もしそれでいいなら、私も、見たものを覚えているのは当たり前で、他人の感情が分かるのはエスパーで、空気は吸うものでしかないと断言して、それで──。
「あれ、昴夜じゃん」
そのとき私達の会話に入ってきたのは、雲雀くんでも陽菜でもなく、胡桃の声だった。
私と桜井くんが揃って声のしたほうを向けば、屋台の列をはずれて、綿菓子片手の胡桃が知らない3人組と一緒にこちらへ歩きながら手を振っていた。いや、知らない3人組と思ったけれど、暗がりで分からなかっただけで、1人は笹部くんだった。
「なんだ胡桃か」
「なんだってなに。なんだあ、昴夜も来てたんだ。侑生の家でゲームでもしてるのかと思った」
「俺のことなんだと思ってんの?」
白地に、オレンジ色と赤色の金魚柄、アクセントに赤色の帯。水紋を模した円にはところどころラメが入っていて、街灯や提灯、月明かりに照らされるたびにキラキラと反射する。普段ツインテールの黒髪はお団子になって、水晶玉のような飾りのついた簪が差してあった。そんな胡桃の浴衣姿は、女子の私でも唖然とするほど綺麗だった。
でも、桜井くんは例によっていつもどおりだ。桜井くんに言わせればみんなどこかおかしいので、やっぱり桜井くんのこういうところはどこかおかしいのかもしれない。
胡桃と桜井くんがそうやって並んでいるのをじっと見ていると、胡桃が私を見てパチパチと何度か瞬きした。
「……え、もしかして英凜?」
「……どうも」
「え、全然気づかなかった! 英凜ってクールに我が道を行くタイプで浴衣とか面倒くさいって思ってそうって思ってたんだけど。浴衣超似合うじゃん、かわいー!」
いや浴衣美少女コンテストグランプリですかみたいな胡桃に言われても……。胡桃は綿菓子を持っていないほうの手で私の肩をポンポン叩いて「どこで買った浴衣? いいなー、あたしもそういう花柄着たい!」と自分の浴衣と対極にある柄を誉めてくれるので、胡桃はやっぱり気遣いが上手くて、いい子だ。
だから、この場での問題は、どちらかというと胡桃の後ろにいる男女3人組のうちの笹部くん……。中学2年の夏以来まともに喋ってないので気づかないふりをしてやり過ごしたかったけど「てか写真撮ろ、あたしデジカメ持ってきた。ねー、笹部、撮ってよ。あ、綿菓子持ってて」胡桃が白羽の矢を立ててしまったのでそうはいかない。笹部くんは「あー、いいけど」とそれほど快くはなさそうに胡桃からカメラを受け取った。
桜井くんはその様子を見ながら「はて……」と意味深に首を傾げるけど、胡桃が「ほらちゃんと近寄って! 写真入んないから!」と私と桜井くんの腕をそれぞれ自分の腕と組むので「胡桃、本当写真好きだよな」とその口から出るのは毒のない悪態に変わった。笹部くんは「行くよー」とこれまた快くはなさそうな声でシャッターを切る。胡桃が「ケータイも!」と続けて頼むので立て続けに2、3枚も写真を撮られてしまった。
「ありがとー」
「……笹部って、どっかで俺と会ったっけ?」
笹部くんからカメラを受け取る胡桃の後ろで、桜井くんが首を傾げている。「笹部」という音にだけ覚えがあって顔に覚えがないから混乱しているのだろう。そして桜井くんが笹部くんの名前を知っている理由はただひとつ、終業式の日に陽菜から私と笹部くんの話を聞いてしまったからだ。
「あれ、昴夜じゃん」
そのとき私達の会話に入ってきたのは、雲雀くんでも陽菜でもなく、胡桃の声だった。
私と桜井くんが揃って声のしたほうを向けば、屋台の列をはずれて、綿菓子片手の胡桃が知らない3人組と一緒にこちらへ歩きながら手を振っていた。いや、知らない3人組と思ったけれど、暗がりで分からなかっただけで、1人は笹部くんだった。
「なんだ胡桃か」
「なんだってなに。なんだあ、昴夜も来てたんだ。侑生の家でゲームでもしてるのかと思った」
「俺のことなんだと思ってんの?」
白地に、オレンジ色と赤色の金魚柄、アクセントに赤色の帯。水紋を模した円にはところどころラメが入っていて、街灯や提灯、月明かりに照らされるたびにキラキラと反射する。普段ツインテールの黒髪はお団子になって、水晶玉のような飾りのついた簪が差してあった。そんな胡桃の浴衣姿は、女子の私でも唖然とするほど綺麗だった。
でも、桜井くんは例によっていつもどおりだ。桜井くんに言わせればみんなどこかおかしいので、やっぱり桜井くんのこういうところはどこかおかしいのかもしれない。
胡桃と桜井くんがそうやって並んでいるのをじっと見ていると、胡桃が私を見てパチパチと何度か瞬きした。
「……え、もしかして英凜?」
「……どうも」
「え、全然気づかなかった! 英凜ってクールに我が道を行くタイプで浴衣とか面倒くさいって思ってそうって思ってたんだけど。浴衣超似合うじゃん、かわいー!」
いや浴衣美少女コンテストグランプリですかみたいな胡桃に言われても……。胡桃は綿菓子を持っていないほうの手で私の肩をポンポン叩いて「どこで買った浴衣? いいなー、あたしもそういう花柄着たい!」と自分の浴衣と対極にある柄を誉めてくれるので、胡桃はやっぱり気遣いが上手くて、いい子だ。
だから、この場での問題は、どちらかというと胡桃の後ろにいる男女3人組のうちの笹部くん……。中学2年の夏以来まともに喋ってないので気づかないふりをしてやり過ごしたかったけど「てか写真撮ろ、あたしデジカメ持ってきた。ねー、笹部、撮ってよ。あ、綿菓子持ってて」胡桃が白羽の矢を立ててしまったのでそうはいかない。笹部くんは「あー、いいけど」とそれほど快くはなさそうに胡桃からカメラを受け取った。
桜井くんはその様子を見ながら「はて……」と意味深に首を傾げるけど、胡桃が「ほらちゃんと近寄って! 写真入んないから!」と私と桜井くんの腕をそれぞれ自分の腕と組むので「胡桃、本当写真好きだよな」とその口から出るのは毒のない悪態に変わった。笹部くんは「行くよー」とこれまた快くはなさそうな声でシャッターを切る。胡桃が「ケータイも!」と続けて頼むので立て続けに2、3枚も写真を撮られてしまった。
「ありがとー」
「……笹部って、どっかで俺と会ったっけ?」
笹部くんからカメラを受け取る胡桃の後ろで、桜井くんが首を傾げている。「笹部」という音にだけ覚えがあって顔に覚えがないから混乱しているのだろう。そして桜井くんが笹部くんの名前を知っている理由はただひとつ、終業式の日に陽菜から私と笹部くんの話を聞いてしまったからだ。



