そう感じたせいで、自分が緊張していたことに気が付いた。そうか、この間のことといい、雲雀くんの近くにいるとき、私は緊張しているのか。原因はきっと雲雀くんほど身近な男子がいないからだ。それが何を意味するのかは、また別として。
「そういえば、九十三先輩からメールがきてた。補習終わったら合流しようって」
「やだよ面倒くせ」
雲雀くんならそう一蹴するとは思っていた。でもきっといざ九十三先輩が出てきてもイヤな顔をするだけで胡桃相手にするように無視したりはしないだろう。
「大体、そんな遅くまで補習やってんの?」
「補習は4時で終わるけど補習の課題が終わらないんだって」
「そういうの計画的にやんねーから補習になるんだよ、あの人」
「群青の先輩みんなそうらしいよ」
言いながら、普通科5位以内常連だという蛍さんのことが脳裏に過った。蛍さんはきっと補習ではないのだろう。つまり他の先輩達が補習に出ている間、自由な時間がある、そしてそれは能勢さんも同じく──なんて考えてしまって、かぶりを振った。あの2人の先輩のことは、現時点ではいくら疑っても答えなどでない。
雲雀くんはそんな私の様子には気づかず「……本当にどうしようもねー先輩共だな」と嘆息した。これ以上先輩達の話題が続くのは気まずい。
「……そういえば桜井くんは補習ないんだっけ?」
「三国のお陰でな。前日にヤマハリしてやんなかったら、アイツまた古典赤点だったろ」
そう、桜井くんは試験前日も家に来ていた。桜井くんの家と私の家とは全く別の方向にあって遠いので、来る暇があるなら勉強をしたほうがいいのではないかと思ったけど、桜井くんは一人だと勉強をしないらしい。うだうだと言いながら夕飯まで食べて帰った。ちなみに雲雀くんも同じく。雲雀くんは桜井くんの保護者然としている。
「そういや、三国は能勢さん達から聞いてんの」
「え、なにを?」
話題を変えた瞬間に戻って来た、挙句最も怪しい能勢さんの名前に素っ頓狂な声が出てしまった。お陰で雲雀くんの目はぱちくりと瞬きして「……深緋ががきな臭いって話。どうかしたか」終業式の日に先輩達が話していたことをそのまま繰り返す。なんだ、そんなことか……。
「ううん、何も……。結局何の話だったの?」
「大した話じゃないといえばそうなんだけどな、簡単にいうと深緋が群青を潰したいって話だった」
その話に反応するより早く、一駅分移動した電車が一度止まり、慣性の法則に従ってガクンと体が傾く。幸いにも反対側の扉が開いたので、私が電車からはじき出されることはなかった。
ただ、代わりに雲雀くんがドンッともう一方の手を扉についた。途端、ふわりとミントの香りがして、ドキリと心臓が跳ねた。人が多くて蒸し暑い電車内にそぐわない、清涼感のある香りだ。
この距離で、この香りがするということは、雲雀くんの香りに違いない。しかも今の人の波のせいで、扉を背にまるで雲雀くんに追いつめられているかのような図が完全に出来上がってしまった。
お陰で言葉に窮した。雲雀くんも同じだったのだろう。両手を私の頭上についたまま、眉間に深く皺を刻み、珍しく本当に申し訳なさそうな顔をしていた。珍しいというか、多分見たことがない。
「……本当に悪い」
「……仕方ないからいいって」
「そういえば、九十三先輩からメールがきてた。補習終わったら合流しようって」
「やだよ面倒くせ」
雲雀くんならそう一蹴するとは思っていた。でもきっといざ九十三先輩が出てきてもイヤな顔をするだけで胡桃相手にするように無視したりはしないだろう。
「大体、そんな遅くまで補習やってんの?」
「補習は4時で終わるけど補習の課題が終わらないんだって」
「そういうの計画的にやんねーから補習になるんだよ、あの人」
「群青の先輩みんなそうらしいよ」
言いながら、普通科5位以内常連だという蛍さんのことが脳裏に過った。蛍さんはきっと補習ではないのだろう。つまり他の先輩達が補習に出ている間、自由な時間がある、そしてそれは能勢さんも同じく──なんて考えてしまって、かぶりを振った。あの2人の先輩のことは、現時点ではいくら疑っても答えなどでない。
雲雀くんはそんな私の様子には気づかず「……本当にどうしようもねー先輩共だな」と嘆息した。これ以上先輩達の話題が続くのは気まずい。
「……そういえば桜井くんは補習ないんだっけ?」
「三国のお陰でな。前日にヤマハリしてやんなかったら、アイツまた古典赤点だったろ」
そう、桜井くんは試験前日も家に来ていた。桜井くんの家と私の家とは全く別の方向にあって遠いので、来る暇があるなら勉強をしたほうがいいのではないかと思ったけど、桜井くんは一人だと勉強をしないらしい。うだうだと言いながら夕飯まで食べて帰った。ちなみに雲雀くんも同じく。雲雀くんは桜井くんの保護者然としている。
「そういや、三国は能勢さん達から聞いてんの」
「え、なにを?」
話題を変えた瞬間に戻って来た、挙句最も怪しい能勢さんの名前に素っ頓狂な声が出てしまった。お陰で雲雀くんの目はぱちくりと瞬きして「……深緋ががきな臭いって話。どうかしたか」終業式の日に先輩達が話していたことをそのまま繰り返す。なんだ、そんなことか……。
「ううん、何も……。結局何の話だったの?」
「大した話じゃないといえばそうなんだけどな、簡単にいうと深緋が群青を潰したいって話だった」
その話に反応するより早く、一駅分移動した電車が一度止まり、慣性の法則に従ってガクンと体が傾く。幸いにも反対側の扉が開いたので、私が電車からはじき出されることはなかった。
ただ、代わりに雲雀くんがドンッともう一方の手を扉についた。途端、ふわりとミントの香りがして、ドキリと心臓が跳ねた。人が多くて蒸し暑い電車内にそぐわない、清涼感のある香りだ。
この距離で、この香りがするということは、雲雀くんの香りに違いない。しかも今の人の波のせいで、扉を背にまるで雲雀くんに追いつめられているかのような図が完全に出来上がってしまった。
お陰で言葉に窮した。雲雀くんも同じだったのだろう。両手を私の頭上についたまま、眉間に深く皺を刻み、珍しく本当に申し訳なさそうな顔をしていた。珍しいというか、多分見たことがない。
「……本当に悪い」
「……仕方ないからいいって」



