「……昴夜、はいるな。池田は見えねーけど、ケータイ持ってるからいいか」
ロボットのように自動的に歩き出してしまった私の隣では冷静な声が聞こえる。雲雀くん、女の子というものの物理的扱いに慣れてるな……。電車内で照れているように見えたのは人の熱気で頬が上気していただけだろう。私だけ緊張して、馬鹿みたいだ。
「……そうだね。はぐれたら改札って話といたし」
人混みのせいで肩と腕が触れる。熱を感じる。声が近い。そのどれもが私の体の熱を上げる。
なにか話をしないと、この奇妙な熱に浮かされてどうにかなってしまいそうだ。とりあえず口を開いて、なにも話題が見つからなくて一度閉じて、こじつけのような連想をしてやっと話題を見つける。
「……そういえば、さすがに妹さんとお祭りに来たりしないの?」
「ん? ああ……」
桜井くんがよく口にするシスコンネタで場がほぐれればいい、くらいのつもりだったのだけれど、雲雀くんは予想に反して少し口籠った。
「……三国に言ってないんだっけ」
「なにが?」
「……離婚して、母親が妹連れて出てってんだ。だから今は一緒には住んでない」
……思いもよらぬ回答に、顔に上っていた熱は急激に氷点下まで落ちたし、なんなら頭のてっぺんから爪先まで凍りついてしまった。全く知らなかった。最悪だ。ついでに雲雀くんが家で「母親似」と答えたときの微妙な表情の説明がついてしまった。離婚して出て行った母親に似てるなんてどんな気持ちなのか、私にはさっぱり分からないけど複雑には違いない。なんなら、離婚の理由は知らないけれど、もしかしたらそれが父親か雲雀家との確執の原因だったりするのでは……。
とんでもない地雷を踏んだ自分を恥じた。片足が吹っ飛んでも文句は言えない。
「……ごめん……」
「別に、3年くらい前の話だし」
言いながらも、雲雀くんは視線を虚空に彷徨わせた。口にした記憶のせいでなにかを感じたのだろう。それが何なのか、私には分からないけど。
「でも盆明けは母親の実家行くし、長期休みはたまに会ってる。妹と母親が来たら、仕事の都合も泊まるところも面倒で、俺が行くほうが楽だから」
「……そっか」
どうしよう、この話、どう収拾をつけよう。収拾というか……話題の転換……? 本当に最悪だ、こういうことにならないために人の情報を常に整理しているのに。
「つか昴夜は俺をシスコンって言うけど、離れて住んでるからメールするってだけ。別に家にいたらしない」
「妹さんケータイ持ってるの?」
そこじゃない、そこじゃないぞ私。地雷を踏んだ狼狽のあまり会話のための思考が上手く回っていない。でも雲雀くんは「母親の借りて打ってくる」と律儀に返事をくれた。本当に私は最悪だ。
結局この状況をどうすれば──なんて惑っていると「ゆーき、えりー」と背後から桜井くんが追い付いてきた。救世主だ。
ほっと安堵するのと同時に、スタッと、まるで空から降ってきて着地でもしたかのような足取りで、桜井くんは私の隣に並んだ。甚平には気持ち皺が寄っている。
「もー、人多すぎ。池田は?」
「電車乗った時点で行方不明だった。お前が見失ったなら知らね」
「あ、メール来てた。改札前で合流しようって」
「あぶねー、俺はぐれなくてよかった。ケータイないから合流できない」
「お前は置いて行くから安心しろ」
「だからあぶねーって言ったんだよ」
ロボットのように自動的に歩き出してしまった私の隣では冷静な声が聞こえる。雲雀くん、女の子というものの物理的扱いに慣れてるな……。電車内で照れているように見えたのは人の熱気で頬が上気していただけだろう。私だけ緊張して、馬鹿みたいだ。
「……そうだね。はぐれたら改札って話といたし」
人混みのせいで肩と腕が触れる。熱を感じる。声が近い。そのどれもが私の体の熱を上げる。
なにか話をしないと、この奇妙な熱に浮かされてどうにかなってしまいそうだ。とりあえず口を開いて、なにも話題が見つからなくて一度閉じて、こじつけのような連想をしてやっと話題を見つける。
「……そういえば、さすがに妹さんとお祭りに来たりしないの?」
「ん? ああ……」
桜井くんがよく口にするシスコンネタで場がほぐれればいい、くらいのつもりだったのだけれど、雲雀くんは予想に反して少し口籠った。
「……三国に言ってないんだっけ」
「なにが?」
「……離婚して、母親が妹連れて出てってんだ。だから今は一緒には住んでない」
……思いもよらぬ回答に、顔に上っていた熱は急激に氷点下まで落ちたし、なんなら頭のてっぺんから爪先まで凍りついてしまった。全く知らなかった。最悪だ。ついでに雲雀くんが家で「母親似」と答えたときの微妙な表情の説明がついてしまった。離婚して出て行った母親に似てるなんてどんな気持ちなのか、私にはさっぱり分からないけど複雑には違いない。なんなら、離婚の理由は知らないけれど、もしかしたらそれが父親か雲雀家との確執の原因だったりするのでは……。
とんでもない地雷を踏んだ自分を恥じた。片足が吹っ飛んでも文句は言えない。
「……ごめん……」
「別に、3年くらい前の話だし」
言いながらも、雲雀くんは視線を虚空に彷徨わせた。口にした記憶のせいでなにかを感じたのだろう。それが何なのか、私には分からないけど。
「でも盆明けは母親の実家行くし、長期休みはたまに会ってる。妹と母親が来たら、仕事の都合も泊まるところも面倒で、俺が行くほうが楽だから」
「……そっか」
どうしよう、この話、どう収拾をつけよう。収拾というか……話題の転換……? 本当に最悪だ、こういうことにならないために人の情報を常に整理しているのに。
「つか昴夜は俺をシスコンって言うけど、離れて住んでるからメールするってだけ。別に家にいたらしない」
「妹さんケータイ持ってるの?」
そこじゃない、そこじゃないぞ私。地雷を踏んだ狼狽のあまり会話のための思考が上手く回っていない。でも雲雀くんは「母親の借りて打ってくる」と律儀に返事をくれた。本当に私は最悪だ。
結局この状況をどうすれば──なんて惑っていると「ゆーき、えりー」と背後から桜井くんが追い付いてきた。救世主だ。
ほっと安堵するのと同時に、スタッと、まるで空から降ってきて着地でもしたかのような足取りで、桜井くんは私の隣に並んだ。甚平には気持ち皺が寄っている。
「もー、人多すぎ。池田は?」
「電車乗った時点で行方不明だった。お前が見失ったなら知らね」
「あ、メール来てた。改札前で合流しようって」
「あぶねー、俺はぐれなくてよかった。ケータイないから合流できない」
「お前は置いて行くから安心しろ」
「だからあぶねーって言ったんだよ」



