ぼくらは群青を探している

 ひとつ次元の違う言葉に、頭では分かっても、感情ではその次元の違いを捉えきることができなかった。それはきっと、私が今まで目にしたことのない行為で、それでいて、もしかしたらこれから先も目にすることがないかもしれない行為だったから。
 それなのに、蛍さんはそれを分かっているような口ぶりだった。

「……殺したら、殺したほうが悪者にされるだろ。だから、そのストッパーは持っとけよって言いたかったんだ、俺は」

 雲雀くんは、まるで図星でもつかれたように黙っていた。

「特に、新庄。アイツ、お前らの天敵だな。(たが)、外しすぎないように気をつけろよ」

 ザッザッと今度こそ踵を返した蛍さんの後ろを「ねー永人、屋台寄って帰んない? 腹減った」「花火終わった後ってやってんのか?」「だからやってるとこ寄ろうって話してるんじゃん」九十三先輩が追いかけ、残りの先輩達も参道のほうへ足を向ける。私達もとぼとぼと参道の、明るいほうへと向かう。

「……そういえば、陽菜は?」
「親に迎えに来てもらえつっといた。今は俺らといるほうが危ねーしな」
「あ、そうだ、三国ちゃんと一緒にいた、池田さん?」

 能勢さんがそんな会話に割り込んでくるとは思わず、顔を見るときに驚きを隠せなかった。能勢さんは歩き煙草はしないらしく、携帯灰皿の中で煙草を揉み消しながら「そんな驚く? 驚くか」といつものように微笑む。

「俺のケータイに、又聞きの又聞きみたいな感じで連絡あったんだ。三国ちゃんが群青のOBって嘘吐く連中に(さら)われたから助けてほしいって。いい友達持ったね」
「……そう、ですね」

 新庄と密談を交わしたその口で、この人は、なぜ、そんなことを言えるのだろう。今回の一件で、能勢さんへの猜疑(さいぎ)(しん)はますます強くなったというのに……。

「ああ、ごめんね。イラつくと煙草増えるタイプなんだ、俺」

 私はどんな顔をしてしまっていたのだろう。桜井くんは顔に出るから誰が怪しいなんて話したくない、なんて、そんな人のことを言える立場ではないのかもしれない。
 ……そんなことより、イラついた、というのは、どういうことだろう。能勢さんは、この状況の何にイラついたのだろう。デジカメのデータを手に入れることができなかったこと、だろうか。

「あ、三国ちゃん。浴衣、似合ってるよ。群青色だね」
「え、マジ? 群青? 三国ちゃんセンスあるーう」

 耳ざとく聞きつけた九十三先輩が、振り向いて、大きく口を開けて笑った。他の先輩達も「マジ、群青の(かがみ)じゃん」「てか群青色ってどんなの?」「いやだからあれだよ、三国ちゃんの浴衣」と反応する。雲雀くんのいうとおりだった。

「……ありがとう、ございます」
「帰り、桜井くんか雲雀くん、送ってやんなよ? すごく混むだろうけど」

 ……そんなことを、まるで私のことを心配しているかのようなことを言うなんて、能勢さんは、今回の件には関与していないのだろうか。
 花火が完全に終わる前に帰ろうとする人々の中に紛れながら、ゆっくりと、今日の情報を整理する。先輩達はちゃんと助けに来てくれた。一番怪しい能勢さんが(やしろ)の場所を九十三先輩に伝えた。蛍先輩は自分が雲雀くんの立場でも同じことをすると言った。演技で口にできるとしたら、さすがにクサすぎる。