ダサ……いのだろうか。その感覚は分からなかったけど、呼ばれる側の感性の問題といえばそうなので反論するところではない。
そして何より、脳裏にはついこの間桜井くんが口にした理屈が過った。本人からいいと言われているのに頑なに名前で呼ぶのを拒否するのは相手を好きではないし大して仲良くないと考えているから……。私と牧落さんが大して仲良くないのはそうなのだけれど、牧落さんがそれを気に病むとすれば申し訳ない気もした。
「……じゃあ……胡桃……ちゃん?」
「あたし、ちゃん付けされるようなキャラじゃないから! 群青の人達はちゃん付けするけど、あれ後輩女子だからってだけだろうし」
牧落さん──改め胡桃……、は明るく笑いながら「てか昴夜知らない?」今日も桜井くんのことを探している。
やはり牧落さん……、じゃなかった、胡桃は桜井くんのことを好きなのでは……。
「……桜井くんなら教室にいたけど」
「え、嘘。さっき行ったら、侑生に昴夜は英凜とどっか行ったって言われたんだけど」
それこそ嘘……! 胡桃から逃れようとした桜井くんは教卓の中にでも隠れたに違いない。それにしたって、雲雀くんも私に押し付けなくてもいいのに。
「……私は生物教室行ったけど、桜井くんと一緒だったの、教室出るまでだし。帰っちゃったのかな」
おかげで私まで下手くそな嘘を吐く羽目になった。あとで雲雀くんに抗議しなければ。
そしてその嘘のせいで牧落さんが眉を八の字にするものだから、こちらの罪悪感まで煽られる。桜井くん、本当にどうしようもないな……。
「……そういえば、牧──胡桃は、夏祭りはクラスの子と行くんだっけ」
更に下手な話題転換を迫られた。今からその桜井くんとお好み焼きを食べるなんて口が裂けても言えない。
「あー……うん。昴夜から聞いたの?」
「うん。……なんか、誘われないなと思ってたら友達と行くって言われたみたいな」
今度は嘘ではない。正確には「(もしかしたら一緒に行くようにせがまれるかもしれないけど)誘われないなと思って(念のため確認し)たら友達と行くって言われた(から安心した)」だけれど、そんなことを口に出したら私と胡桃の関係に亀裂が入る。
しかも胡桃は「んー、だって昴夜、夏祭り行かなさそうだし。いつもの友達と行けばいいかなって」なんて言い始めるので、また言えないことが増えた。どうやら桜井くんは私達と夏祭りに行くことを話していないらしい。桜井くんと胡桃のことだから私には関係ないのだけれど、私を巻き込むことになるならやめてほしい。
「……そっか」
「てか英凜、そうだ、聞きたかったんだけど」
胡桃はハッとした顔に変わり、ローファを手放すと私の腕を引っ張って壁際に寄った。なんだなんだと目を白黒させていると、コソッ……と耳打ちするように手を口の横に当てる。
「英凜って、昴夜のこと好きだったりする? だったら全然応援するんだけど」
……なに……?
思いもよらぬ内緒話に怪訝な顔をしてしまった。きっと人生史上最大に怪訝な顔をしていると思う。というか、今日はコイバナが多い日だ。夏休みに入ってみんな浮足立っているのかもしれない。
「……えっと……ライクとラブでいえば、ライクだけどラブじゃないみたいな……」
「好きじゃないの? 本当に? 幼馴染に遠慮してない?」
そして何より、脳裏にはついこの間桜井くんが口にした理屈が過った。本人からいいと言われているのに頑なに名前で呼ぶのを拒否するのは相手を好きではないし大して仲良くないと考えているから……。私と牧落さんが大して仲良くないのはそうなのだけれど、牧落さんがそれを気に病むとすれば申し訳ない気もした。
「……じゃあ……胡桃……ちゃん?」
「あたし、ちゃん付けされるようなキャラじゃないから! 群青の人達はちゃん付けするけど、あれ後輩女子だからってだけだろうし」
牧落さん──改め胡桃……、は明るく笑いながら「てか昴夜知らない?」今日も桜井くんのことを探している。
やはり牧落さん……、じゃなかった、胡桃は桜井くんのことを好きなのでは……。
「……桜井くんなら教室にいたけど」
「え、嘘。さっき行ったら、侑生に昴夜は英凜とどっか行ったって言われたんだけど」
それこそ嘘……! 胡桃から逃れようとした桜井くんは教卓の中にでも隠れたに違いない。それにしたって、雲雀くんも私に押し付けなくてもいいのに。
「……私は生物教室行ったけど、桜井くんと一緒だったの、教室出るまでだし。帰っちゃったのかな」
おかげで私まで下手くそな嘘を吐く羽目になった。あとで雲雀くんに抗議しなければ。
そしてその嘘のせいで牧落さんが眉を八の字にするものだから、こちらの罪悪感まで煽られる。桜井くん、本当にどうしようもないな……。
「……そういえば、牧──胡桃は、夏祭りはクラスの子と行くんだっけ」
更に下手な話題転換を迫られた。今からその桜井くんとお好み焼きを食べるなんて口が裂けても言えない。
「あー……うん。昴夜から聞いたの?」
「うん。……なんか、誘われないなと思ってたら友達と行くって言われたみたいな」
今度は嘘ではない。正確には「(もしかしたら一緒に行くようにせがまれるかもしれないけど)誘われないなと思って(念のため確認し)たら友達と行くって言われた(から安心した)」だけれど、そんなことを口に出したら私と胡桃の関係に亀裂が入る。
しかも胡桃は「んー、だって昴夜、夏祭り行かなさそうだし。いつもの友達と行けばいいかなって」なんて言い始めるので、また言えないことが増えた。どうやら桜井くんは私達と夏祭りに行くことを話していないらしい。桜井くんと胡桃のことだから私には関係ないのだけれど、私を巻き込むことになるならやめてほしい。
「……そっか」
「てか英凜、そうだ、聞きたかったんだけど」
胡桃はハッとした顔に変わり、ローファを手放すと私の腕を引っ張って壁際に寄った。なんだなんだと目を白黒させていると、コソッ……と耳打ちするように手を口の横に当てる。
「英凜って、昴夜のこと好きだったりする? だったら全然応援するんだけど」
……なに……?
思いもよらぬ内緒話に怪訝な顔をしてしまった。きっと人生史上最大に怪訝な顔をしていると思う。というか、今日はコイバナが多い日だ。夏休みに入ってみんな浮足立っているのかもしれない。
「……えっと……ライクとラブでいえば、ライクだけどラブじゃないみたいな……」
「好きじゃないの? 本当に? 幼馴染に遠慮してない?」



