「それってなんか変なの? そんなことゴチャゴチャ考えたことないけどさあ、分析すりゃみんな心の動きなんてそうなってんじゃね? 我儘ばっかのヤツのことをガキだって言うし、段々成長して他人に配慮できるようになるんじゃねーの?」
それは、そうなのだ。むしろ私はそう信じているのだ。まさしくそうだと信じていたからこそ、それを瞬時にできない私は平均的な人よりも頭が悪いと思っていた。その思考が遅いということだから。
「……でも……IQテストの結果には『この程度じゃ全然病名はつかない』って言われたし……」
「“この程度じゃ全然病名はつかないよ”か」
あまりにも的確に反芻した雲雀くんに、「〇」と書かれた札でも揚げたくなった。ついでにそのままその札で雲雀くんの頬を小突きたい。
「……雲雀くんの話の速さが恨めしいような、ありがたいような、今ちょっと複雑な気持ちだよ」
裏を返せば病的な要素がある、まさしくその絶妙で微妙な分類をされたから、私はここにいるのだ。
ただ、私の隣で、桜井くんは首を捻った。
「それって正常なんじゃん。なにが駄目なの?」
きょとんとした顔に、それこそきょとんとした顔で返してしまった。
「だってそれじゃ病名つかないんだろ。しかも全然。それ正常じゃん」
ぱちくりぱちくりと、何度も瞬きしてしまった。
「てかそういうのってIQテスト受けさせられんの?」
「え、うん……そうだね……」
「英凜ってIQなんぼなの、めっちゃ高そう」
「……130か146」
「勝った! 俺この相手テレビでやったときIQ180相当解けたから!」
きっと土曜の夜にやってるIQバラエティ番組のことだ。おばあちゃんも「ボケ防止」なんて言って一生懸命見て、私と一緒に解いている。
「……先週見たヤツか」
「あそっか、侑生もいたんだ。解けないってイライラしてたよな」
「マジでマッチ棒へし折りたくなったからな」
でも、結局それはバラエティ番組で、片や私がさせられたのは専門家を前にした専門のテストだ。そのふたつの結果を比べたってなんの意味もないことくらい分かる。
そして桜井くんも分かっている。だからそんなことはどうでもいい。
「てかあれ英凜いなかったんだっけ?」
「いなかった、つか夏休み入ってからお前の家は行ってなくね。三国遠いし」
「あー、まあ学校帰りのほうが楽か。もうちょい家近けりゃいくらでも遊べるのにな」
つまり、桜井くんにとって、私のIQテストの結果なんてどうでもいいのだ。桜井くんにとってはなんの意味もないこと。きっと、IQテストの結果を見ても、桜井くんは「へー、こういうのなんだ!」くらいしか言わないだろう。結果に何が書かれていても、私の折れ線グラフがズタズタのガタガタでも。
「……やっぱり、桜井くんのこと好きだなあ」
それに気付いてしまった瞬間、ぽろっと文脈なくその感情が零れていた。
思わずはたと止まってしまうくらい、自分でもびっくりした。というか自分の喉から出たとは思えなかった。普通の言葉と同じように、耳に伝わるまでの音の振動はあったか、なんて聞きたくなるほど、本当に自分の口から出たとは思えないくらい、あまりにも唐突な発言だった。
……いま何言ったんだっけ。そう思い返したくなるほど無自覚で、そう思い返したくないほど恥ずかしいセリフに思えた。
「英凜、その手の冗談はだめつったじゃん」
でも、幸か不幸か、桜井くんはクッションを抱えてふくれっ面をしているだけだった。
それは、そうなのだ。むしろ私はそう信じているのだ。まさしくそうだと信じていたからこそ、それを瞬時にできない私は平均的な人よりも頭が悪いと思っていた。その思考が遅いということだから。
「……でも……IQテストの結果には『この程度じゃ全然病名はつかない』って言われたし……」
「“この程度じゃ全然病名はつかないよ”か」
あまりにも的確に反芻した雲雀くんに、「〇」と書かれた札でも揚げたくなった。ついでにそのままその札で雲雀くんの頬を小突きたい。
「……雲雀くんの話の速さが恨めしいような、ありがたいような、今ちょっと複雑な気持ちだよ」
裏を返せば病的な要素がある、まさしくその絶妙で微妙な分類をされたから、私はここにいるのだ。
ただ、私の隣で、桜井くんは首を捻った。
「それって正常なんじゃん。なにが駄目なの?」
きょとんとした顔に、それこそきょとんとした顔で返してしまった。
「だってそれじゃ病名つかないんだろ。しかも全然。それ正常じゃん」
ぱちくりぱちくりと、何度も瞬きしてしまった。
「てかそういうのってIQテスト受けさせられんの?」
「え、うん……そうだね……」
「英凜ってIQなんぼなの、めっちゃ高そう」
「……130か146」
「勝った! 俺この相手テレビでやったときIQ180相当解けたから!」
きっと土曜の夜にやってるIQバラエティ番組のことだ。おばあちゃんも「ボケ防止」なんて言って一生懸命見て、私と一緒に解いている。
「……先週見たヤツか」
「あそっか、侑生もいたんだ。解けないってイライラしてたよな」
「マジでマッチ棒へし折りたくなったからな」
でも、結局それはバラエティ番組で、片や私がさせられたのは専門家を前にした専門のテストだ。そのふたつの結果を比べたってなんの意味もないことくらい分かる。
そして桜井くんも分かっている。だからそんなことはどうでもいい。
「てかあれ英凜いなかったんだっけ?」
「いなかった、つか夏休み入ってからお前の家は行ってなくね。三国遠いし」
「あー、まあ学校帰りのほうが楽か。もうちょい家近けりゃいくらでも遊べるのにな」
つまり、桜井くんにとって、私のIQテストの結果なんてどうでもいいのだ。桜井くんにとってはなんの意味もないこと。きっと、IQテストの結果を見ても、桜井くんは「へー、こういうのなんだ!」くらいしか言わないだろう。結果に何が書かれていても、私の折れ線グラフがズタズタのガタガタでも。
「……やっぱり、桜井くんのこと好きだなあ」
それに気付いてしまった瞬間、ぽろっと文脈なくその感情が零れていた。
思わずはたと止まってしまうくらい、自分でもびっくりした。というか自分の喉から出たとは思えなかった。普通の言葉と同じように、耳に伝わるまでの音の振動はあったか、なんて聞きたくなるほど、本当に自分の口から出たとは思えないくらい、あまりにも唐突な発言だった。
……いま何言ったんだっけ。そう思い返したくなるほど無自覚で、そう思い返したくないほど恥ずかしいセリフに思えた。
「英凜、その手の冗談はだめつったじゃん」
でも、幸か不幸か、桜井くんはクッションを抱えてふくれっ面をしているだけだった。



