ぼくらは群青を探している

 イケメン……に……? イケメンハードルの高い陽菜が言うのだからきっと笹部くんはイケメンになったのだろうけれど、私から見ていてもそれはよく分からなかった。でもやっぱり笹部くんも言われ慣れているのだろう、その返答は「そこまでじゃない、背伸びて痩せたなみたいなのは言われるけど」と否定はしなかった。
 ただ、私の両脇の2人は「え、あれイケメン? マジ? 永人さんのほうが10センチは低いけど永人さんのほうが10倍イケメンだろ」「雰囲気の問題じゃねーの。なんかデカいヤツ、以上の印象がねー」とボソボソ悪口を言っている。そうだ、悪口だ。何が気に食わないのか分からないけど、この2人からすれば笹部くんはどうにもいけ好かないというヤツらしい。

「てかまだ野球部なんだっけ? そういや笹部が野球部の1年のイケメンランキング2位みたいな話聞いたわ。どんだけイケメンいねーんだよって思ったんだけど」
「ひっでーこと言うんじゃねーよ」
「いやいや思った、だから、過去形だから。なあ英凜!」
「え、なにが? あ、いや、ごめん、聞いてなかったから聞き返したんだけど」

 ブッと両脇の2人が吹き出したので慌てて付け加えた。でもきっと時すでに遅しというやつで、陽菜は珍しくその眉間に皺を寄せて「英凜……お前本当にそいういうところだぞ……」と渋い声をしていた。
 笹部くんの顔もさすがに不機嫌そうだった。それもそうだ、中学2年で告白を無下に断られて以来ろくに話してもいない相手が相変わらず自分に興味を抱いていないなんて腹立たしいだろう。
 腹立たしい……。微妙にニュアンスが違う気がして考え込んだけど、正確なニュアンスは分からなかった。

「三国、マジそういうとこ変わってないよな」でもやっぱり笹部くんの声は腹立たし気で「いい加減直せよ、そうやって空気読めないところ」

 ……笹部くんが言いたいのは、今の私が空気を読めないことではなく、きっと2年前の私が笹部くんの感情を全く察しなかったことだろう。
 でもそんなことを言われたって、分からないものは分からないのだから仕方がない。そして笹部くんは、そんな私を理解(わか)らずに告白したのだから、きっとどっちもどっちだと思うのだ。
 (いわ)れのない(そし)りでも受けた気持ちになって肩を(すく)めたけれど、笹部くんは取り合わず「つか花火の場所取りに行こうぜ」と(きびす)を返した。

「なァ、笹部ェ」

 その背中を桜井くんが引き留めるので驚いてその顔を見上げてしまった。桜井くんは早速雲雀くんから貰ったフライドポテトをまるで(くわ)え煙草のように(かじ)ったまま、その口角を好戦的に吊り上げた。

「イケメンだかなんだか知らねーけど、英凜に振り向いてもらえないからって突っかかるお前、クッソダセェよ」

 なん、だと……。唖然とするあまり、開いた口が(ふさ)がらなかった。
 そんなことを言われた笹部くんの顔は、この微妙な暗がりでも分かるくらい真っ赤に染まった。それを誤魔化すように笹部くんは素早く背を向け、胡桃が顔の前で両手を合わせて「ゴメンネ!」と口パクをしたのを合図に、3人揃って屋台の明るい道に戻ってしまった。

 呆然としている私の両脇では、雲雀くんがポンと桜井くんの肩を叩く。

「よく言った」
「なー、マジでムカつくよな、あの陰気なデカいやつ」
「え、いや、なに……? クッソダセェってなに……?」