ぼくらは群青を探している

「つか、ケータイ持ってないけどどうした?」
「……ここに連れて来られるまでに落とした」

 返事をすると雲雀くんが軽く首を動かした。首に蚊でも止まったような仕草だった。

「……どうかした?」
「あんま首の近くで喋んな。くすぐったい」

 今までの恐怖が吹っ飛びそうな羞恥(しゅうち)に襲われ閉口した。そういうことを口に出さないでほしい。
 いや、でも、私がさっきまでしていたのはそういうことか……。ドクリドクリとまた心臓の音がうるさくなってきた。怖いとは思ったけれど、雲雀くんなら怖くないと思ったはずだけど、だからそれを確かめたかったのだけれど、それで……? 確かめることに、一体何の意味があったのだろう。とにかく欲に任せて行動してしまうとこの有様だ、ちゃんと雲雀くんに謝ろう。さすがにいまは無理だけど、ちゃんと家に帰れたら、さっきまでの一連の事実を思い出すのは心にくるものがあるけれど、それでも──。
 はたと、カメラのシャッター音のことを思い出した。

「あ」
「ん?」
「……写真、撮られてた」

 その一言で、雲雀くんの顔から表情が()げ落ちた。いつもの無表情が無表情でなかったのではないかと思えるほど、本当に全く感情のない表情に、びくりと胸の奥で心臓が跳ねる。

「……何の話だ?」

 雲雀くんの声が低い。まるで私が悪いことをしてしまったかのように「え、あの……」とまごついてしまった。

「……その……、私の、浴衣脱がせてるとき……カメラの音がしてたから……撮ってたのかなって……」

 雲雀くんの爪先が方向を変える。縁側に戻ったかと思うと、ゆっくりと体を下ろされた。

「あ、あの、でも、勘違いかも……ピースしないとワカンにならないって言って、でも私が何もしないから後でいいとか……」

 雲雀くんが無言で(きびす)を返し、倒れている2人のほうへ向かおうとしたとき。

「うっわ、(むご)いことするねえ」

 地面を踏みしめる音がしたかと思うと、雲雀くんが近づくより先に、誰かが倒れている1人の隣に立った。誰か──いや、その声を知っていた──新庄だ。

 花火と月頼りの薄暗い中に、新庄が、不気味(ぶきみ)な笑みを浮かべて立っていた。その顔を見た瞬間、背中が背後の壁にぶつかった。顔を見た瞬間、無意識に後ずさりしてしまったらしい。カタカタと手も震えていた。
 その私の状態に、気付いているに違いなく、新庄は笑みを浮かべる。

「やーっほう、三国ちゃん。いい恰好してるねえ」

 ギュッ、と胸元の(えり)を両手で掴んで、守るように引っ張った。“いい恰好”が何を意味するのかくらい、私にさえ分かる。
 ざり、と雲雀くんの足が半歩右に動いた。新庄の顔は、雲雀くんの背で見えなくなった。

「……コイツら、お前の差し金か?」
「んー? うん、まあ俺といえば俺なのかなあ」

 雲雀くんの向こう側で、新庄の足が、まるで死体でも扱うように、倒れている1人を蹴って転がすのが見えた。

「あーあ、鼻、折れてんじゃん。鼻折られんのってマジ痛いんだよ? 麻酔もなにもなくてゴキッとそのまま直すからねえ」
「……ソイツから離れろよ」
「なに? ああ、もしかして、これが欲しい?」

 新庄が(かが)み、何かを探って拾い上げるのが見えた。ぷらぷらと、その手が何かを揺らす。デジカメだ。
 それは、あまりにも周到であったことを示す道具だった。ゾクリと全身が再び総毛立つ。真夏の夜なのに、まるで寒気でも感じているように体が震えた。

「欲しいってことは、まあまあ撮れてんのかなあ」