浜辺に降りると、先輩達は張り切ってピーチパラソルまで用意していた。補習のせいで体力が有り余っているのかもしれない。私が駿くんを連れて行くと「あれ、なんかガキいる」「三国ちゃん隠し子ー?」「誰だよ孕ませたヤツ」とその口から出る言葉が下品極まりなくて、心の中で薫子お姉さんに謝った。今日という日を経て駿くんが悪い言葉を覚えてしまったら、それは私のせいだ。駿くんは言葉の意味を知ってか知らずか、これまで見たことがないくらい不安そうな顔をしている。
その先輩達の中に蛍さんが入っていって「三国の従弟のガキらしいぞ。九十三と常盤、お前らこういうガキ得意だろ」早速押し付ける相手を決めている。2年の常盤先輩は九十三先輩と顔を見合わせる。
「……ガキは得意ですけど。三国の従弟ってなるとなんか話は別つーか」
「分かる。俺もそれ思ってたんだよねー。だってあんな無表情の小学1年生いる?」
「英凜ちゃん、帰ったほうがいいならオレは帰る」
どう考えても扱いに困られている、それを察したのか察していないのか、察したとしても自ら邪魔者だと口走ることの危うさまでは察しなかったのか、駿くんは私のティシャツの裾を引っ張りながらそんなことを口走った。
が、きっと九十三先輩と常盤先輩は本当に子供が好きなのだろう。駿くんのセリフを聞いた瞬間、それを否定するようにババッと素早く駿くんの前に屈みこんだ。
「大丈夫大丈夫! お兄ちゃんたちと遊ぼっか!」
「名前は? なに?」
「……月影駿哉」
「あれ三国じゃない」
「駿くんのお母さんが私の父の妹で、結婚して苗字が変わってるんです」
「あーなるほどね」
「てか駿くん長くね。駿でいいじゃん」
「駿、そのリュック置きな、邪魔だから。つか水着着て来いよ」
「ポッキンアイス食べる?」
「食べないが」
「オイ先輩が要るかって聞いたら食うんだよ。やっぱ三国ちゃんの従弟だな」
「まいーや、なにして遊ぶ? 砂遊び以外な」
駿くんはリュックを下ろした瞬間に常盤先輩に肩車され、そのまま連れていかれた。駿くんは狼狽えているのでもはや誘拐だ。でも私が見守る横で、蛍さんは「よし、ガキは解決した」と満足気に頷いている。
「三国ちゃんの従弟、怖がってません? アイツら面倒見良いけどでかすぎでしょ」
「あのくらいの年だったらでかい高校生ってアトラクションみたいなもんなんじゃねえの」
「三国ちゃんの従弟ですよ? どう見ても教室の隅っこで本読んでるタイプですし、身長制限無視してジェットコースター乗せられるようなもんですよ」
つまりアトラクションが通常想定する高揚感だけではなく、怪我の危険と隣り合わせの恐怖感までセットである、と。そして能勢さんのいうとおり、駿くんは教室の隅で本を読んでばかりの子で体もそう大きいほうではない。その駿くんとはまるで違う世界の生き物のように、九十三先輩と常盤先輩は揃って体も大きい。そして常盤先輩は粗野で厳つい顔つき……。
「常盤と九十三なら大丈夫だろ。とっとと海入るかー」
「あ、三国ちゃん、荷物こっち置きな。交代で見てるから」
能勢さんについて砂浜を歩きながら、先輩達に連れていかれた駿くんにもう一度視線を向ける。常盤先輩は駿くんを浜辺に下ろし、屈みこんで何かしら話して、九十三先輩と顔を見合わせ、常盤先輩が走ってフリスビーを取ってきたところだった。
「……大丈夫かな」
その先輩達の中に蛍さんが入っていって「三国の従弟のガキらしいぞ。九十三と常盤、お前らこういうガキ得意だろ」早速押し付ける相手を決めている。2年の常盤先輩は九十三先輩と顔を見合わせる。
「……ガキは得意ですけど。三国の従弟ってなるとなんか話は別つーか」
「分かる。俺もそれ思ってたんだよねー。だってあんな無表情の小学1年生いる?」
「英凜ちゃん、帰ったほうがいいならオレは帰る」
どう考えても扱いに困られている、それを察したのか察していないのか、察したとしても自ら邪魔者だと口走ることの危うさまでは察しなかったのか、駿くんは私のティシャツの裾を引っ張りながらそんなことを口走った。
が、きっと九十三先輩と常盤先輩は本当に子供が好きなのだろう。駿くんのセリフを聞いた瞬間、それを否定するようにババッと素早く駿くんの前に屈みこんだ。
「大丈夫大丈夫! お兄ちゃんたちと遊ぼっか!」
「名前は? なに?」
「……月影駿哉」
「あれ三国じゃない」
「駿くんのお母さんが私の父の妹で、結婚して苗字が変わってるんです」
「あーなるほどね」
「てか駿くん長くね。駿でいいじゃん」
「駿、そのリュック置きな、邪魔だから。つか水着着て来いよ」
「ポッキンアイス食べる?」
「食べないが」
「オイ先輩が要るかって聞いたら食うんだよ。やっぱ三国ちゃんの従弟だな」
「まいーや、なにして遊ぶ? 砂遊び以外な」
駿くんはリュックを下ろした瞬間に常盤先輩に肩車され、そのまま連れていかれた。駿くんは狼狽えているのでもはや誘拐だ。でも私が見守る横で、蛍さんは「よし、ガキは解決した」と満足気に頷いている。
「三国ちゃんの従弟、怖がってません? アイツら面倒見良いけどでかすぎでしょ」
「あのくらいの年だったらでかい高校生ってアトラクションみたいなもんなんじゃねえの」
「三国ちゃんの従弟ですよ? どう見ても教室の隅っこで本読んでるタイプですし、身長制限無視してジェットコースター乗せられるようなもんですよ」
つまりアトラクションが通常想定する高揚感だけではなく、怪我の危険と隣り合わせの恐怖感までセットである、と。そして能勢さんのいうとおり、駿くんは教室の隅で本を読んでばかりの子で体もそう大きいほうではない。その駿くんとはまるで違う世界の生き物のように、九十三先輩と常盤先輩は揃って体も大きい。そして常盤先輩は粗野で厳つい顔つき……。
「常盤と九十三なら大丈夫だろ。とっとと海入るかー」
「あ、三国ちゃん、荷物こっち置きな。交代で見てるから」
能勢さんについて砂浜を歩きながら、先輩達に連れていかれた駿くんにもう一度視線を向ける。常盤先輩は駿くんを浜辺に下ろし、屈みこんで何かしら話して、九十三先輩と顔を見合わせ、常盤先輩が走ってフリスビーを取ってきたところだった。
「……大丈夫かな」



