「そうそう」だから私もできるだけいつも通りの声を出して「10年以上会ってなかったクリスのお陰で今の主人公があるっていうのが、それでそのクリスが死んでしまったことであの日の冒険を思い出すっていう、あの青春が……よかった、胸に来た」
「つかこれって三国面白かったの? 俺らは男子だから、12歳の俺らってあんな感じだなってシンパシーあるけど」
雲雀くんは口には出さなかったけれど、ことあるごとに出てきた下品なセリフとシーンのことに違いない。そして両隣の2人は、そういうシーンのたびに、私の隣で見ることに居心地の悪さを感じ、黙ってやり過ごそうとしていたに違いない。
「……まあ、少年同士の絆とか、そういうのは。メタ的に見て面白いっていうか、いいなあっていうのはある」
「メタ的とか言うな」雲雀くんは鼻で笑って「まあ、絆は分かるけど。クリスと主人公な」
「そう、親友って言ってるだけあって、4人の中でも特別な理解者って感じだった。キャンプのシーンで、2人だけで秘密を共有するところとか……ちょうど桜井くんと雲雀くんみたいかもしれない」
雲雀くんは口をへの字にした。そうか? とでも聞こえてきそうだけど、もしかしたら照れ隠しなのかもしれない。
「……お茶冷えたな。沸かすか」
「あ、待って、手伝うから」
話を切り上げてキッチンへ行こうとするから、やっぱり照れ隠しかもしれない。重いものを持たせるまいと慌ててキッチンまでついて行き、その手がヤカンに伸びるより早くそれを奪い取った。
「……三国ってなんで俺らと一緒にいんの?」
「……なに急に?」
コンロの前でお湯を沸かしながら、妙なことを聞かれた。唐突過ぎて言外に出て行けと言われているのかとさえ思えるセリフだ。いや逆にそうは思えないかもしれないけど。
「……いや、俺らは2人まだ分からんでもない、けど、三国はなんで俺らとつるんでんだろうなと思って」
「なんでって言われても……」
「なんならお前、新庄に拉致られたとき、蛍さんに怒られたのに俺らとつるむのやめなかったろ。あれ謎だったんだよな」
赤倉庫の前で、桜井くんと雲雀くんと縁を切れと言われたときの話だ。群青の仲間になる覚悟はあるか──そう聞かれたときの蛍さんの顔を、今でも覚えている。
「……謎かな」
「謎だろ。新庄に拉致られて……、怖かったろ」なんなら体まで触られて、という間は省略されたまま「俺らと縁切るほうが、合理的じゃねーの。縁切ったって新庄が狙うかもしれねーけど、三国になんかあれば俺らは動く。だったら俺らとつるむだけ損だ」
2人と一緒にいるだけ損……。そんな考え方はしたことがなかった。2人と一緒にいることに損得勘定なんてしたことがない。
それどころか、損得勘定なんてしてしまったら、私が得をし続けているようにしか思えない。
「……なんで2人と一緒にいるのって言われたら、友達だから以外言えないんだけど」
「それを加味してもだろ。一昨日だって……」
それ以上のことを、雲雀くんは口にしなかった。一昨日、私がどこまでどうされたのか知っているのは当事者以外は雲雀くんだけだ。むしろ、呆然として機能停止していた私よりも的確に状況を──全容を把握しているのかもしれない。
そして雲雀くんは優しいから、もしかしたら私以上に私が感じた怯えを分かってくれるのかもしれない。そういう優しさは最初から知っていたし、考えてみたらそれが一緒にいる理由かとも思ったけど、きっとそうじゃない。
「つかこれって三国面白かったの? 俺らは男子だから、12歳の俺らってあんな感じだなってシンパシーあるけど」
雲雀くんは口には出さなかったけれど、ことあるごとに出てきた下品なセリフとシーンのことに違いない。そして両隣の2人は、そういうシーンのたびに、私の隣で見ることに居心地の悪さを感じ、黙ってやり過ごそうとしていたに違いない。
「……まあ、少年同士の絆とか、そういうのは。メタ的に見て面白いっていうか、いいなあっていうのはある」
「メタ的とか言うな」雲雀くんは鼻で笑って「まあ、絆は分かるけど。クリスと主人公な」
「そう、親友って言ってるだけあって、4人の中でも特別な理解者って感じだった。キャンプのシーンで、2人だけで秘密を共有するところとか……ちょうど桜井くんと雲雀くんみたいかもしれない」
雲雀くんは口をへの字にした。そうか? とでも聞こえてきそうだけど、もしかしたら照れ隠しなのかもしれない。
「……お茶冷えたな。沸かすか」
「あ、待って、手伝うから」
話を切り上げてキッチンへ行こうとするから、やっぱり照れ隠しかもしれない。重いものを持たせるまいと慌ててキッチンまでついて行き、その手がヤカンに伸びるより早くそれを奪い取った。
「……三国ってなんで俺らと一緒にいんの?」
「……なに急に?」
コンロの前でお湯を沸かしながら、妙なことを聞かれた。唐突過ぎて言外に出て行けと言われているのかとさえ思えるセリフだ。いや逆にそうは思えないかもしれないけど。
「……いや、俺らは2人まだ分からんでもない、けど、三国はなんで俺らとつるんでんだろうなと思って」
「なんでって言われても……」
「なんならお前、新庄に拉致られたとき、蛍さんに怒られたのに俺らとつるむのやめなかったろ。あれ謎だったんだよな」
赤倉庫の前で、桜井くんと雲雀くんと縁を切れと言われたときの話だ。群青の仲間になる覚悟はあるか──そう聞かれたときの蛍さんの顔を、今でも覚えている。
「……謎かな」
「謎だろ。新庄に拉致られて……、怖かったろ」なんなら体まで触られて、という間は省略されたまま「俺らと縁切るほうが、合理的じゃねーの。縁切ったって新庄が狙うかもしれねーけど、三国になんかあれば俺らは動く。だったら俺らとつるむだけ損だ」
2人と一緒にいるだけ損……。そんな考え方はしたことがなかった。2人と一緒にいることに損得勘定なんてしたことがない。
それどころか、損得勘定なんてしてしまったら、私が得をし続けているようにしか思えない。
「……なんで2人と一緒にいるのって言われたら、友達だから以外言えないんだけど」
「それを加味してもだろ。一昨日だって……」
それ以上のことを、雲雀くんは口にしなかった。一昨日、私がどこまでどうされたのか知っているのは当事者以外は雲雀くんだけだ。むしろ、呆然として機能停止していた私よりも的確に状況を──全容を把握しているのかもしれない。
そして雲雀くんは優しいから、もしかしたら私以上に私が感じた怯えを分かってくれるのかもしれない。そういう優しさは最初から知っていたし、考えてみたらそれが一緒にいる理由かとも思ったけど、きっとそうじゃない。



