「なんでこんなに話が合わない私のことを好きだなんて言ったんだろうって。それってなにかの勘違いなんじゃないのかな」
私にとって、笹部くんは会話を続けるのが大変な人の一人だった。私は、笹部くんが発するセリフの中から、私が会話を広げることのできるキーワードを探さなければならなかった。笹部くんが視界に入ったとき、そしてすれ違うことが予想されるとき、笹部くんが過去に発したセリフの中から笹部くんが興味を持つものを見つけて、それと関連する話題を記憶の中から見つけ出して口に出さなければならなかった。笹部くんのセリフの前後の文脈からその発言の意図を一生懸命探して、論理的に正しい続きを考えなければならなかった。
それが、笹部くんにとっては“話が合う”ということだったのだろうか。もしそうだとしたら、私にとって、それは「会話を上手にすることができた」以上の意味はなかったけれど、笹部くんにとってはそうではなかったのだろうか。私にはさっぱり分からない。
「私と笹部くんは何一つ“合う”ものがあった記憶はないんだけど、笹部くんは何か一つでも“合う”って勘違いから突っ走って間違って好きだと思い込んでたんじゃないのかな」
「……英凜」
思ったままを口に出した私に、陽菜は2年前と全く同じ、半分呆れ、半分怒った顔と声をしていた。
「お前、本当にそれだけは笹部に言うなよ」
「なんで? 笹部くんも間違ってたって気づいたほうが先に進めていいんじゃない?」
「いやいやいや、好きな女に自分の感情否定されるとかマジ死ぬでしょ」
別に否定しているわけではない。勘違いが行き過ぎた結果なんじゃないかと言いたいだけだ。
「たとえばさあ、英凜、お前が桜井のこと好きだとするじゃん?」
「……? うん?」
あの桜井くんにライクではなくラブの感情か……。イメージはできないけど、仮定の話なのでよしとしよう。
「で、桜井に告白したときにさ、桜井に『俺が笹部にクソダセェって言ったのでキュンてしてそのまま勘違いした恋じゃね?』って言われたらどうだよ」
「まあそうなのかもしれないなと」
「素直か! しかもそうじゃねえよ! ショックじゃないかって聞いてんだよ!」
「仮定の話だからそれはちょっと」
「お前ーっ」
陽菜は苦々しい顔で「本当にお前は! お前はロボットか!」ダンダンとわざとらしく地団駄まで踏む。
「だからあ、言いたかったのは、笹部をフッたのはさあ、お前が好きじゃないって言うから仕方ないけど、笹部が本気じゃないとか勘違いだったとか言うのはやめてやれよって話だよ。言うとしたらそれは笹部で、そんで私らが笹部はフラれたからって本気じゃなかったって言ってやがる、ダセェなって言うんだよ」
うーん、と腕を組んでまでして考え込んだ。そういうものだろうか。笹部くんが「本気じゃなかった」と言う抽象的な可能性があるのなら、そして自分から言ってしまうとダサイなんて誹りを免れないのなら、他人に「笹部も本気で告白したわけじゃない」と言ってもらったほうが自尊心は守れるのではないだろうか。
分からない。うーん、と首を捻っていると「……ま、お前はそういうヤツだけどさ」と陽菜のほうが先に諦めた。
「とりあえず今日のところは桜井が意外とイケメンだった。以上!」
「クッソダセェって?」
「あれを特別科の、しかも野球部でイケメンランキング2位の笹部に言えるのがカッコよくね? ほら、灰桜高校ってなんやかんや普通科がバカにされるとこあるじゃん」
私にとって、笹部くんは会話を続けるのが大変な人の一人だった。私は、笹部くんが発するセリフの中から、私が会話を広げることのできるキーワードを探さなければならなかった。笹部くんが視界に入ったとき、そしてすれ違うことが予想されるとき、笹部くんが過去に発したセリフの中から笹部くんが興味を持つものを見つけて、それと関連する話題を記憶の中から見つけ出して口に出さなければならなかった。笹部くんのセリフの前後の文脈からその発言の意図を一生懸命探して、論理的に正しい続きを考えなければならなかった。
それが、笹部くんにとっては“話が合う”ということだったのだろうか。もしそうだとしたら、私にとって、それは「会話を上手にすることができた」以上の意味はなかったけれど、笹部くんにとってはそうではなかったのだろうか。私にはさっぱり分からない。
「私と笹部くんは何一つ“合う”ものがあった記憶はないんだけど、笹部くんは何か一つでも“合う”って勘違いから突っ走って間違って好きだと思い込んでたんじゃないのかな」
「……英凜」
思ったままを口に出した私に、陽菜は2年前と全く同じ、半分呆れ、半分怒った顔と声をしていた。
「お前、本当にそれだけは笹部に言うなよ」
「なんで? 笹部くんも間違ってたって気づいたほうが先に進めていいんじゃない?」
「いやいやいや、好きな女に自分の感情否定されるとかマジ死ぬでしょ」
別に否定しているわけではない。勘違いが行き過ぎた結果なんじゃないかと言いたいだけだ。
「たとえばさあ、英凜、お前が桜井のこと好きだとするじゃん?」
「……? うん?」
あの桜井くんにライクではなくラブの感情か……。イメージはできないけど、仮定の話なのでよしとしよう。
「で、桜井に告白したときにさ、桜井に『俺が笹部にクソダセェって言ったのでキュンてしてそのまま勘違いした恋じゃね?』って言われたらどうだよ」
「まあそうなのかもしれないなと」
「素直か! しかもそうじゃねえよ! ショックじゃないかって聞いてんだよ!」
「仮定の話だからそれはちょっと」
「お前ーっ」
陽菜は苦々しい顔で「本当にお前は! お前はロボットか!」ダンダンとわざとらしく地団駄まで踏む。
「だからあ、言いたかったのは、笹部をフッたのはさあ、お前が好きじゃないって言うから仕方ないけど、笹部が本気じゃないとか勘違いだったとか言うのはやめてやれよって話だよ。言うとしたらそれは笹部で、そんで私らが笹部はフラれたからって本気じゃなかったって言ってやがる、ダセェなって言うんだよ」
うーん、と腕を組んでまでして考え込んだ。そういうものだろうか。笹部くんが「本気じゃなかった」と言う抽象的な可能性があるのなら、そして自分から言ってしまうとダサイなんて誹りを免れないのなら、他人に「笹部も本気で告白したわけじゃない」と言ってもらったほうが自尊心は守れるのではないだろうか。
分からない。うーん、と首を捻っていると「……ま、お前はそういうヤツだけどさ」と陽菜のほうが先に諦めた。
「とりあえず今日のところは桜井が意外とイケメンだった。以上!」
「クッソダセェって?」
「あれを特別科の、しかも野球部でイケメンランキング2位の笹部に言えるのがカッコよくね? ほら、灰桜高校ってなんやかんや普通科がバカにされるとこあるじゃん」



