「……湿布」
少しティシャツがずれて露わになった肩を見れば一目瞭然だ。雲雀くんはすぐに引っ張って直したけれどもう遅い。
「……左だろ」
「……だから?」
「利き腕じゃないから大丈夫だって言ってんだよ。すぐ治るし」
「っていうか、ちゃんと患部に貼れてるの? 肩って貼りにくいんじゃ……」
もう一度ティシャツを引っ張って見ようとしたけれど「大丈夫」と腕を引っ張られ、逃げられてしまった。強情だ。じとりと睨むように見ていると、じっとリビングのソファにうつ伏せに寝転んでこちらを見ている桜井くんに気が付いた。
「……どうしたの?」
「……俺も背中の湿布上手く貼れない」
「貼ろうか?」
「……やっぱいい」
桜井くんはポフンとソファに顔を埋めた。お陰で冷房の風に金髪が揺れる様子しか見えない。
そんな遣り取りをしている間に、雲雀くんは右手に麦茶、左手にグラスを3つ持ってしまった。重たくて左手では麦茶を持てなかったんじゃ……なんて勘繰るけれど、やっぱり雲雀くんは何も言わない。
「……雲雀くん、麦茶作ってくれてたの?」
「いや、家政婦が来て作ってる」
……斜め上の回答のせいで返事に困った。そうくるとは思わなかった。
「基本、父親が病院行ってていないから。洗濯物と、掃除と、夜の食事は家政婦が週2か週3で来てやってくれてる。別に要らないって言ってんだけど」
雲雀病院があるくらいだし、きっと雲雀くんの父方のおじいちゃんおばあちゃんは市内に住んでいるだろうけれど、おばあちゃんがご飯を作りに来るわけじゃないんだ……。そんなことを思ってしまった後で、雲雀くんが親族と微妙な関係にあることを思い出す。あまり突っ込んではいけないところだ。
「……雲雀くんも、ご飯作ったりするの?」
「まあ、適当に。土曜の昼飯とかは自分で作るし」
「土曜のお昼は家政婦さん来ないって決まってるの?」
「まあ。遊びに出てることもあるから家で食わなきゃいけないって決まってるとめんどいってことで」
「なるほど……」
そんな話をしながらソファに戻ったけれど、雲雀くんがお茶をテーブルに置く音がしても、桜井くんは起き上がろうとしなかった。うつ伏せに寝転んだまま、足をゆらゆらと揺らしている。
「……桜井くん、座れない」
「……んー」
大型犬が人間の代わりにソファに寝転んでしまっているかのようだ。実際、ふわふわと揺れる金髪を見ているとゴールデンレトリバーのように思えてくる。
ふわふわと、冷房の風に揺れている、その金髪を触ってみたい衝動に駆られてしまい、そろそろと手を伸ばした。
でも毛先に触れた瞬間に桜井くんは「ん?」と跳ね起きる。お陰でこっちも素早く手を引っ込める羽目になった。
「……いま何かした?」
「……なにも」
「……冷房かな」
ポンポン、と桜井くんは自分の頭を触る。もう触らせてくれる隙は見せてくれないだろう。こんなことなら思い切り撫でてみればよかった。
「……三国が持って来たのって水羊羹?」雲雀くんは一人掛けのソファに座り込んで私の紙袋を持っていて「冷やすほうがいい?」とまた働こうとする。桜井くんの頭撫でチャレンジなんてしている場合ではない、慌ててその手から紙袋を奪った。
「ほうが、いいと思う、けど、よければ冷蔵庫を開けて入れておきます」
「……じゃ頼んだ」
「英凜ィ、コイツ元気だから。別にそんな介護しなくていいんだよ」
少しティシャツがずれて露わになった肩を見れば一目瞭然だ。雲雀くんはすぐに引っ張って直したけれどもう遅い。
「……左だろ」
「……だから?」
「利き腕じゃないから大丈夫だって言ってんだよ。すぐ治るし」
「っていうか、ちゃんと患部に貼れてるの? 肩って貼りにくいんじゃ……」
もう一度ティシャツを引っ張って見ようとしたけれど「大丈夫」と腕を引っ張られ、逃げられてしまった。強情だ。じとりと睨むように見ていると、じっとリビングのソファにうつ伏せに寝転んでこちらを見ている桜井くんに気が付いた。
「……どうしたの?」
「……俺も背中の湿布上手く貼れない」
「貼ろうか?」
「……やっぱいい」
桜井くんはポフンとソファに顔を埋めた。お陰で冷房の風に金髪が揺れる様子しか見えない。
そんな遣り取りをしている間に、雲雀くんは右手に麦茶、左手にグラスを3つ持ってしまった。重たくて左手では麦茶を持てなかったんじゃ……なんて勘繰るけれど、やっぱり雲雀くんは何も言わない。
「……雲雀くん、麦茶作ってくれてたの?」
「いや、家政婦が来て作ってる」
……斜め上の回答のせいで返事に困った。そうくるとは思わなかった。
「基本、父親が病院行ってていないから。洗濯物と、掃除と、夜の食事は家政婦が週2か週3で来てやってくれてる。別に要らないって言ってんだけど」
雲雀病院があるくらいだし、きっと雲雀くんの父方のおじいちゃんおばあちゃんは市内に住んでいるだろうけれど、おばあちゃんがご飯を作りに来るわけじゃないんだ……。そんなことを思ってしまった後で、雲雀くんが親族と微妙な関係にあることを思い出す。あまり突っ込んではいけないところだ。
「……雲雀くんも、ご飯作ったりするの?」
「まあ、適当に。土曜の昼飯とかは自分で作るし」
「土曜のお昼は家政婦さん来ないって決まってるの?」
「まあ。遊びに出てることもあるから家で食わなきゃいけないって決まってるとめんどいってことで」
「なるほど……」
そんな話をしながらソファに戻ったけれど、雲雀くんがお茶をテーブルに置く音がしても、桜井くんは起き上がろうとしなかった。うつ伏せに寝転んだまま、足をゆらゆらと揺らしている。
「……桜井くん、座れない」
「……んー」
大型犬が人間の代わりにソファに寝転んでしまっているかのようだ。実際、ふわふわと揺れる金髪を見ているとゴールデンレトリバーのように思えてくる。
ふわふわと、冷房の風に揺れている、その金髪を触ってみたい衝動に駆られてしまい、そろそろと手を伸ばした。
でも毛先に触れた瞬間に桜井くんは「ん?」と跳ね起きる。お陰でこっちも素早く手を引っ込める羽目になった。
「……いま何かした?」
「……なにも」
「……冷房かな」
ポンポン、と桜井くんは自分の頭を触る。もう触らせてくれる隙は見せてくれないだろう。こんなことなら思い切り撫でてみればよかった。
「……三国が持って来たのって水羊羹?」雲雀くんは一人掛けのソファに座り込んで私の紙袋を持っていて「冷やすほうがいい?」とまた働こうとする。桜井くんの頭撫でチャレンジなんてしている場合ではない、慌ててその手から紙袋を奪った。
「ほうが、いいと思う、けど、よければ冷蔵庫を開けて入れておきます」
「……じゃ頼んだ」
「英凜ィ、コイツ元気だから。別にそんな介護しなくていいんだよ」



