ひゅっと体が飛んだ次の瞬間、バッシャと海面に背中が叩きつけられそのままドボンと沈んだ。とはいえ背中に痛みがなかったのは、先輩達が投げる弧の形を上手に計算してくれていたからだろう。補習補習嘆いているくせに、こういうところはきっと本能的にうまくやってのける人達なのだ。
それよりなにより、真夏の熱にじりじりと温められていた体は、一瞬で全身が冷水に包まれた。心臓が止まりそうなほど、あまりにも突然冷却された。挙句、どのくらい遠くに投げられたのか見当もつかなかった。私がカナヅチだったら絶対パニックになっていた。というか先輩達は私がカナヅチかどうかも確認しなかったけどもしカナヅチだったらどうしてくれてたんだ。
足をつけばぷはっと海面から顔を出すことができて、そう遠くない、腰くらいまでしかない浅瀬だと分かった。とはいえ海岸からは少し距離がある。ここまで投げる先輩達の腕力が恐ろしい。
顔面を流れ落ちてくる海水を手のひらで拭っていると「なんかグラビア撮影みたいになったな」「……それ永人さんの前で言えます?」「言えねー。三国ちゃーん、だいじょぶー?」と楽しそうな声が聞こえた。多分これは投げる側が楽しいだけだ。
「……私がカナヅチだったらどうしてくれてたんですか」
「えー、なにー?」
恨みがましくブツブツと呟きながらざぶざぶと波を掻き分けて戻ると、やっぱり先輩達の顔のほうが楽しそうだった。
「泳げますけど……カナヅチだったらどうしてくれてたんですかって……」
「あー、大丈夫大丈夫、リサーチ済み。永人が言ってた、プールの授業で三国ちゃんが元気に泳いでたッ――」
気持ち悪いとかなにかそれに準ずる感想を抱く前に、バコッと九十三先輩の頭に再びバレーボールが炸裂した。先輩達はいちいち口留めが暴力的だ。
「……じゃあ私はそういうことで、浮き輪で海を漂うことにしますので……」
「え、いいじゃんもう1回投げられようよ」と九十三先輩。
「いやだから無理だって……」
「さっきも無理つってて投げられただろ、いけるいける」と常磐先輩。
「そこは先輩達が無理だというのを強行したのであって、そもそもグルーのパラドックスというものがありまして、これが一体何を意味するかというと」
「マジ意味分かんねー、投げようぜ」
舌の根も渇かぬうちにまた放り投げられた。先輩達はいつもこうして後輩を投げて遊んでいるに違いない。ぷはっとまた海面から顔を出すときに「やっぱ女の子は軽くていいな、投げやすい」「よく飛んだよく飛んだ」と感想が聞こえてきた。
「ほーら駿、おいでー、お姉ちゃんと一緒に投げてあげるよー」
「いやだが」
「先輩が投げるつったら投げられろつってんだろ」
「てか泳げる? 泳げないんだったらまずいな」
「泳げる」
「バッカ正直だな、泳げないって言えば投げないでやったのに」
「ティシャツだけ脱いどきな、あぶねーから」
ざぶざぶと波を掻き分けて戻る間、ティシャツを脱いだ駿くんが私よりだいぶ浅瀬に投げられるのが見えた。でも例によって先輩達は浅すぎず深すぎずの位置を計算しているのだ。遊びに注ぐ先輩達の労力は体力だけではないらしい。
海水を滴らせながらパラソルの下に戻ると、胡桃が私のぶんの浮き輪まで持って「大丈夫?」と苦笑いしていた。こういう可愛さがあれば私も投げられずに済んだのかもしれないけれど、顔は遺伝子の問題なのでどうしようもない。
「……私も胡桃くらい可愛ければ……」
それよりなにより、真夏の熱にじりじりと温められていた体は、一瞬で全身が冷水に包まれた。心臓が止まりそうなほど、あまりにも突然冷却された。挙句、どのくらい遠くに投げられたのか見当もつかなかった。私がカナヅチだったら絶対パニックになっていた。というか先輩達は私がカナヅチかどうかも確認しなかったけどもしカナヅチだったらどうしてくれてたんだ。
足をつけばぷはっと海面から顔を出すことができて、そう遠くない、腰くらいまでしかない浅瀬だと分かった。とはいえ海岸からは少し距離がある。ここまで投げる先輩達の腕力が恐ろしい。
顔面を流れ落ちてくる海水を手のひらで拭っていると「なんかグラビア撮影みたいになったな」「……それ永人さんの前で言えます?」「言えねー。三国ちゃーん、だいじょぶー?」と楽しそうな声が聞こえた。多分これは投げる側が楽しいだけだ。
「……私がカナヅチだったらどうしてくれてたんですか」
「えー、なにー?」
恨みがましくブツブツと呟きながらざぶざぶと波を掻き分けて戻ると、やっぱり先輩達の顔のほうが楽しそうだった。
「泳げますけど……カナヅチだったらどうしてくれてたんですかって……」
「あー、大丈夫大丈夫、リサーチ済み。永人が言ってた、プールの授業で三国ちゃんが元気に泳いでたッ――」
気持ち悪いとかなにかそれに準ずる感想を抱く前に、バコッと九十三先輩の頭に再びバレーボールが炸裂した。先輩達はいちいち口留めが暴力的だ。
「……じゃあ私はそういうことで、浮き輪で海を漂うことにしますので……」
「え、いいじゃんもう1回投げられようよ」と九十三先輩。
「いやだから無理だって……」
「さっきも無理つってて投げられただろ、いけるいける」と常磐先輩。
「そこは先輩達が無理だというのを強行したのであって、そもそもグルーのパラドックスというものがありまして、これが一体何を意味するかというと」
「マジ意味分かんねー、投げようぜ」
舌の根も渇かぬうちにまた放り投げられた。先輩達はいつもこうして後輩を投げて遊んでいるに違いない。ぷはっとまた海面から顔を出すときに「やっぱ女の子は軽くていいな、投げやすい」「よく飛んだよく飛んだ」と感想が聞こえてきた。
「ほーら駿、おいでー、お姉ちゃんと一緒に投げてあげるよー」
「いやだが」
「先輩が投げるつったら投げられろつってんだろ」
「てか泳げる? 泳げないんだったらまずいな」
「泳げる」
「バッカ正直だな、泳げないって言えば投げないでやったのに」
「ティシャツだけ脱いどきな、あぶねーから」
ざぶざぶと波を掻き分けて戻る間、ティシャツを脱いだ駿くんが私よりだいぶ浅瀬に投げられるのが見えた。でも例によって先輩達は浅すぎず深すぎずの位置を計算しているのだ。遊びに注ぐ先輩達の労力は体力だけではないらしい。
海水を滴らせながらパラソルの下に戻ると、胡桃が私のぶんの浮き輪まで持って「大丈夫?」と苦笑いしていた。こういう可愛さがあれば私も投げられずに済んだのかもしれないけれど、顔は遺伝子の問題なのでどうしようもない。
「……私も胡桃くらい可愛ければ……」



