ぼくらは群青を探している

 でも、雲雀くんの体温を身近に感じるのはやっぱり緊張する。密着こそしていないものの、(ちまた)でみる恋人のように体を近づけている私達は、(はた)からどう見えているのだろう。考えていると頭に熱が上ってきたので、もう一度深呼吸して心を落ち着かせる努力をする。
 でも、どうやら無駄なようだ。浴衣とティシャツが触れ合いそうなほど近い距離は離れる気配がない。これで平然としていろというほうが無理な話だ。顔の熱も引く気配はない。きっといまの私の顔は真っ赤だろう。

「……さっきの話だけど」

 さっきより一層近いところから声が降ってきたので、また心臓が跳ねた。しかも見上げた先の雲雀くんの頬までほんのり赤い。

「……まあ、もともと群青と深緋って仲悪いんだけど、深緋が蛍さんのことをかなり(けむ)たがってて。今年の深緋は1年もまあまあ力あるヤツが揃ってるから、蛍さんが前面に出てる間にメンツ含めて潰しときたいんじゃないかって」

 照れたように顔を赤くするのも、早口で(まく)し立てるのも、雲雀くんらしくなかった。まるで雲雀くんまで緊張しているみたいだ。

「……深緋のトップの人って、蛍さんみたいじゃないって言ってたよね」

 緊張を誤魔化すために喋ったけれど、無駄だったどころか逆に墓穴を掘った。喋り出した自分の声が妙に硬い。

山崎(やまざき)な。深緋のトップっぽい外道だよ。引くほどガタイが良いから、蛍さんが普通にやったら負けんじゃね」
「それって……」
「群青はタイマン吹っ掛けまくるチームじゃないのは、まあ蛍さんの体格もあんのかな。タイマン吹っ掛けられたら蛍さんだと勝てなさそうだな……」
「タイマンってなに?」
「一対一」

 それはマンツーマンなんじゃないかと思ったけど、マン対マンから派生したと言われたら納得するような気もした。

「……わざわざ準備して一対一で喧嘩するってこと?」
「部活の団体戦とかあるだろ、ああいうイメージ」

 頭の中にはテニスとかの個人競技がチームの勝利に結び付けられる形で行われる試合形式が思い浮かんだ。このイメージで正しいとしたらだいぶおかしい図なのだけれど、そういうことなのだろうか……。

「それは……なんのためにやるの」
「トラブったときに手打ちにする落とし所みたいなもんが見つからなくて、タイマン勝負で負けたほうが解散するとか。滅多にないけどな」
「……なんか最後の手段って感じあるね」
「本当に滅多にないからな。基本衝突するまで喧嘩なんかやんねーよ」

 そうこうしているうちに電車が停車した。が、ただ停車しただけならなんともなかったはずだけれど、乗っている人の量が量だ、隣の人に押されて法則以上に傾けば、ドン、と雲雀くんに体を預ける形になり、胸に飛び込んでしまった。
 ……これは、非常にまずい。浴衣とティシャツ越しに伝わる体温と感触に体がびっくりしているのを感じる。しかもそんな状態は簡単に俯瞰(ふかん)できてしまい、頭の中に浮かんだ光景で、ボッと火でもつけられたように顔が発熱した。今の私は、まさしくゆでだこのように真っ赤な顔をしているのだろう。

「(紅鳶神社、紅鳶神社です。お降りの方は──)」

 そんな私の気など知るわけもなく、電車は淡々とアナウンスしながら扉を開く。今度は外に出ようとする人の波に押し出される羽目になり、雲雀くんに抱きかかえられるようにして電車から降りた。というか、正直、自分がどうやって電車から降りたのか分からなかった。雲雀くんに肩を抱かれた感触しかない。