「計画的に持ってこないのが悪いのでは?」
お兄ちゃんは昔からそうだ、計画性がないというか、私任せにすることまで計画に織り込んでいるので計画性があるというか……。大学生になってもちっとも変わらない性格にそんな冷ややかな応酬をしていた最中、不意に京くんが私の後ろを見て「うぇっ」と顔を青くした。なんならお兄ちゃんも視線を動かす。
一体何事──と私が振り向く前に、ズシリと私の左肩に何かが載った。腕だった。
「おにーさん達、何やってんの?」
……そして声は九十三先輩だった。驚いて声を上げるより、その顔を見上げるより早く、反対側の肩にも優しく腕が載せられた。
「うちの三国ちゃんに何か用ですか?」
──能勢さんだ。その声で数日前から抱いている警戒心が顔を出す。お陰でサッと自分の顔が青くなってしまったことが分かった。
他の先輩と違って、間違いなく“黒”であるに違いない。ただ今日は真昼間だし、最初から群青の先輩達と一緒にいるとなると何か仕掛けるだけ手間だ。そう考えれば今日何かを企んでいる可能性は低い。その推測を自分に言い聞かせ、ゆっくりと鳴り始めていた動悸を押さえる。
「え……え? いやこれなに?」
ただ、それとこれとは別に、お兄ちゃんの困惑した声のとおり、目の前には別の問題が転がっていた。
「おい、勝手に行くなつったろ」
ザ、ザと砂利とコンクリートが擦れあう音がしていたかと思うと、蛍さんがサンダルの音をさせながら石階段を上ってきているところだった。原色の真っ青のシャツに黒い海パン、そして例によってピンクブラウンの髪で、ポッキンアイスを丸々1本|咥えながら歩く、その姿は非常にガラが悪い。
「で、結局何の用で、その手はなんですか?」
能勢さんの目は、私に向けて差し出されているお兄ちゃんの手を見たのだろう、お兄ちゃんは素早く手を引っ込めた。とはいえ状況は何も変わっていない、何も分からないままだ。いつも無表情の駿くんでさえ呆然と私を見上げている。
「……三国、これどういう状況だ?」
「え、いえ、私が聞きたいんですけど……」
能勢さんの隣にやって来た蛍さんに、私も呆然と首を横に振り──はっと気が付く。まさか。
「あ、兄です!」
「んあ?」
「え?」
「あれ、お兄さん?」
左右から3人分の間抜けな声が降ってきた。
お兄ちゃんと京くん、私と蛍さんと能勢さんと九十三先輩と駿くんが向かい合った状態で、沈黙が流れる。全員が全員、想像もしない状況に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているに違いなかった。
「……あー、三国の兄貴?」
多分、蛍さんが真っ先に立ち直ったのは群青のリーダーとしての責任感ゆえに違いなかった。お兄ちゃんはまだ状況を頭でしか理解できていないような顔で「……そうです。どうも、えーっと、こんにちは」と辛うじて返事をした。それもそうだ、こんな小さいチンピラみたいなのに絡まれるなんて人生そう経験はない。
「なんだあ、兄貴だったんだ! ごめんね三国ちゃん」
左肩が軽くなったかと思うと、九十三先輩がパッと両手を挙げていた。その口にはやっぱりポッキンアイスを咥えているし、既に海に入ったのかそのアッシュの髪は濡れたまま掻きあげられているし、やっぱりガラが悪い。
「三国ちゃんの顔があんまりにも冷たいからカツアゲでもされてるのかと思って。ごめんごめん、早とちりだったね」
お兄ちゃんは昔からそうだ、計画性がないというか、私任せにすることまで計画に織り込んでいるので計画性があるというか……。大学生になってもちっとも変わらない性格にそんな冷ややかな応酬をしていた最中、不意に京くんが私の後ろを見て「うぇっ」と顔を青くした。なんならお兄ちゃんも視線を動かす。
一体何事──と私が振り向く前に、ズシリと私の左肩に何かが載った。腕だった。
「おにーさん達、何やってんの?」
……そして声は九十三先輩だった。驚いて声を上げるより、その顔を見上げるより早く、反対側の肩にも優しく腕が載せられた。
「うちの三国ちゃんに何か用ですか?」
──能勢さんだ。その声で数日前から抱いている警戒心が顔を出す。お陰でサッと自分の顔が青くなってしまったことが分かった。
他の先輩と違って、間違いなく“黒”であるに違いない。ただ今日は真昼間だし、最初から群青の先輩達と一緒にいるとなると何か仕掛けるだけ手間だ。そう考えれば今日何かを企んでいる可能性は低い。その推測を自分に言い聞かせ、ゆっくりと鳴り始めていた動悸を押さえる。
「え……え? いやこれなに?」
ただ、それとこれとは別に、お兄ちゃんの困惑した声のとおり、目の前には別の問題が転がっていた。
「おい、勝手に行くなつったろ」
ザ、ザと砂利とコンクリートが擦れあう音がしていたかと思うと、蛍さんがサンダルの音をさせながら石階段を上ってきているところだった。原色の真っ青のシャツに黒い海パン、そして例によってピンクブラウンの髪で、ポッキンアイスを丸々1本|咥えながら歩く、その姿は非常にガラが悪い。
「で、結局何の用で、その手はなんですか?」
能勢さんの目は、私に向けて差し出されているお兄ちゃんの手を見たのだろう、お兄ちゃんは素早く手を引っ込めた。とはいえ状況は何も変わっていない、何も分からないままだ。いつも無表情の駿くんでさえ呆然と私を見上げている。
「……三国、これどういう状況だ?」
「え、いえ、私が聞きたいんですけど……」
能勢さんの隣にやって来た蛍さんに、私も呆然と首を横に振り──はっと気が付く。まさか。
「あ、兄です!」
「んあ?」
「え?」
「あれ、お兄さん?」
左右から3人分の間抜けな声が降ってきた。
お兄ちゃんと京くん、私と蛍さんと能勢さんと九十三先輩と駿くんが向かい合った状態で、沈黙が流れる。全員が全員、想像もしない状況に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているに違いなかった。
「……あー、三国の兄貴?」
多分、蛍さんが真っ先に立ち直ったのは群青のリーダーとしての責任感ゆえに違いなかった。お兄ちゃんはまだ状況を頭でしか理解できていないような顔で「……そうです。どうも、えーっと、こんにちは」と辛うじて返事をした。それもそうだ、こんな小さいチンピラみたいなのに絡まれるなんて人生そう経験はない。
「なんだあ、兄貴だったんだ! ごめんね三国ちゃん」
左肩が軽くなったかと思うと、九十三先輩がパッと両手を挙げていた。その口にはやっぱりポッキンアイスを咥えているし、既に海に入ったのかそのアッシュの髪は濡れたまま掻きあげられているし、やっぱりガラが悪い。
「三国ちゃんの顔があんまりにも冷たいからカツアゲでもされてるのかと思って。ごめんごめん、早とちりだったね」



