ぼくらは群青を探している

「能勢さんの色気は一生かかっても出せない気がする、マジで」

 九十三先輩からのメールには「こっちは永人と芳喜とその他。三国ちゃんたちどこ?」とも書かれているので、先輩に位置情報を送るべく辺りの目印を探す。駅から見て紅鳶神社の手前、チョコバナナと輪投げの屋台がある。

「……こんなところで合流もなにもできないよね」
「ツクミン先輩? いんじゃね、花火の場所決めてから連絡すれば」

 花火の場所が決まってから連絡します、いまは紅鳶神社手前です、と返事をしてカゴ巾着に携帯電話を戻した。

「てか花火の前にトイレ行こ、神社の休憩所みたいなとこが綺麗だからそこで」
「いいけど、そこ混んでね?」
「でも綺麗なんだってば」

 紅鳶神社は少し高台にあるので、境内は花火を見ようとする人で(あふ)れていた。2人が社務所の屋根にのぼろうとする気持ちも分からなくはない。
 そして神社が開放している休憩所は桜井くんの懸念(けねん)どおり激混みで、しかもありがちに女の列は男の列の3倍はある。

「男のほうが早いだろ、待っててー」
「おっけー、多分外いる」

 2人と離れた後、陽菜は「いやー、さっきの桜井、カッコよかったなあ」としみじみと呟いた。

「さっきのって、笹部くんへのアレ?」
「うん」陽菜は桜井くんの仕草の真似をして「惚れた女に振り向いてもらいからってちょっかいかけんのクソダセェってヤツ」

 厳密には違う言葉だったけれど、陽菜にとっては趣旨が同じであれば同じことなのだろう。

「……まあ笹部くんも昔の話だと思ってるとは思うから、ちょっと可哀想かなとは思ったけど」
「そーかぁ? だって桜井に向かって、英凜と付き合ってんのかとかなんとか言ってたんだろ? 胡桃ちゃんがいないならまだしもさあ、あんだけ桜井と噂がある胡桃ちゃんがあの場にいて、それを差し置いて英凜と付き合ってるのか聞くのって、デートなのかどうか聞きたがったんじゃね?」
「……確かに胡桃がいる横であの発言は不自然だよね」

 言われてみれば、陽菜の指摘はもっともだ。胡桃と桜井くんに付き合ってるだのそうでないだのの噂があるわけだし、胡桃も私と桜井くんの間に入って写真を撮っていたわけだし。その噂を聞いていると「桜井って胡桃と付き合ってんじゃないの?」と言うほうが自然な気がする。結局は同じことかもしれないけど、言葉として出てくるのが私であるか、胡桃であるかで、意図は微妙に変わる。もしその発言だったとしたら、笹部くんの牽制(けんせい)は対胡桃になるけれど、やっぱり私が引き合いに出ると対私と考えるのが合理的だ。

「笹部くん、胡桃みたいな美少女好きだと思うけどな」
「いや胡桃ちゃんのことはみんな好きだろ」

 それは確かにそうだ。深く頷いた。

「でもさー、恋愛って理屈じゃないからさー。笹部にとっては隣の美少女より中2のときにイケると思ってフラれた英凜のほうが気になるんじゃね? ほら、男は手に入らなかった女のほうが気になるもんだみたいに言うじゃん」
「理解しがたいよね」
「理解しがたい」

 陽菜はゲラゲラと腹を抱えて笑った。

「前もそんなこと言ってたよな、英凜」
「だってほら、笹部くんって、私と話が合わないでしょ? 陽菜が来る前にちょうど会話のミスキャッチボールがあって、やっぱり話が合わないなと思ったんだけど」

 不良と仲良くしてなかったのにいまは仲良くしてるから“変わった”という、その分類と認識と評価の甘さ。その意味では、笹部くんは何も変わってない。