優子叔母さんそっくりのくしゃくしゃの黒い髪を更にくしゃくしゃにしながら、京くんは毛布のない炬燵机の前に座り込んだ。1年ぶりに見る従弟は優子叔母さんに似てきた気がするけど、きっとその黒縁眼鏡のせいだろう。私の中の優子叔母さんは黒縁眼鏡の印象が強い。
「てか京くん背高くね?」
「あーもうね、ずっと伸びてる。いま176センチ」
「うわー、負けてる」
お兄ちゃんが参った声を出す頃、襖の向こうからは政広叔父さんと優子叔母さんも現れて「うわっ……凜くんか」とやっぱり金髪にぎょっとした顔をした。
「とても帝大生には見えんなあ……」
「でもうちのサークル、こんな頭もっといるから」
「まあ……大学生らしくなったってことかね」
優子叔母さんは苦笑しながら、炬燵机から少し離れて畳の上に座り込んだ。おばあちゃんは人数分より少し多いアイスを持って戻ってきて「ほらどれがいいかね」と張り切っている。お兄ちゃんと京くんが迷わずそれぞれの好きなアイスを手に取り、私がその後から手を伸ばす。
「政之兄貴は? 今年は来れないの?」と政広叔父さんが口にすれば「お父さんは仕事忙しいって。お母さんはお父さん1人にできないから来ない。俺も実家寄らないでこっち直接来たし」とお兄ちゃんが肩を竦めた。
「てか京くん、海行こうよ。おばあちゃん家はさ、海あるのはいいんだけど一緒行く友達がいないんだよね」
「行く行く」
「京平、アンタ夕方には帰るって言ったでしょ」
「だいじょーぶ、5時までには帰ってくるから。英凜ちゃんも海行くでしょ?」
「……私、友達と一緒に行く約束あるから」
「え、お前友達いんの?」
お兄ちゃんの口角から、からかっていることは明白だった。頭に桜井くんと雲雀くんのほか、群青の先輩達を思い浮かべながら「うーん、まあぼちぼち」と適当な返事をする。
お兄ちゃんは、私が環境療養のためにおばあちゃんの家に住んでいるのを知っているくせに、そんな事実はないかのように、まるで私が気まぐれにおばあちゃんの家に住んでいるかのように扱う。全然構わないのだけど、お母さんの心配と全く真逆の反応をされると、頭ではちょっと複雑だ。
そして、環境療養のことは、父方の親戚はみんな知っている。だから政広叔父さん達は少し気を使った素振りはみせる。とはいえ、その気遣いの一環なのか、叔父さん達からはっきりと口に出されることはない。
「え、ちょうどいいじゃん。英凜ちゃん、海行くならその時僕達も連れてってよ。そしたら迷わないでいいし」
京くんは知っていて何事もないかのように振る舞うけれど、どちらかというと京くんの性格的には「環境療養とは聞いてるけどそれ以上分からないから知らない!」といった感じだ。
「迷う迷わないって、海の方向に行けば着くよ」
「念には念を」
「英凜、お前その友達の約束何時なの」
「11時」
「え、じゃあもう出るじゃん」
お兄ちゃんはアイスを食べながらリュックを漁って海パンを引っ張り出す。京くんはアイスの残りを口に放り込んで「僕も取ってくる、てか着替えてくる」とドタバタと客間へ行ってしまった。政広叔父さんと優子叔母さんは顔を見合わせる。
「今日、薫子さん達もいらっしゃるんじゃないの?」
「ああ、そろそろ着くんじゃないかなあ」
「てか京くん背高くね?」
「あーもうね、ずっと伸びてる。いま176センチ」
「うわー、負けてる」
お兄ちゃんが参った声を出す頃、襖の向こうからは政広叔父さんと優子叔母さんも現れて「うわっ……凜くんか」とやっぱり金髪にぎょっとした顔をした。
「とても帝大生には見えんなあ……」
「でもうちのサークル、こんな頭もっといるから」
「まあ……大学生らしくなったってことかね」
優子叔母さんは苦笑しながら、炬燵机から少し離れて畳の上に座り込んだ。おばあちゃんは人数分より少し多いアイスを持って戻ってきて「ほらどれがいいかね」と張り切っている。お兄ちゃんと京くんが迷わずそれぞれの好きなアイスを手に取り、私がその後から手を伸ばす。
「政之兄貴は? 今年は来れないの?」と政広叔父さんが口にすれば「お父さんは仕事忙しいって。お母さんはお父さん1人にできないから来ない。俺も実家寄らないでこっち直接来たし」とお兄ちゃんが肩を竦めた。
「てか京くん、海行こうよ。おばあちゃん家はさ、海あるのはいいんだけど一緒行く友達がいないんだよね」
「行く行く」
「京平、アンタ夕方には帰るって言ったでしょ」
「だいじょーぶ、5時までには帰ってくるから。英凜ちゃんも海行くでしょ?」
「……私、友達と一緒に行く約束あるから」
「え、お前友達いんの?」
お兄ちゃんの口角から、からかっていることは明白だった。頭に桜井くんと雲雀くんのほか、群青の先輩達を思い浮かべながら「うーん、まあぼちぼち」と適当な返事をする。
お兄ちゃんは、私が環境療養のためにおばあちゃんの家に住んでいるのを知っているくせに、そんな事実はないかのように、まるで私が気まぐれにおばあちゃんの家に住んでいるかのように扱う。全然構わないのだけど、お母さんの心配と全く真逆の反応をされると、頭ではちょっと複雑だ。
そして、環境療養のことは、父方の親戚はみんな知っている。だから政広叔父さん達は少し気を使った素振りはみせる。とはいえ、その気遣いの一環なのか、叔父さん達からはっきりと口に出されることはない。
「え、ちょうどいいじゃん。英凜ちゃん、海行くならその時僕達も連れてってよ。そしたら迷わないでいいし」
京くんは知っていて何事もないかのように振る舞うけれど、どちらかというと京くんの性格的には「環境療養とは聞いてるけどそれ以上分からないから知らない!」といった感じだ。
「迷う迷わないって、海の方向に行けば着くよ」
「念には念を」
「英凜、お前その友達の約束何時なの」
「11時」
「え、じゃあもう出るじゃん」
お兄ちゃんはアイスを食べながらリュックを漁って海パンを引っ張り出す。京くんはアイスの残りを口に放り込んで「僕も取ってくる、てか着替えてくる」とドタバタと客間へ行ってしまった。政広叔父さんと優子叔母さんは顔を見合わせる。
「今日、薫子さん達もいらっしゃるんじゃないの?」
「ああ、そろそろ着くんじゃないかなあ」



