ぼくらは群青を探している

 次いで、その視線は私達へ向けられる。思わず桜井くんの手から手を引っこ抜き、そのまま桜井くんの甚平の裾を掴んでしまった。桜井くんは頭上に「?」でも浮かんでそうな顔で私を見下ろした後、蛍さんに顔を戻して「……あ、こんばんはー」と呑気な挨拶をする。

「……桜井。これやったのお前か?」
「ううん、侑生」
「……雲雀(おまえ)はもうちょい冷静なタイプだと思ってたんだけどな」

 ぐしゃぐしゃと蛍さんは髪をかき混ぜた。雲雀くんは陽菜に連絡を終えたらしく、パチンと携帯電話を閉じたところだった。

「なんでここまでやった? 言い訳は?」
「……別に」
「す、みません、私です」

 雲雀くん、答えないんだ。その配慮に気付いて、慌てて桜井くんの後ろから顔を出した。……自分のせいだと告白するのに桜井くんの陰に隠れているなんて間抜けすぎる。そのことに気付いて、おそるおそる桜井くんの陰から出た。蛍さんは眉を吊り上げたし、雲雀くんは「おい」と短く声だけで私を止める。
 でも、手で止めようとしないのは、きっと左肩が痛くて、その肩を右手で押さえたままだからだ。

「……すみません、私が……私が、不用意に、襲われたから……」
「……何?」

 ぎゅっと、雲雀くんの助けで整えてもらえた胸元の(えり)を握りしめた。

「……私が……友達と一緒にいたとき、この人達が群青のOBを(かた)って……。嘘だって分かったから、逃げたんですけど、逃げ切れなくて、私だけ連れて行かれて……私が襲われてたから、雲雀くんが……、その、戦意を喪失させるためというか……」
「違いますよ」雲雀くんは渋々口を開き「別に、そこまで考えてないです。ただ……」
「ただ?」
「……このくらいしてやりたいくらい、ムカついただけです」

 雲雀くんのそのセリフには、違和感があった。きっと嘘ではないし、本音にも近いはずだけれど、きっと本当の本音はそうじゃない、そう思える違和感。
 理屈も根拠もない、ただの直感だ。だから「勘違いだ」と言われたら否定はできないし、引き下がるしかない。それでも直感したのは確かだった。
 蛍さんは前髪をかき上げる途中で手を止め、そのまま額を押さえて口をへの字にした。なにかの処理に困っている顔だった。

「……あの……その、こういう、ルールというか、モラル? ってよく分からないんですけど……なにか、問題があるんですか?」
「……今俺が言ってるのはそういうことじゃねえけど、それとは別に問題があるといえばある、ないといえばない」
「……?」
「簡単に言うと、やっぱやりすぎはダメだよねって話なんだよ」

 ポケットに両手を突っ込みながら、九十三先輩は問題の1人を足で軽くつつき「あー、顔血まみれだね、すげ」と様子を確認する。

「さっきちょっと話したけど、軽すぎはもちろんダメなんだよ、無駄に復讐(ふくしゅう)(しん)──っていうと大げさかな、やり返してやるって感情を煽るだけだから。だから適度に|のし(・・)て、アイツに歯向かうとやられるっていう恐怖心だけ植え付ければオーケー。あ、俺はね、そんなこと気にしないでいくらでもドンパチしていいんだけど」
「ま、コイツみたいなのは置いといて。要はやり過ぎてもやり返されるだけだって話だよ。例えば桜井、お前、新庄に腕折られたらどうする」
「新庄の足を折る」
「この場での模範解答だな」

 とんでもない回答に私は目を()いたけれど、蛍さんはパチパチと気のない拍手をした。

「そうなるだろ? だからやりすぎるのはマズイんだよ」