ぼくらは群青を探している

 その理由は知らない。知らないけど、もしかしたら、もしかして、先輩達が私を“大好き”に見えるのは、“大好き”なんじゃなくて、蛍さんから聞いて、最初から「三国英凜」を知っているから?
 だって、蛍さんが私を気に入っているという事実を気に掛けるのは、能勢さんを初めとした2年生とか、桜井くん達ばかりで、3年生は誰も「なんでそんなに蛍に好かれてるの」なんて言わない。九十三先輩にいたっては「ま、特別なんだよ、特別」なんて形容した。
 パズルの絵はまだ見えない。まだ見えない、けど、大事なピースを貰った。

「俺らの代の群青って、ただの喧嘩屋だったんだけどなあ」

 ただ、そのパズルの完成をここで急いても意味はない。そっと、陽菜に身を寄せながら、その2人を見上げる。

「……蛍さんの1個上のOBさん、ですか?」
「そうそう、去年卒業したばっか」
「てか君は? なんのワケアリ?」
「……親がいない」
「あー、なんかそういう感じする。大丈夫、寂しくない?」

 ポン、と煙草を挟んだままの指が肩に乗った。私の肩の骨を丸ごと包み込めるくらい大きな手だった。その指の間で、ジジ、と煙草が燃える。いつかの新庄の手と、同じだった。

「……先輩達の名前、聞いてないですけど」
「あー、そだね、俺は山田で、こっちが豊津(とよつ)
「……下の名前は?」
「ん? ケータと、トールだけど」

 それがどうかした? 群青のOBだというその2人は歯を見せて笑った。私の肩に乗っていた手は再びその人の口元に戻った。
 ケイタとトオル。山田慶太、山田啓大、山田敬汰。とよつ、豊津。豊津亨、豊津徹、豊津透……。音で聞いた2人の名前を何パターンかの漢字に変換する。

「……先輩達、この間のOB会に来てくださらなかったんですか。夏休みに入る前、7月の2週目くらい」
「もしかしてなんか疑ってる?」OB会で見てないし名前も聞いた覚えがない、そう言われたと思ったらしく「ごめんね、そんとき普通に仕事だったからさ、抜けられなかったん──」
「え、ちょっ──」

 陽菜の腕を掴んで、隣にいたカップルにぶつかりながらその背中に隠れた。

「チッ、オイ!」

 怒号を背に、そのまま、参道を埋め尽くす人の中に飛び込むように駆け出す。同じ下駄(げた)とはいえ、背後の陽菜も(つまづ)いたり転んだりする気配はない。陽菜の運動神経に感謝だ。

「なに、どうしたの英凜!」
「あれ嘘! 7月2週目って、蛍さんが勉強会やってたときだから、現役が顔出すようなOB会なんて絶対やってない!」

 浴衣の中に(まぎ)れるために、できるだけ人込みの真ん中にもぐりこんだ。迷惑そうな顔をされるので「すみません、すみません」と謝りながら、人の波に逆らわず、ただ着実に追い越してさっきの2人から逃れる。背後の陽菜は「マジ?」と少し(あせ)った声を出した。

「でも分かんなくない、終わった後にやってたのかも」
「卒業1年目の群青の先輩にヤマダケイタとトヨツトオルはいない」
「はあ? なんでお前がそんなこと知ってんの」

 勉強会の初日、九十三(つくみ)先輩が「集金に使った」と言って渡してくれた名簿は、しわくちゃで少し古かった。几帳面(きちょうめん)にパソコンで作られた名簿だった。ご丁寧に学年も書いてあった。そして、蛍さん達の名前は「2年」と書かれた紙に並んでいた。