて、揃って後ろに掻きあげているので知らない人みたいになっていた。その髪のせいか、例によってちらちらと浮島の上の人の視線を集めてしまっている。
胡桃が浮島に片手をかけ、もう一方の手を伸ばす。桜井くんは海に足を投げ出して座ったままその腕を引っ張った。
「三国」
「え、あ、ありがと」
私は雲雀くんに腕を引っ張られた。浮き輪をまとっているので、海から出てしまうとなんとも間抜けな図だ。浮島に座り込んだ後、いそいそと浮き輪を体から取った。
浮島には当然他の遊泳客もいて、しかも内陸部より沿岸部が人気だ。桜井くんと雲雀くんは角を陣取るように座っていたけれど、胡桃が桜井くんの隣に腰かけてしまえば、他の遊泳客がいるので沿岸部には座るスペースはなかった。いそいそと雲雀くんの後ろに座ると「場所変わるか? 浮島の感触って微妙じゃね」と振り向かれたので、細やかな気遣いが雲雀くんらしくて「ううん、大丈夫」と答えながら笑ってしまった。
「昴夜と侑生、どっちが勝ったの?」
「俺でしたー」
「お前マジで体力バカだよな」
後ろで知らない人が「見て、あの子めっちゃ可愛い」「どれ?」「あのオレンジの」と話すのが聞こえた。つい、話をしている人達でなく胡桃を見てしまう。サラサラのツインテールは海水に濡れてもこれっぽっちもぐちゃぐちゃになっていない。私は早々に海に落とされてぐしゃぐしゃのポニーテールになってしまったというのに、酷い差だ。
「あれどう見ても隣がカレシだろ。聞こえるぞ」



