ああ、確かに。言われてみれば分かる気もした。私も、両親が知らないうちに住んでる町を出て、思いもよらない冒険をしてみたい。なぜそう思うのかは分からなかったけど。
不意に、映画の中の少年が、ライトブラウンというか、栗色というか、とにかく白人の少年らしい明るい髪色だということに注目してしまった。つい隣の桜井くんの髪色と見比べる。いつもより近くに金髪があった。
「ね、桜井くんの地毛ってこんな色なの?」
「ん? うーん、そうかも?」
桜井くんはピンと自分の前髪を引っ張る。
「えーっと、前にこのへんに黒いのが……」
「黒くはねーだろ、お前の髪」
「金の中だからそう見えたんだよ。でもそうかも、このゴーディっぽい色かな。テディほど明るくないと思う、多分」
本当は桜井くんのその髪をくしゃくしゃとかき分けて、根元の色を見極めてみたかった。でもさすがにそんな権利は私にはない。ちょっとだけ残念な気持ちになって映画に視線を戻す。
「【兄が死んで以来、私は内気な少年となっていた】」
「invisibleになってるって言わなかった? 透明人間とかそういう意味じゃないの?」
よくある原文と字幕の不一致だ。とはいえ私には、言われてみれば”invisible”という単語が聞こえたな、程度だったので、桜井くんは耳が良い。現に雲雀くんが「お前耳はいいんだな」なんて茶化した。
「でも確かにな、invisibleなら両親に無視されるようになってたとか訳せばいいのに」
「……お兄さんが両親の期待通りに優秀な子で、その優秀だったお兄さんのほうが死んじゃったから、両親が意気消沈してしまってて、お兄さんみたいに優秀ではないゴーディのことを気にかけないから、そのせいで両親に対して引っ込み思案になってるってことなんじゃない?」
「ああ、なるほどな」
「すげー、翻訳って奥が深えー」
「いやごめん、そう考えただけで本当にそういう趣旨なのかは分からないけど……」
3人でブツブツ言いながら映画が進むのを見ていると、段々と主人公が兄に劣等感を抱いていたことが分かり始めた。夢の中では、両親に「お前が代わりに死ねばよかったんだ」なんて言われていて、愛情不足を感じていることがよく分かる。
それを見ていると、最初に自分が抱いた感情に説明がついた気がした。
私にも、優秀な兄はいる。私と比べてどうかは知らないけど、世間的には優秀だ。そして、兄は私みたいにIQテストを受けさせられたことなんてない。
私も、この主人公と同じなのかもしれない。今まで兄に劣等感を抱いたことなんてなかった、なかったつもりだったけれど、もしかしたら『ああ、兄は私と違ってちゃんと正常なんだ』と心のどこかで劣等感に似た感情を抱いていたのかもしれない。だから私は、群青にいることを選んだのかもしれない。
「……さっき昴夜が言ったの、分かるような気がするな」
「だろ?」
頷いたのは私ではなくて雲雀くんだった。映画の中では、クリスが、家庭環境が悪いせいで俺の言うことなんて信じてもらえないと泣いていた。
そうだ、雲雀くんはきっとクリスと同じだ。医者一族だから将来は医者にと嘱望されている。家庭環境のせいで「どうせアイツも駄目なんだ」という目で見られているクリスと同じ、家族と家庭環境から作られた規格の中でしか見られることはない。
映画の中では、クリス達に合わせて進学組でなく就職組になろうとする主人公を、クリスが叱っていた。
不意に、映画の中の少年が、ライトブラウンというか、栗色というか、とにかく白人の少年らしい明るい髪色だということに注目してしまった。つい隣の桜井くんの髪色と見比べる。いつもより近くに金髪があった。
「ね、桜井くんの地毛ってこんな色なの?」
「ん? うーん、そうかも?」
桜井くんはピンと自分の前髪を引っ張る。
「えーっと、前にこのへんに黒いのが……」
「黒くはねーだろ、お前の髪」
「金の中だからそう見えたんだよ。でもそうかも、このゴーディっぽい色かな。テディほど明るくないと思う、多分」
本当は桜井くんのその髪をくしゃくしゃとかき分けて、根元の色を見極めてみたかった。でもさすがにそんな権利は私にはない。ちょっとだけ残念な気持ちになって映画に視線を戻す。
「【兄が死んで以来、私は内気な少年となっていた】」
「invisibleになってるって言わなかった? 透明人間とかそういう意味じゃないの?」
よくある原文と字幕の不一致だ。とはいえ私には、言われてみれば”invisible”という単語が聞こえたな、程度だったので、桜井くんは耳が良い。現に雲雀くんが「お前耳はいいんだな」なんて茶化した。
「でも確かにな、invisibleなら両親に無視されるようになってたとか訳せばいいのに」
「……お兄さんが両親の期待通りに優秀な子で、その優秀だったお兄さんのほうが死んじゃったから、両親が意気消沈してしまってて、お兄さんみたいに優秀ではないゴーディのことを気にかけないから、そのせいで両親に対して引っ込み思案になってるってことなんじゃない?」
「ああ、なるほどな」
「すげー、翻訳って奥が深えー」
「いやごめん、そう考えただけで本当にそういう趣旨なのかは分からないけど……」
3人でブツブツ言いながら映画が進むのを見ていると、段々と主人公が兄に劣等感を抱いていたことが分かり始めた。夢の中では、両親に「お前が代わりに死ねばよかったんだ」なんて言われていて、愛情不足を感じていることがよく分かる。
それを見ていると、最初に自分が抱いた感情に説明がついた気がした。
私にも、優秀な兄はいる。私と比べてどうかは知らないけど、世間的には優秀だ。そして、兄は私みたいにIQテストを受けさせられたことなんてない。
私も、この主人公と同じなのかもしれない。今まで兄に劣等感を抱いたことなんてなかった、なかったつもりだったけれど、もしかしたら『ああ、兄は私と違ってちゃんと正常なんだ』と心のどこかで劣等感に似た感情を抱いていたのかもしれない。だから私は、群青にいることを選んだのかもしれない。
「……さっき昴夜が言ったの、分かるような気がするな」
「だろ?」
頷いたのは私ではなくて雲雀くんだった。映画の中では、クリスが、家庭環境が悪いせいで俺の言うことなんて信じてもらえないと泣いていた。
そうだ、雲雀くんはきっとクリスと同じだ。医者一族だから将来は医者にと嘱望されている。家庭環境のせいで「どうせアイツも駄目なんだ」という目で見られているクリスと同じ、家族と家庭環境から作られた規格の中でしか見られることはない。
映画の中では、クリス達に合わせて進学組でなく就職組になろうとする主人公を、クリスが叱っていた。



