ぼくらは群青を探している

 でも、雲雀くんもお父さんの側に残りつつお母さんに会いに行くくらいだし、親子仲は悪くはないんだろうけどな……。そこはなんとも分からないところだ、と焼きそばに口をつけながら考えていると、視界の隅で桜井くんが片頬を膨らませて変な顔をした。

「……どうしたの」
「……いや、英凜のいう両親が心配した結果ってなんだろうって思って」
「ああ、私も結局言ってないんだっけ」そういえばこの間の勉強会では最後まで話さず(じま)いだったと思い出しながら「私のアンバランスな性質を両親が心配して、育て方とか環境の問題かって色々考えた結果、田舎のおばあちゃんの家のほうがいいんじゃないかって思ったってだけの話」
「アンバランスな性質?」
「うん。知能の遅れが全くないのに、極端に他人への配慮とか共感性が欠けてるところ」

 ただ、IQテストをした専門家にによれば「病名がつくほどのものでは全くない」。|ただ(・・)、それは裏を返せば、病名はつかないが、その病名がつく性質に近いものがあることは否定できないということだ。
 それこそ、このアンバランスな性質のお陰で今でもあのIQテストの結果を思い出せる。まるで折れ線グラフのようにズタズタでアンバランスな結果。あんな結果は、きっと|普通(・・)は出ない。
 桜井くんは「ふーん」と返事をしながら焼きそばを受け取る。

「別に、英凜がそうだとは思ったことないけどな。んなこと言ったら、多田(ただ)とかのほうがよっぽどおかしくね? アイツ、昼休みに急に喚きだしたりするじゃん」

 桜井くんのいうとおり、|多田くん(そのクラスメイト)は急に喚きだす。急にとは何かといわれても説明がつかないくらい、急に。友達とお昼ご飯を食べている途中にヒートアップして、よく分からないことを喚いている。桜井くんにいわせれば、そのほうがよっぽどおかしいらしい。

「ま、誰だってちょっとくらいおかしいもんだろ。俺とか侑生だってそうじゃん」
「……そう?」
「ちっちゃい頃はハーフでおかしいってよく言われたって話したじゃん? 今そんなこと言うヤツいないけどさ、それって結局ハーフがどんなもんなのかみんな知ってるから、物珍しいけどおかしくはないみたいな感じになってきただけで。侑生だって、あのピアス、小学生の頃から開けてんだから。頭おかしいってよく言われてた。中学になったら開けるヤツいるから、今はなんも言われねーけど」

 なんなら俺の髪の色はずっと|おか(・・)|しい(・・)し、なんて言いながら桜井くんは前髪をつまみあげた。「あ、これ地毛だ」なんてピンと引っ張って見せる髪色は、私からは見えないけど、きっと栗色なのだろう。

「今だって、俺がなんでもかんでも忘れるのは侑生と英凜に言わせればおかしいじゃん? 侑生だって、あんなに頭いいのに俺らとつるんでるなんて頭おかしいぜ。永人さんだってあのロン毛おかしいだろ。ツクミン先輩だって英凜にパンツの話しかしないの頭おかしくね? 能勢さんだって、家クソ金持ちでクソ頭いいのに学校の屋上で平気で煙草吹かすくらい頭おかしいし。みんな自分が一番普通だと思ってるし、それと違う他人なんてどっかおかしいんだから、別に英凜ばっかおかしいなんて卑屈(ひくつ)になんなくたっていいじゃん?」

 みんなどっかおかしい、本当にそうなのだろうか。みんな自分が一番普通だと思ってる、本当にそれでいいのだろうか。それは平均とか凡庸(ぼんよう)という意味ではなくて、何も異常なところなんてない普通の人だという意味だと考えて、本当にそれで、いいのだろうか。